九話 安心安全の陰キャ生活
呪いの発動をねらってやりたくなってきた。
宿に戻って、昼ごはんを食べて、蒼が銃弾を作って、また採りに行って、晩御飯食べて、寝て起きて、朝ごはん食べて、採りに行って、を三日程続けているうちに、レベルは蒼が15、俺が13になっていた。
なんで俺よりレベルが高いの? やっぱり、倒した本人の方が得られる経験値多いのかな。
なんとか元々あったお金は少し残したまま生活出来ている。
お金に少し余裕があるということで三日に一回は洗濯を、二日に一回は温泉に行くことになった。
そのおかげで蒼に押し倒された時の汚れもバッチリ落ちている。
別に毎日でもええんやで? そんな、二日に一回とかじゃなくても。温泉は人がいないときはリラックスできるからね。
そしてなにより一番は、冒険者としてEランクまで上がった事だ。
Fはどこに行ったの? リストラされたの?
なんか、最近この考え方ばっかりしてる気が……。
だから今日は蒼が魔物の討伐クエに挑んでいる。
俺は安定の留守番である。
仕方がない。だってレベルが上がって多少持ち上げられるようにはなったけど、未だに振り回すとか貧弱な俺には無理だもん。持ち上げるだけで精一杯で戦うなら相手から突っ込んで来るところに、グサッとするしかないし。
そして、時間を持て余している俺は陰キャになっている。
どういうことかと言うと、部屋のベッドに横になって分厚い例の本をひたすらに読んでいる。
集中力が切れたときは、ベッドメークとかぼんやりと窓の外を眺めて 『草原が綺麗だなー。』 『あの雲、ユーラシア大陸みたいだなー。』とか考えている。
あとは、本当に暇なときは紙と鉛筆、消しゴムを交換してオリキャラを描くとかしている。描いているとやっぱり、自分の苦手なところがハッキリと浮き出てくる。
なんか、ここ、左右の目のバランスがおかしいな。それどころか右目描くの下手だなぁ。
あー、珍しく目の端を尖らせるんじゃなくて、全部丸っこく描いてみようかな。それか真っ直ぐな線で描くか、どっちとも苦手なんだよなぁ。今度からはそれにして、ひたすらに練習するかぁ。
しばらく描くとなんとか形にはできた。だが、髪がやっぱり変になっている。
なんか、風になびいてるんだけども……。
まぁ、うん。仕方ない。これから頑張ろう!
下手な絵も楽しんだことだし、本を読もうかな。
と陰キャ生活を満喫しているうちに、少しこの世界のことを把握できた。
1:この世界にはおおまかに神・魔・人の三種類がいる。
あのぉ、人が優遇されすぎでは?
2:神の中にも神獣、魔の中にも魔人や魔獣、魔物がいて、簡単に分けると人型とそれ以外になる。
魔獣と魔物で同じモンスターって言い方しないで欲しいなぁ。聞き分けしにくいし。
分け方としては、魔獣がイノシシとかオオカミの現代元いたのに似ているもの。
魔物がゴーレムとかスライムとかの二次元でしかいなかったもの。っていう分け方っぽい。
ちなみに一応、人族の獣はいる……いたの方があってるね。なんか、人が安全だから多く狩ったとか、外来種によってほとんど絶滅したらしい。ここで現代の環境問題入れてくるなよ! もう少し、異世界感たっぷりにしてよ!
3:この世界には魔法があって、その属性は自然にあるもの全てある。つまり、火・水・木・風・氷・土だけではなく雷 (電気)や時間、闇、光……がある。
簡単に言えば、星の数程属性があるってことだと思えばいいらしい。どういうこと? 確かにそう書いてあったけどさ。
4:魔法はその人に合う属性が存在し、合う属性であればあるほど魔力消費が少なかったり、威力が上がったりする。だが、使える人は適性がなくとも魔法を使えることもある。
5:魔法には順に基礎魔法・初級魔法・中級魔法・上級魔法・特級魔法・極魔法・神魔法といった風に難易度と威力、消費魔力が大きく変わるランク分けがある。しかし、初級でも威力は中級、中級でも難易度は上級といった例外も稀に存在する。
使えない魔法について書いているって最っ高の皮肉かな。
6:スキルは魔法や実際にできることを、簡単にできるようにしたものとなっている。しかし、スキルを長年使い鍛えたものは理論上はできても、物理的には不可能なことになることが多々ある。
えぇと、スキルは使えば使うほど強くなるってことかな?
