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魂の抜け殻

作者: 森須不二斗

学校の文集に載せるためのモノでしたが、発行が取りやめになったのでこっちに出します。

 今日の昼頃、友人のクリフから電話がかかってきた。クリフ、と言っても彼はアメリカやそこらの人間ではない。正真正銘の日本人だ。クリフはあだ名であり、本人がそう呼んでくれと言っているのである。彼によると、このクリフというのは大昔のゲームに登場する、彼お気に入りのキャラクターの名前らしい。二〇二〇年頃のゲームと言うのだから、今から五十年以上前、ゲームがまだそれ専用のハードで遊ばれていた時代の代物である。骨董品を通り越して最早化石だ。彼がこのようなものを知っている、というより好んでいることから分かるように、彼はとても古いゲームに異様なまでの執着を見せる、いわゆるレトロゲーマーと呼ばれる輩なのだ。私のような一般人からすれば、画質が悪くしかも「ディスプレイ」という金属の板に映像を映すようなもの(昔は今のように空間へ立体映像を投影する技術は無かった)を進んでプレイしようとするというのは、不可解極まりないものだ。そのため、彼の周辺の人々ほとんどが、陰では彼のことを『敬意』を表して「フリーク」と呼んでいる。私は普通に「クリフ」と

呼んでいるのだが、彼が変わり者であると認識していることに変わりはない。私に電話をかけ

てきたのはそんな奴だ。

 だから、耳障りなコール音が耳小骨を震わせ、その名前がコンタクトレンズ型のデバイス、スマートアイに表示されたとき、あまり良い予感はしなかった。彼は何時だって突拍子もないことを言い出すのである。しかし、これでも私は彼の中でもかなり親しい友人なのだ。電話に出ないという選択肢は自動的に排除される。

「こんな真っ昼間に何の用だ、クリフ。」

「紀夫、今から駅前の公園に来てくれないか。あの林がいくつもある、バカでかいところだ。」

 クリフの上機嫌な声が聞こえてきた。

「何かあったのか。」

「いやなに、ちょっと話したいことがあってね。電話よりも直接会って話した方が良い。駅前の公園に来てくれ。そしたら分かる。」

「あぁ分かった分かった、今から行くよ。十分くらいで着く。」

「じゃあな。」

電話が切れるとデバイスに通話時間と料金、それからプリペイドの残高が表示された。それ

を見て残高の追加などを考えながら身支度をし、自転車に飛び乗った。

「おぉ、来たか。」

 クリフは公園の入り口に立っていた。

「やぁ。で、早速本題だが何があったんだ。」

「まぁまぁ、そう焦りなさんな。」

 おどけた調子でクリフが言う。

「立ち話ってのもなんだから、ゆっくり座って話せるところに行こう。そうだな……ウン、林の中に小屋があったろ。そこに行こう。」

 クリフはそう言うと、こちらの返答も待たずに林の方へと歩いて行ってしまった。何ともせわしない奴である。

「おい、待てよ。」

 それから私も林の中へ入っていった。林の中は昨日の雨のせいかやや湿っぽく、地面はぬかるんでいた。だから、こけやすい。私は慎重に歩いて行ったのだが、クリフはそんなことはおかまいなしにすいすいと進んでいった。

