1■話 ■■■が■■を■■■
王城にある自分の一室で一人でくつろいでいるルルカ・エリス。彼女はご機嫌な様子で黒を基調に金で煌びやかな装飾、赤いふちの扇子で口元を覆い、不敵な笑みを浮かべている。
「あぁ、全くおかしいわ。みんなみんな私の言いなり、まるで全ては私中心にまわっているようね。」
彼女は王に嫁いで、今の王妃という地位を手に入れていた。
「ふふっ、この調子だと次の戦争も勝てそうね。あの憎たらしい魔族が絶望に染まった顔を見るのがいまから楽しみだわ。」
彼女は羊皮紙になにやら書き込み、部屋を出て従者を探す。
「あら、よいところで会いましたわね。せっかくですのでご一緒にお茶でもしませんか? 」
「ルルカ様、承知致しました。準備しますので、少々お待ち下さい。準備が出来次第部屋にお呼びに行きます。」
「あら、悪いわね。」
ルルカは自室に戻り、お茶会が待ちきれないといった様子でソワソワしているように見える。
「そろそろ、魔族に一度善戦出来ているように見せかけてからこの国の圧倒的な武力で潰そうかしら。」
ルルカは一人の時は魔族との戦争を楽しんでいるような独り言を漏らすが、決してミスはしない。絶対に人に聞かれてないときだけこの本性を表すのだ。
「所詮魔族なんて人間にかなうわけないのよ。あんな野蛮の塊のような生き物が私たちと似た姿をしてるだなんて、不愉快極まりないわ。それに、あん――」
ここで突然ルルカが独り言を辞める。
少しして扉にノックされる。
「ルルカ様、お茶の準備が出来ました。」
「まぁ、ありがとう。それじゃあ行きましょうか。」
ルルカはさっき書き込んでいた羊皮紙を丸めて持ち、お茶会をする場所まで歩いていく。
そして、机・椅子・日傘が全て白で作られている中庭に着く。机の上には紅茶とクッキーでしっかりと準備されている。
「さすがですわね。ささ、早く始めましょう。」
二人は椅子に座り、紅茶に口をつける。それを合図にルルカは持ってきた羊皮紙に従者に見せる。
「今回はこちらを受け入れて欲しいのだけれど、どうかしら? 」
「私にはなんとも言えません。」
その羊皮紙には、
『魔族との戦争に備えて、増税をする。』
と簡潔に書かれている。
しかし、この国は武力に優れていて少なくとも今回の戦争で負けるようなひ弱な国では無いのだ。
ルルカが何かを感じ取ったかのように急に声を上げる。
「護衛たち! 私を護るのよ! 」
「はっ、不意打ちでいつまでそんな自分の小遣い稼ぎをするんだっていうつもりだったんだがな。スキルは気配察知といったところか。」
全て黒で統一した男がゆっくりと空から降りてくる。
ルルカが言ったように、三人の護衛が現れて護るように行動する。
「あー、やっぱ人間っていうか、さすがだな。もっと人数合わせろよな。魔王と勇者のタイマンになるようにしないのかよ。ま、念の為に仲間連れてきてて正解だったな。」
黒い男が言うと空間が歪み、そこから男女が一人ずつ出てくる。
男は赤髪に和服に日本刀と侍のような格好をしている。
女は桃色髪にピンクと水色のドレスを着ている無邪気な少女だ。
ルルカら起きたことにしっかりと理解しようとしているように見える。
「おい。どうやったら自分だけは生き残れるかって顔してるぞ。」
「あら、あなたに何が分かるというのかしら。人数有利は無くなったけれど、それでも私たち人間の護衛よ。そうそう簡単にやられるわけないじゃない。全員生き残れるのに、どうして私が生き残る方法を考えるのかしら。」
「強欲……いや傲慢か。ま、『謙譲』と『救恤』を連れてきてるから、どちらでもいけるか。二人ともいけるな? 」
「無論です。」
「もちろん! 」
黒い男の呼び掛けに、二人はそれぞれ応える。
「さっきから喋らせておいたらペラペラと、俺たち人間様を舐めんじゃねぇ。」
「ったく、人間様人間様ってどれだけ自分の力を過信してるんだ。」
「うっせぇ!」
護衛の一人が黒い男に斬り掛かる。
「別に食らってもいいんだが、温存しとくか。」
護衛の剣は見えない壁にぶつかり、黒い男に届くことは無い。
――突如、その護衛は身体に重いものがのしかかったかのように地面に這いつくばる。
「ちょっとはじっとして見てろ。仲間が完封される様子をな。」
「ねーねー、アンリさまー。あのふたりってもうやっちゃっていいのー? 」
「あぁ、方法は任せるぞ。」