7:昔はスキルは基本的に一人一つで弱いが弱点があまりないものだったが、近年になって突如スキル二つ持ちの人が多く生まれるようになった。そして、強いが弱点や制限も厳しくなった。
その近年までの間に何が起きたの? 突然変異による進化? ダーウィンの進化論った (ダーウィンの進化論が起きた)の?
ここから先は休章の『色々な英雄』と書かれていたので一度読むのを辞める。
ここからは娯楽として楽しみたいし、ゴロゴロするかオタ芸を打つかしようかな。
俺が一人でオタ芸といった虚しい虚しいひとり遊びを始めようかと気が触れかけたとき、ドアが開いて金髪少女が入ってくる。
「ただいまー。」
Eランク初のクエストということで心配していた心を言葉にする。
「どうだったんだ? 苦戦しなかったか? 」
「おかえりとか頑張ったねとかよしよしとか他に言うことあるでしょ! 」
なんか思ってた反応と違うんだけど。おかえりは分かる。他の二つなんなの?
「頑張ったねの時点でおかしいんだが、まぁ言うことだからいいとしても、よしよしはおかしいだろ。よしよしって言いながら頭でも撫でるのか? 」
「それはそれで……」
蒼は頬を少し赤く染めてどこか夢見るかのように目を閉じる。
いったい、いつどこで誰が何をどのようにどうした想像してるんですかね。 (完璧な日記構成の5W1H)
「――でも、女子一人に行かせておいて苦戦したかどうかはおかしいじゃん。せめて、心配したりとか帰ってきたことを褒めたりしようよ! 」
「俺なりに心配を表現したつもりだったんだが……。今のでダメなのか。」
「えっ? そうだったの? 」
蒼がまさに意外といった反応をする。
「逆にあれで伝わらなくて、今どきの女子は人の感情読み取るのが苦手になったのかなーって思ったぞ。」
ほんと、いきなりQRコードからバーコードに変わったぐらい。
でも読み取りやすさは変わらなかったっけ? 詰め込める情報量が違うだけで。
「そっか、心配してくれてたんだ。」
蒼が余韻に浸っているかのように軽くうつむいて、ゆっくりと喜びを噛み締めているように見える。
最近これ多くない? 蒼さんは恋に恋でもしたの?
「一成のそういうちゃんと心配してくれる所好きかも…………いや、やっぱ今のなし! 」
「????? どういう意味だ? 心配してくれるぐらい普通じゃないのか? 周りには心配してくれる友達いないのか? 」
「あぁ、もう。なんで伝わらないかな。」
蒼は悩むようにうーん。と唸っている。
「空気読めないことに定評のある俺に伝えたければ、ハッキリと言うことだな。」
「はぁ。これだからこんなルックスでも彼女できないんだろうなぁ。」
「こんな容姿だから彼女が出来ないの間違いだろそれ。」
「それにこの自己評価が低いのもそうなんだろうなぁ。」
これ、反応すればするほど彼女出来ない理由を出されそうだからやめとこう。
違う! 俺は彼女が出来ないんじゃなくて作らないんだよ。そもそも俺に彼女できても、俺と深く関われば関わるほど不幸になるっていう呪いがあるから逆に迷惑かかるだけなんだよなぁ。それを考えると関わらない方が好きな人のためになるね。
蒼はまぁ、うん。必要な犠牲だね。
「で、どうだったんだ? 」
「前までとあんまり変わらなかったかな。変わったところって言えば、倒したモンスターの数が多くなったぐらい。」
「実際に経験してないから憶測でしか言えないが、そんなに倒さなくても、生活できるだけでいいからな。あんまり危険な目に遭うと、ただの料理係の俺がものすごく申し訳ない気分になる。」
「え、あ、じゃあ晩ごはんの食材買ってきて。お願い。」
蒼はたった今思いついたような反応をする。そして、最後の部分で上目遣いでこちらをみてくる。
仲間にしますか?
いいえ。
にしても蒼が容姿を変えた時ぐらいから好意的 (恋愛感情有)に思うようになってきた気がするよ。ゲームで言うところの攻略対象。蒼さん、スキル魅了とか手に入れてません? まぁ、推しにギリギリ入るかどうかってレベルだし、マシな方でよかったよ。一番の推しを超える可愛さの場合、俺が理性を保ててたかどうかが怪しいし……。まぁそんな人いないでしょ (意図的なフラグ)。これできっと会えるはず!
