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ハイデンハイムのローレライ  作者: 樹本 茂
第二章 Besucher -訪問者-
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会敵39 偵察オーダー 2

 草むらの中に潜み腹這いになる俺の測距用モノスコープから見える景色には灰色に染まる雲と間断なく垂れてくる水滴のみで、地元の農夫すらいない、動くものなど何もない、そんな単調な光景が俺の心を削っていく。雨音は周囲の草の葉に落ちる単調な音がエンドレスで聞こえてきて、むしろ眠気を誘うくらいだ。寝たら風邪ひくからやりはしないが。


身体もそうだ。背中を全て雨にさらしている俺は、頭から頬を伝い顎、首、胸元へと流れる雨水のリレーにうんざりしながら、さらに、自重で出来た水たまりが俺の身体を冷やし尽くす。メンタルのコンディションとしては最悪だ。


ミアは俺なんかとは比べ物にならないくらいに気が長いので、一か所に動かずにスコープを覗き続ける任務には、むしろむいていた。その証拠に何の文句も言ってこない。暗がりのソロキャンと虫が苦手なだけの可愛い奴だ。寝てねぇだろうな。


“敵、視認 2500m、偵察ユニットと思われる2名”

“どうする”


寝てなかったようだ。

俺から1000m離れた胡桃林の中で同じように泥と戯れているであろうミアから報告が来た。割れたヘッドセットのスピーカー出力から、高めの凛とした声を思い出させる音が聞こえている。


雨は相変わらず降り続く。シトシトと降る雨は、確か、温暖前線が通過している状態だと子供の頃に誰かに教わった気がする。雨が止めば教科書通りなら温度は上がるはずだ。寒くてたまらん。


敵勢はこちらの丘の横500m離れた切通を通る5%上り勾配の街道筋を俺達の方に向けてお行儀よく行進中だ。自国領内と言う事で随分と緊張感が見えない奴らだ。二人で雨だってのに楽しそうに話しながら歩いている。


行進中の大きいお友達の一人は、背丈よりも長いアンテナを、背中に背負った大型の無線機の左横から出して、アンテナをショルダーベルトのあたりでワイヤで引っ張って、前方に曲げて止めているのを俺は見逃さなかった。


長距離用の無線通信機。


これは、通信をしたい理由があるからだ。

後に続く本隊がいる。に違いない。斥候だろう。


『通せ』


俺は、ここで2名お送りして、作戦を終わらせることは出来ない。何しろ2名ではアガリが少なすぎる。俺は、敵の斥候二名が仲良く歩いていた事を中継基地に報告した。


月~金 17時過ぎ更新です。

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