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ハイデンハイムのローレライ  作者: 樹本 茂
第二章 Besucher -訪問者-
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会敵26 クロエ

 俺とミアがのどかな牧草地帯の街道を単車で帰路に就いて数分。5km程離れた場所を走っていた時だ。周りは牧草が生い茂り、見晴らしが良い。

俺の前100mをわざと(わだち)の酷い部分を選んでジャンプしながらミアはかっ飛んでいる。


突然、ミアの単車の目の前に街道横の茂みから人影が飛び出してきた!

大きく手を横に広げ止まれという仕草をしている。


ミアも咄嗟の事で大きく単車を横に傾けてスライドしたまま女を避けると、止まり切れずに、その勢いのまま走り抜けた。


さっきの女だ……ミアの逃がしたあの女。仕事がキャンセルになった遠因の女……


俺は女の手前、15mで停止し、背中にホールドしてあった自動小銃(アサルトライフル)を女に向け、Uターンしてきたミアに遠ざかる様にアイコンタクトした。


「□〇■ ▽ △ □〇 ×□〇?」


女が俺に向かって両手を前に出して必死の形相でしゃべりだした。フランス語か。特殊部隊の訓練で培ったフランス語をご披露してくれるか。


『あなた、何で逃げたの?』


おれの数拍前に割って入ったミアが女を睨みながら聞いた。

ミア!お前フランス語喋れるのか!しかも、俺よりも上手いって言うかネイティブレヴェルだぞ。話さなくて良かった。


『フランス語話せるのね。助かったわ』


ミアに正対した女は続ける。


『私はクロエ・ミュレー。詳しい事は言えないのだけれど近くの街まで乗せて行って欲しいの。お願い。』


女の表情は傍から見ても必死さが伝わってくるが……女は、見たところ武器などは隠し持っている様な感じはない。肩までの緩いウェーブがかかった茶色の髪に少し垂れた目と大きな瞳に鼻筋が通り少し厚めの唇が魅力的な20代中盤位と思わしき女性だ。


まずい……おそらく、関わること自体まずい……そんな気がしてならない。これは、怪しいものには近づかない生き残るための俺の基本戦略だ。


「どうする?」


ミアが女の肩越しに俺に厳しい視線を送り判断を求めている。


「ミア、そいつミカド達の獲物だぞ。このまま、単車に乗せれば俺達は中央政府からにらまれる事になる。それは今後、仕事がやりにくくなるのと同義だ」


「そうね。それも考え物よね……」


ミアが単車にまたがったまま腕を組んでクロエとかいう女を見ている。


「レオ、どうする?」


ミアがそれだけ言うと目線でクロエの足元をさした。


クロエは裸足だ。よく見ると白い膝丈のスカートから伸びたスラリとした綺麗な脚の先、足首には縛られた跡もある……いや、黒ニットの長袖を手繰り寄せた細い手首にもそれは確認できた。


おい、マジか。益々、ヤバそうじゃねぇかよ。置いて行ったら、どうなる?連れて行ったらどうなる?ヒッチハイクの娘を乗せたってことにするか?そうだな。何も聞かなきゃ……


---空気を引き裂く音が俺の周りをかすめ、乾いた発砲音が俺の後方から聞こえてきた。即座に俺はクロエに向けていた自動小銃(アサルトライフル)を音のする方に向け適当にバラマキ撃ちし、


「ミア逃げるぞ!!」


単車のアクセルを一気に煽り、あいた手でクロエの腕を掴んで後ろに……乗せちまった……


月~金 17時過ぎ更新です。

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