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ハイデンハイムのローレライ  作者: 樹本 茂
第二章 Besucher -訪問者-
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会敵34 メモリー

「レオ……」


ミアが俺を見ている。

気持ち悪いだろう?あの男、な?


「なんだ?」


「レオ……」


どうしたんだ?正面に正対する金髪ゆるふわが、すごく大切なことを告白します。と、いうわかりやすい表情を俺に見せて、俺に優しく“なんだ?”と言ってもらいたいと目で告げている。


「なんだい? ミア」


優しく言ってみた。

いいから、言ってみろ!


「これ」


ミアは俺の目の前のビールのジョッキと生ハムの乗る皿の間に、なにやら右手の3本指をそろえておれに見ろと目で言っている。


「手、どけろよ、ミア」


「うん」


ミアが手をどけると、そこにはチップが、10mm×5mm厚み1mm弱の黒色エンジニアリングプラスチックでコーティングされたメモリーチップが、あった。


「何だこれ? 写真でもくれるのか? お前の」


この国で出回るレガシーチップ。大戦前の技術の遺産。いまだに使えるものは最近は少なくなったと聞くが、そんなものをどうして、一番縁遠そうなこいつが持っているのか。


俯くミアは、俺の顔を見ずに手招きしている。


「いいから」


言われた通りにミアの椅子に一緒に座ると、


「クロエの服に入っていた」


驚くことを言ってきた。


思わず、俺はバーの客の中にあいつが、蛇のあいつが、あいつらが潜んでいるんじゃないかと慌てて見回した。とても怪しく。

ミアはクロエに服をあげていたが、その脱いだ服は途中で捨てるために預かっていたのだが、捨てる間際に気付いた……らしい。


「ミア? 」


俺は、椅子の隣でヤバいって顔をするミアの背中に手を当てて、


「何で早く言わなかった?」


「言おうとしたら、団長とか蛇男が来て」


まあ、そうだな。


とにかく、どうするか?捨てちまうか?


そして、俺は、このところ、この数時間の、俺の相棒の、金髪ゆるふわの、態度の、表情の違和感が、全部クリアになった。


「ミア」


俺は優しくミアの身体を抱き寄せ、おでこの横辺りに優しくキスすると、そのまま、ヘッドロックをかけて右手で俺の持てる力の1/10くらいの力で優しくグリグリして差し上げた。そして、耳元で囁くように、


「嘘つくな、ミア。お前、これ、クロエから受け取っただろ? ん?」


俺の腕の中で、(うごめ)く金髪を閉める腕を緩めてやると、一つ深呼吸して、


「ぅ」


声にならない声を上げ首を縦に振った。


こいつ、ずっとオカシかった。司令部にいた時も団長といた時も、このバーにいた時も。ふさぎ込む、違いうな、心ここにあらずって奴か、そんな感じでずっといた。さらに、決定的なのが、このテーブルの下にハンドガンを仕込んだ時点だ。俺は訝しんで見ていたが、繋がった。


「ミア、おまえ、これが、これを受け取った時点でヤバいって思ってたんだろう? だから、警戒していて、手回し良くハンドガンを抜けたんだよな?」


俺は自分の椅子に座り直し正面でふさぎ込むように見せかけているミアを一睨みして聞いた。


「うん」


ヤバい、こんなもの受け取って完全に巻き込まれているじゃねえかよ。どうするか?捨てるか、持っているか。持っているなら、中身を見るか見ないか……


月~金 17時過ぎ更新です。

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