五話 冒険者登録
なんか、展開が遅いように感じるのは俺だけだろうか。
部屋に入ると玄関があり、少し高くなっている所から廊下が始まっている。
ここ、日本ですか? 靴脱ぐ文化って日本独特だと思うんですけど。
「おぉ、思ってたより綺麗じゃん。三千円って言ってたからもっとボロいかと思ってたけど。」
蒼が感嘆の声を漏らすが、俺は特に反応することなく、靴を脱いで廊下を進んでいくと、途中で左に扉があり、開けてみると簡素な木製トイレが置いてある。
ほんとなんかイベントで異世界を再現したけど日本の文化が抜けきれなかったみたいになってる。
そして、これ中身どうなってるんだろう。やっぱり魔法でなんとかしてるのかな? (希望的観測)
トイレのことは気にしないことにして、その横にある。洗面所のようなものに注目する。蛇口と排水がしっかりとした、現代の洗面所だ。
だから、なんで異世界に洗面所あるの! こんなThe中世ヨーロッパみたいな景観なのに文化が進み過ぎてるんだよ! 正直、歴史が少し好きな俺としてはなんか、こう、歴史を冒涜されたような気がして……いや、あれだ、異世界とかにトイレとか洗面所の描写が無さすぎて違和感があるんだね。これはもう、こんな風に作ったこの国の、いや、この世界の管理者であろうあの神が悪い。あれもこれも全部、神が悪い (絶対悪)。
もはやここを、異世界として意識しないようにし始めた俺は、目に入った時から違和感しか感じなかった背後の空間、『だいどころ』の確認をするために後ろに向く。
そこには壁に面した金属製のカウンターがあり、その左側はシンクと蛇口、右側はフライパン、下側には棚がある。
フライパンがあるって事は多分、コンロかなにかだろうね、火系統の魔法を使った。
この世界に来てから、魔法がただの生活便利なものとしか使われてないような気がする。
いや、よくよく考えたらそれが普通か。現代だって科学を散々、生活便利のために使いまくっているし。レジ袋だって化学製品だし、プラスチックだって、スマホやパソコンだってそうだしね。スマホをメールとかの連絡手段としてだけじゃなく、ただの娯楽品として使っているところを見れば、むしろこの世界よりも酷いまである。
廊下を突き当たりはひとつの部屋になっていて、頭が俺から見て左になるようにベッドが手前と奥に置かれている。奥の壁にはガラスで出来た窓があり、カーテンも備え付けでついている。
「手前と奥、どっちがいい? 」
「私はどっちでもいいけど、出来ればすぐに逃げられるように手前がいいかな。」
あの、蒼さん。逃げられるようにってどういうことですか?
「分かった。じゃあ俺が奥を使えばいいんだな。それより、その袋の中の物を分けてくれないか? 流石に無一文で町をうろつきたくない。」
「え、やだ。それならなにか袋用意して。」
「俺のファッションセンスで選んだ袋でいいのか? 」
俺のファッションセンスは友達の家に遊びに行けば、パジャマっぽいと言われ、上下違うロゴが入っていても気にしない、上下同じ色でもダサいと思わないレベルだからね。
「大丈夫。その袋を使うのは一成だから。ていうか、それならお金を用意したらいいじゃん。」
「いや、それが出来たらとっくにしてる。なんかどんなものを交換対象にしても、お金らしきものは交換できないんだよ。」
「とりあえず、一成は使えないことが分かったけど、だったら袋を用意して。」
俺は言われた通りに脳内に表を出して、魔力386で交換できる手持ちの黒いエコバッグのようなもののダウンロード (これが一番しっくりくる)を開始する。
やばいな。これで今日魔力500ぐらい使ってる。まぁ魔法の使い方が分からないから多少の無駄遣いはいいんだけど、多分このスキル宝石と武器を交換みたいにするもののような気がしてこないこともないんだけど。
ダウンロードが終わるまでの時間が暇なので、蒼に確認をしておく。
「そういう蒼はスキルの使い方分かるのか? 」
「いいや、全然。逆になんで分かると思ったの? 」
「開き直るな。この紙はとりあえず読め。」
俺はポケットから紙を二枚取り出し、蒼の方を渡す。
蒼は渋々といった感じで大人しく読み始める。途中、うめき声が聞こえてくるがきっと幻聴だろう。
蒼にもスキルの使い方を習得してもらっているうちに、ダウンロードが完了し、漆黒の自然を大切にせし物をひとつ交換する。
そういえば、うちの後輩に左手を怪我して包帯してた時に『我が左手に封印されし、黒歴史の創造主』って言ってたな (漢字と学習帳の名前以外実話)。ほんと、どうやったらそんなに頭、柔らかくなるんだろう。
エコバッグの投影 (交換よりも適切な気がする)が終わり、それを蒼に渡す。
「その中に俺のものを全部入れて置いてくれ。通貨はほとんど半分になるようにな。」
俺は黒い本を取り出し、初めから読み進める。
――ところを蒼に邪魔される。
「そんなの読まないで、冒険者になろうよ。」
このとき、俺の脳内には、『僕と契約して、魔法少女になってよ』がよぎる。
俺、そろそろ末期なのかもしれない。
「そんなこと言ったって場所分かるのか? 」
「分からないけど、そんなの人に聞けばいいじゃん。」
「その、人にすぐ聞けるところは見習いたいが、もっと計画を立ててからにしたいんだが…。」
「計画もなにも、冒険者になるだけじゃん。」
「うっ。」
珍しく、蒼の正論に俺は言葉を詰まらせる。
こういうのをジャムるって言うんだね (ラノベで得た知識)。
反論できる訳もなく、大人しく従う。
「しょうがないから俺も行くが、もし試験があったらどうするんだ。」
「その時はその時でいいでしょ。」
俺はいつの間にやら、仕分けていた袋を蒼から受け取り、部屋から出る。
そういえば、こいつ、環境適応力、案外高いんだけど。そんなに陽キャの世界って過酷なの?