「はーい。じゃあ『けんじょう』いくよー。」
「あの技であろう。心得た。」
その少女は様々な色のほんのりとひかる大きめの丸い球を自身の身体の周りに無数に発生させる。
「『かごめかごめ│零式包囲弾』」
少女はそう呟くと、弾幕をゆっくりと回転する鳥かごのように配置する。その中には護衛の二人が閉じ込められている。
「おにーさんたち。それにさわるとケガするからさわっちゃダメだよー。」
少女は二人に向かって忠告をする。だが、二人は意に介さない様子で軽口で応える。
「忠告ありがとうね。でもお兄さんは強いから、こんなのでは怪我しないんだ。」
そのまま体当たりで突破しようとした一人の身体に弾幕がぶつかった時、肩が消失した。
正しく言えば消失していないのだが、傍から見ると消失しているように見えるのだ。
「あーあ、おにーさんわたしちゃんといったよ。あぶないって。」
この事象を起こした本人である少女はそうなって当然といった様子で先程と何も変わらない口調で言う。
残った鳥かごの護衛はその光景に怯えきってしまって、腰を抜かしている。
「『秘剣:│終の│技:極悪打破の必定両断斬撃!』」
そこに全てを斬り裂く絶対の一振りが襲いかかる。それは謙譲と呼ばれた男の一撃だった。まさに防御不可の一撃必殺。首をスッパリと斬られた護衛は、体力が残るはずもなく (残っていたとしても出血ダメージで体力がなくなる)静かに息絶えている。
「へぇ、これが人間様の力か。すごいな。で、これでも人間が魔族に武力が勝っていると思ってんのか? 人間の長所は別にあるだろ。そこを履き違えるな。まぁ、今更懺悔した所で見逃すつもりはないがな。『│暗黒槍』」
詠唱で威力を高めた魔法の槍がルルカの袖を軽く掠める。
「お前をすぐに殺すつもりはないからな。じっくりと痛めつけて、絶望を感じてやっと妥協点だ。ま、お前がそれで納得するかは知らんが、力ずくで納得させる。」
「ひ、ひぃぃぃぃ」
「『氷結の│絶対零度』」
ルルカの両腕が一気に冷え、結晶ができて皮膚が裂ける。出てきた血は冷えて固まり、まるで花のようになっている。例えるならば紅蓮地獄。
「あ゛あ゛あぁぁ」
あまりの痛みに喉が裂けんばかりに叫ぶ。
「まだまだこんなもんじゃ終わらないぞ。『常闇の沼』」
ルルカの足元に大きく、そして先の見えない程真っ黒な沼が出現する。
ルルカはゆっくりと沈んでいく自分の身体をみて、恐怖のあまり震え出している。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな――」
謝罪の言葉を繰り返すルルカに黒い男は冷酷に言い放つ。
「なに謝ってんだ。今更懺悔しても見逃さないって言っただろ。」
下半身が沈みきったところで沼が地面に戻り、ルルカは上半身だけが地上に出ている状態になっている。
「さぁ、これで終止符だ。『不死鳥の住処』」
辺りに炎が湧いて出てくる。一瞬で焼け野原となった中心に居るルルカは上半身を焼かれて赤い花は溶け、皮膚はただれていく。
あと少しで体力が尽きる。
「なーんてな。」
辺りで燃え盛っていた炎が嘘のように消え、ルルカの顔には安堵が浮かんでいる。
「助かったの? 」
「んなわけあるか。」
ルルカの埋まっているところごと浮かび出す。
空間に空いた穴からは大きな女性の形をした鉄製の人形が出てくる。
人形の前側が開く。中は空洞でたくさんのトゲが見える。
浮いたルルカはその中まで移動する。
「いや、嫌、嫌嫌嫌嫌、いやぁぁぁぁぁ。」
喉が枯れ、掠れた声で泣き叫ぶ。
「フィナーレを飾れ。『聖母マリア』」
開いていた前側が勢いよくバタンと閉じ、ルルカの声が聞こえなくなる。
「お前にはかなり迷惑をかけたな、『純潔』。」
黒い男はルルカの従者であるはずの女性に話しかける。
「いえ、貴方のためなら私はどんなに辛い仕事でも、どれだけたくさんでも迷惑だなんて思いませんよ。アンリ様ぁ。」
「そうは言われてもな……。」
「なら、私と付き合ってくださればそれで充分です。」
「私に、だよな? 重くない意味で考えておくぞ。」
雑談をしながら、黒い男は空間と空間を繋いで魔族領へと戻る。
護衛の中で唯一生き残った這いつくばっていた男は急いで王城に戻る。きっとみんなにここで起きたことを伝えるのだろう。
こいつはそうそうに対処しないと手が付けられないことになりそうだな。