「もうちょっとゆっくり歩いてくれよ。」

私はそう文句を言ったが、

「これでもゆっくり歩いている方なんだ。勘弁してくれ。」

と全く聞いてもらえなかった。

「そんなに速く歩いていたら今に転ぶぞ。」

「大丈夫、転ぶなんてことは無いさ。」

果たして、彼は転ばなかった。ゆっくりと、慎重に歩いていたこちらでさえ幾度かバランスを崩していたのにだ。

「さあ着いたぞ。もうもったいぶる必要もないだろう。見せてくれよ。」

「へぇ、そんなに興味があるのか。嬉しいな。」

クリフが全く違うことを言うので私は訂正した。

「違う。こっちだってあんまり暇じゃあないんだ。」

「なんだ、そう言う事か。がっかりだな。」

 そういう割に、クリフはさほどがっかりした様子は見せなかった。

「まぁいいか。」

そして、クリフはようやくショルダーバッグから封筒を取り出し、小屋の机に置いた。

「これがか。」

「あぁそうだ。中身見ても良いぞ。」

私は言われた通り封筒を手に取り、中身を取り出した。中身は……。

「手紙?」

「二週間くらい前に届いた。今の時代そんなの滅多に目にしない。郵便屋さん、目を真ん丸にしてたよ。」

 若干可笑しそうにクリフが話す。

「ま、読んでみな。」

 手紙にはインクのにじんだ字で次のように書かれていた。



親愛なるクリフ殿


 久しぶりだね。元気にしているかい?僕は元気だ。もう君とは五年も会っていないから、もしかしたら君は僕のことを忘れているかもしれない。というわけで、少しばかり昔の話をしようと思う。あれはまだ僕らが大学に入学したての頃だったと思う。というかその時以外には考えられない思い出だからね。人見知りだった僕は新しい環境になじめず、友人の一人も作れなかった。それどころか僕は他人との繋がりを持とうとしなかった。でも、君はそんな僕にさえ明るく接してきてくれた。映画を見に行こうだとか、古本屋巡りをしようだとか。おかげで僕は他人に興味を持つようになった。繋がりを求め始めたんだ。君には本当に感謝しかないよ。さて、そろそろ僕のことを思い出してくれたかな。そう、僕は君の元親友、辻浩史だ。

 そろそろ本題に入ろう。僕は大学院を出てからアメリカへ渡った。幾らかましになってきたとはいえ、今の日本は研究者に対する支援があまりにも少なすぎるからね。それに、大学時代から親交のあったアンダーソン博士からこっちに来ないかって誘われたんだ。それで、僕は彼女のもとに行き、ともに研究を始めた(と言っても僕は博士の助手みたいなものなんだけどね)。それが五年前の話。で、今回はその研究のことで頼みたいことがあるんだ。僕たちの研究はすでに最終段階まで行っている。というか、もう完成しているんだ。だけど実用化にはデータが足りない。そこで、君に協力してほしいわけだ。実験内容は言えないが、きっと君も気に入るはずだ。だから、もし興味があったら連絡してくれないか。勿論旅費はこちらが全額負担する。研究関係ならみんな経費で落ちるんだ。じゃあ。