蒼が鍵をかけ、一度開かないかを確認してから歩き出す。
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蒼が進むがまま着いてきた結果、本当に『冒険者ギルド』と書かれた看板が飾られている建物に辿り着いた。
その道中では、蒼がすれ違う人に冒険者ギルドの方向を聞いて、そのまま少し仲良くなっていた。なんで?
蒼を世界の七不思議に分類して、俺たちは冒険者ギルドの木製のドアを開け、中に入る。
そこには、十人ほどの冒険者がいて、カウンターには恒例の冒険者登録イベントが発生する受付嬢さんがいる。
俺たちはカウンターの所まで歩いていき、蒼が登録をお願いする。
「あの、冒険者? になりたいんですけど、どうしたらなれますか? 」
「冒険者登録ですね。冒険者になるには、入会料を払って頂ければ、どなたでもなれますよ。」
紫の髪と目の受付さんは優しく、答えてくれる。
「入会料はいくらぐらいになりますか? 」
「入会料はおひとり様につき、小金貨二枚となります。ですが、試験を受ける場合にはそれに追加で銀貨一枚頂くことになります。」
蒼の質問にも詰まることなく、答える。
すごい。俺の存在意義は全くと言っていいほどない。
こんな受付さんみたいな人のことをプロって言うんだな (遠い目)。
「試験ってどんなものですか? 」
「はい、試験は登録頂いたときに受けることが出来て、そこで冒険者としての実力を測らせて頂き、そこ実力に見合ったランクから始めて頂けるようになります。通常ではGランクからのスタートなのですが、試験を受けることで、それよりも高いランクで始められるので、かなり人気となっています。」
「ランクが上がるとどうなりますか? 」
「ランクというのは、その人のおおよその実力として扱っていますので、ランクが高ければより難しく、報酬がより多いクエストを受けることが出来ます。」
そこまで聞いた蒼は、俺の方を向き、先ほどよりも少し、声を小さくして聞いてくる。
「一成、どうする? なんかお得みたいなことを言ってるけど。」
「そもそも、ランク決めの基準が分からないから、試験を受けたけどGランクで始まりましたみたいになる可能性が高いな。俺は受けない。」
「じゃあ、試験無しで登録お願いします。」
俺の意見で考えがまとまったのか、蒼が登録をお願いする。そして小金貨を二枚ずつ受付さんに渡す。
「では、こちらのカードを強く握ってください。」
受付さんはそう言って取り出した、カード程の大きさの金属の板を渡してくる。
俺たちが言われた通りに強く握ると、そこに模様が浮き出てくる。よく見るとその模様は名前とランク、そしておそらくレベルを示している。
「これで、登録が完了しました。このカードを今のように強く握ると、あなたのお名前とランク、レベルとレベルアップまでの経験値の割合が出ますので、ご利用ください。それと、もし宜しければ、いま二人でパーティを組みますか? 」
「あっ、はい。お願いします。」
蒼が油断していたのか、驚きながら答える。
受付さんは紙とペンを取り出して蒼に渡す。
「では、こちらにひとりずつお名前を書いてください。」
言われるがまま俺たちは名前を書くと、受付さんはそのにハンコを押す。
「パーティ登録が完了しました。これで、おふたりの取得経験値が共有されます。」
なんとかパーティ登録まで終わり、俺たちは宿に戻る。
良かった。新人いびりみたいなのに会わなくて。会ったら、俺のスキルが物理的に火を吐いてた。
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