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ハイデンハイムのローレライ  作者: 樹本 茂
第二章 Besucher -訪問者-
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会敵31 南部連合傭兵団にて その3

……って、まさか。クロエ……か。


俺は、隣のミアに視線を移すと既に俺を見てまさかって顔を正直に現わしている。


「どうした? 姫? 驚いて」


「え? 何でも……ない」


下手すぎる。こいつ。幼児か? 右手に菓子持って食べてないって言ってる子供とおんなじ顔してやがる。


「ああ、団長、それで、繋がってるって、ところだが、どういうことだ?」


ミアを注視する団長の視線を俺へと引き剥がして、俺はさっきの会話の始まりである、枕の部分の説明を求めた。


「おそらく、いなくなった“荷物“を捜索しているんだろう。それがお前たちのオーダーだった。と思う、おそらく。

リッツ達が発見されたのが3日前だ。それ以前に戦闘状態になった。お前達、その村とボーデン湖はどのくらい離れていた?」


「直線で40kmってところだ」


「40kmか……女が徒歩で3日か、恐らく街道は使えなかったと思うが山道を勘だけで歩いたってことか……」


「団長、荷物運びは、そいつは何処からの依頼だったんだ?」


「それはな……ちょっとな」


団長が目を伏せる。


「……そうかい。で、リッツ達は誰にやられたんだ?」


「わからん。考えられるのは、順当に考えればチューリッヒ・リヒテンシュタイン連合、その次は新フランス……残る選択肢としては、政府軍だ」


「政府軍? どうしてだ? リッツ達は肩章を着けていたんだろう?」


「ああ、もちろんだとも」


俺達は、傭兵と言えども政府系、地方政府系共に、依頼されたオーダー主の肩章を戦闘服に掲げている。掲げるとは大げさか、控えめに付けている。だが。

それをしないとただのテロリストか民兵の扱いになり、戦闘行為とみなされずに戦時法の適用から外れる。つまりは、ただの人殺しになる。やってることは変わらんが。


そして、リッツは政府軍の肩章を着けていたにもかからわらず、政府軍に殺されたとする選択肢を示してきた。何が言いたい。


「これは、俺の推量なのだがな」


そう言うと、普段でかい声で話すのを常とする団長は俺達に手招きして、テーブルの上へと頭をせり出し、


「おそらく、恐らくだ。これは、政府系の奴らの仕業だ」


「ちょっと待てよ、団長。俺達に依頼できるのは政府か、地方政府しかいないんだぞ、だとしたら、おかしいだろう。依頼主がわざわざ、襲う理由が全く分からない」


「同感だ。だが、依頼主を知っている儂なら、それもあり得るだろうと、そう言わせるんだ。詳しい話は知らない方が身のためだ。いいな?」


団長の表情は語る事の危うさを示し、見つめる視線から意思の固さを理解した。これ以上聞き出すことは出来ないだろう。


「理解した。何かわかったら知らせてくれ」


「すまないな。キャンセルの件だが、報酬はとりあえずオーダー分は遅滞なく振り込ませる。違約金に関しては先方と話がついてから、規約通り按分する。以上だ。質問は?」


団長は俺の説明を一通り聞いて、処理に当たる事を約束した。そして、もう一度ミアに右手を差し出すが……ミア完無視だ。


政府系の依頼を遂行する傭兵を正規の軍隊が襲う。そして、正規の軍隊が捜索のオーダーを入れてくる。不可思議ではあるが、俺には一つ当てがあった。政府と言えども一枚岩ではない、細かく言えば、政府系と軍組織系とでも言えば良いのか。こいつらの争いに俺達は巻き込まれたのだとすればシナリオとしては最悪のカテゴリに位置する。起こる頻度は相当少ないがゼロではない。


月~金 17時過ぎ更新です。

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