まぁ、日頃の感謝も込めて俺が買いに行こうかな。
「どうなっても知らないからな。」
「え? 待ってなにするの? 」
蒼が驚き喜び半分半分のような声調で聞いてくる。
何を期待してるの?
「いや、買い物に行くだけだが……。」
俺の方向音痴を舐めるてかかると大変なことになるよ。一回しか曲がってなくて、曲がったところから近いところでも帰る時に間違えて奥に行きそうになったからね。いやぁ、危なかった。道のタイルの並べ方が違ってなければそのまま迷子になってたね。
「買い物でどうなっても知らないってなに? ! 」
「まぁ、行ってくる。」
蒼の袋を借りて、買い物への第一歩を踏み出し、そのまま任務を開始する。
そのつもりだった。
あれ? 野菜ってどこで売ってたっけ?
俺は宿屋を出てすぐの場所で立ち往生していた。
やばいやばい。場所わかんない。えーと、ギルドからあぁ行ったから、えーと……。
そうだギルドに行こう!
ギルドまで移動し、 (よかったギルドまでは行けた。)微かな記憶を辿ってなんとか八百屋に辿り着く。そして、右に左に行ってたはずだからこっちかな? いや、なかったからこっちか!
とトライアンドエラーの精神で正解の道を導き出す。
ここに来るまでに通った場所をしっかりと目印で暗記する。
えーと、八百屋は服屋のあるT字路左に曲がったところで肉屋は雑貨屋っぽいものがある十字路を右と。パンはたしか蒼が日持ちすると言って買ってきた硬めのパンがまだ残ってた気がするからいっか。
そして、宿に帰ろうとした時。俺は気づいた。この肉屋にどっちから入ったっけ?
やばいやばいやばいやばいやばい。えーと、看板を見たのはこっちだったはず……。
記憶を辿って、来た時に見た風景がどちらだったかをなんとか思い出すことに成功する。
右から入ったから店出て左に行けばいいんだね。
店を出て左に進んで、雑貨屋を目指す。
ふぅ、危なかったぁ。このままだと迷子になるところだったよ。まぁ、雑貨屋まで距離あるしさすがにもう迷わないでしょ。
真っ直ぐ進んでいく。
あれ? 雑貨屋どこ?
周囲を見渡しても、雑貨屋どころか十字路でさえ見つからない。
あーはいはい。なるほどね。完全に理解したわ。
迷ったやつですねこれ。
どうしよう。蒼ならこんな時は人に聞いて事なきを得るんだろうけど、そんなこと俺にできるわけもないし、そもそも店員じゃない人に聞くとか迷惑かもしれないじゃん。
店員はそういう仕事だから迷惑になることの方が少ないだろうけど、通行人の場合は急いでるかもしれないし引き止めたら迷惑になるかもしれないし……。
一度迷惑にならないところまで行って立ち止まり、解決策を導き出す。
えーと、蒼と宿を探した時は町の外周部に近いところで探したからその方法で歩き続ければ見つかるはず!
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うーん。一成遅いなぁ。もしかして、ヤクザみたいなのにあってカツアゲされてるのかも! 事故かもしれない! はぁ、こんなことになるなら一成に気持ちバレてもいいから一緒に行けば良かった。
はぁ、あの緑の部屋にいってからこの気持ちがちょっと抑えられなくなってきてるから、もうちょっと仲のいい友達っぽくしなきゃ。
それにしても、本当に遅い。一成は寄り道とかしないだろうからやっぱりなにかあったのかも……。
ここで扉の外から足音がする。おもわずビクッとしてしまう。
なに驚いてんだろ、私。一成は友達。一成は友達。
自分に言い聞かせてドアが開くのを待つ。しかし、足音はドアの前まで来ることなく、足音は多分隣の部屋に入って行く。
一成じゃなかった。いやいや! なんで落ち込んでるの! 一成は友達だから! でも、一人っきりのときは別に好きとか思ってもいいよね。でも、こんなことしててバレた後に一成にフラれでもしたらもう立ち直れないからこの気持ちは隠すしかないよね。
一成は優しいからきっと合わしてくれるかもだけど、そんな迷惑かけたくないし。
しばらくして、もう一度足音がこちらに向かってくる。
やっと、一成帰ってきた!
心のどこかで少しソワソワして楽しみになっているのが分かる。
違う! ソワソワしちゃダメなの。一成は友達なの! 一成に私のことを好きって思わせてからじゃないとダメなの!
足音はドアの前で止まり、ドアノブがまわる。
一成とはできるだけ、違和感のないように、友達として絡む!
最後まで、自分に言い聞かせて一成が帰ってくるのを待つ。
ドアが開くと何度見たいと思ったか分からない顔が見える。
「ただいま。」
「一成、おかえり。かなり遅かったけどなにかあったの? 」
よし、違和感がないようにできてる。うん。この調子。できるよ私!
「いや、特にはなかった。
しいて言うなら道に迷って危うく一生帰って来れなくなりそうだったことぐらいか? 」
相変わらずの一成におもわず笑ってしまう。
「いや、しいてで言っていい事じゃないよね。どうやって帰ってきたの? 」
「蒼とこの宿を探したとき、町の外周部に近いところを探しただろ。それを思い出したから、町を三周程して、やっとここを見つけたってところだな。
蒼がこんな所にある宿の方が安いって言ってくれたおかげでなんとか命拾いしたな。ありがとうな。」
一成が無意識なんだろうけど笑顔で感謝してくれる。
ずるいよ本当に。そんな笑顔で感謝されたら、ちゃんと友達できるか不安になっちゃうじゃん。
「一成の方向音痴がかなり酷いのが分かったし、これからは私ひとりで行くよ。」
「蒼がいいのなら荷物持ちはするぞ。」
ここでお願い出来たら、どれだけ良くなるかな。でも、そんなに長い間会っていたらきっと私のことだからこの気持ちを我慢出来なくなる。だから、ここは断るしかないよね。
「別にいいよ。一回ここに戻ってから買い物行くの面倒だし。それに一成の力なんてあんまり役に立たないでしょ。」
ちょっと言い過ぎたかな? けど、こうやってしっかり断って自分を自分でセーフしていかなきゃ。
「力がないのは認めるが、多少は役に立つぞ。いくら体力テストの結果が女子の平均より下でも俺のスキルは力を底上げしてくれるからな。」
「待って、なんで女子の平均より下って分かるの? ! 」
「暇だったから調べた。高校二年女子の平均握力は27だったぞ。ちなみに俺は25だな。」
「えっ、弱! 普通40超えない? 」
「超えないし女子で40はやばい方だろ。」
「私、42あったんだけど……。」
「まぁ、うん。きっと筋肉質だったんだよ。それに、男らしい女性が好きな人もいるだろうしそんなに気にすることはないと思うぞ。」
なんでだろう。慰めてくれてるのは分かるんだけど、男らしいの部分がなんかイラってくるんだよね。
分かってるよ。胸のことだよね。でもきっと貧乳好きもいるだろうし、一成もそうかもしれないじゃない!
「で、そろそろご飯準備した方がいいか? 」
「あー、お願い。シェフ、今日のレシピはなんですか? 」
「硬いパンと茹で野菜と焼いたお肉。」
一成の言い方可愛い。なんていうか、一成はメシって言わずにご飯って言うし、言葉遣いがちゃんとしてる。このギャップが萌える。
それに一成の料理は美味しいし、結婚したらいい専業主夫になってくれるだろうなぁ。
ってそうじゃない! 友達友達! 気を抜くとすぐこれなんだから。
どうやったらあんなに上手くなれるのかな? 今度一成に教えて貰おうかな。初めての共同作業だなんてからかって。でも、私上手くなれるかな。少なくとも食べられるものは作りないなぁ。なんで包丁で炭になるの?
一成のご飯をワクワクしながら完成するまで待つ。
そして、完成した料理を一成となにかと雑談しながら楽しく食べる。
この世界に来てよかった。たしかに生きるのに命懸けだけど、でも一成と一緒に居られる。
食べ終わったものは一成に任せて、寝る準備を始める。
そして、私はこの薄い胸に幸せをいっぱいに抱えて眠りにつく。
明日は一成を惚れさせられるかな。
蒼が思ってたよりデレた。だけど、それ以外は計画通り! それと、挿絵も自分一人で描いてるから下手なですね。まぁ、それもご愛嬌ってことでなんとか。初めての挿絵が一成の落書きなのは好き勝手やった代償だね。