  追伸—よければ君の友達も誘ってくれ。人数は多い方がいい。

  さらに追伸—それと、何でもいいから紙の本を一冊持ってきてくれ。



「読んでの通り、俺の大学時代の友人からの手紙だ。」

私が手紙を机に置いたのを確認すると、クリフが口を切った。

「返事は?」

「勿論『YES』だ。」

「追伸の方は。」

「『二〇〇一年宇宙の旅』でも持っていく。」

 ニヤニヤしながら答える。ふざけているのは一目瞭然だ。

「もう一つの方だ。」

「それも『YES』。興味あるだろ、紀夫。」

「まぁあるにはあるが……こっちだって予定ってもんがあるんだよ。何時から行くんだ。」

「ええっとだなぁ。」

 クリフはショルダーバッグをあさり、飛行機のチケットを取り出した。恐らく向こうから送られてきたのだろう。彼はそれとしばらくにらめっこをし、それから

「あぁあったあった。一一月の八日だ。」

「それじゃあ私は無理だ。その日は仕事があるんだ。行けないよ。」

「そうか……。」

 クリフが不服そうな顔をする。

「せっかくタダでNASAに行けるってのにな。仕事なら仕方ないか。」

「あぁそうとも……待て、今NASAと言ったか。」

「言ったぞ。」

「NASAってあのNASAか。」

「あのNASAだ。」

しばし沈黙。そして

「分かった、行こう。」

「会社はいいのか。」

 こみあげてくる笑いを抑えながらクリフが尋ねてくる。

「あぁ。まだ消化してない有給が沢山ある。」

 この異様な手の平返しに戸惑う人も多いだろう。しかし、私にとってはごく自然なことなのである。私のような貧乏人には海外旅行はおろか、隣の県に遊びに行くことすら出来ない。私は余り旅行というものに興味が無いのだが、それでもペンタゴンやCIAなどのミステリアスな雰囲気を漂わせるところには興味があり、そのための旅行はしてみたいとも思っている。しかし、金が無い。そんなところへのこの話だ。あのNASAにタダで行ける。タダで。この話、乗らねば損である。

「よォし、それなら決まりだな。」

 その後当日の空港への移動方法や時間などの軽い打ち合わせをしてから、私たちは帰路に就いた。


 当日、私たちは面会を行った例の公園近くの駅で合流した。先に着いていたのは、やはりクリフのほうだった。

「おうおう、遅いじゃないか。てっきり来ないのかと思ったよ。」

「バカ言え。こっちだって楽しみなんだ。」

するとクリフはケタケタと笑い、

「そうかそうか。じゃあ行こう。」

と言うと改札をくぐり、ホームの方へ進んでいった。平面型エスカレーターだというのにそこを歩いて行っているのだから、いささか滑稽である。私は、エスカレーターの上に突っ立ったままで進んでいった。数分ほどして私たちは目的のホームに到着し、そのさらに数分後、列車に乗り込んだ。時刻はすでに夕方だったが、上り線に乗っているためか乗客は比較的少なかった。おかげで席に座ることができたのだが、窓から入ってくる夕日がとても眩しく、カーテンを閉めなければならなくなってしまった。

「はぁ、これで綺麗な景色も見れなくなってしまったな。」

 私がそうわざとらしく言うと、

「こちらとしては有り難いがね。夕方の景色はあまり好きじゃないんだ。」

「ふ~ん。こんなに綺麗なのにか。」

「まぁ綺麗なことには賛同するんだが、ただ……。」

 クリフはそこで一息おいた。

「ただ、夕方の景色を見ていると、少し寂しいような怖いような感情に襲われるんだ。」

「なぜ?」

「ほら、夕方ってことはつまり一日の終わりだろ?そう考えると今日も一日何にもできずに終わったなとか考えてしまうんだよ。すると耐えがたい恐怖がやってくる。俺はこの先何にもできない人生を送ることになるかもしれないんだぞ、っていうな。」

「成る程ね。一理、いや百理はあるかな。」

 冗談を飛ばしてみるがクリフは笑わない。その目はずっと悲しげだった。こんなクリフは初めて見た。誰でもたまには考える、と言う事なのだろうか。

「それに、俺はヒトが寝ている間も生きているとどうしても思えないんだ。はっきり言って、死んでいるのとおなじなんじゃないかって。寝ているとき、ヒトは外部の情報に対して鈍感になる。そう、まるで死んでいるかのように。体は相変わらず活動を続けているけど、とても作業的なんだ。そこに意志は存在しない。寝ているヒトは魂の抜けた肉体と一緒なんだよ。だから、夕方っていう時間帯は死への、自らの魂を夢世界に献上するための準備に思えて仕方がないし、それがどうしようもなく怖い。」

 クリフが話し終わると、重たい空気が私たちの口を固く閉ざさせた。そして、長い沈黙を破って話し始めたのは私の方だった。

「確かにそうかもしれないな。寝ている間は死んでいる。日が沈めば私たちは死ぬ。だが、私

たちは同時に生き返ることも約束される。夜は何時だって明けるんだ。だから、そんな気に病む必要はないさ。」

「そうだな。どこぞの誰かさんも『日はまた昇る』なんて言ってたしな。」

「バカ、それはヘミングウェイの小説のタイトルだ。それに、それじゃあネガティブなニュアンスになってしまう。」

「おぉっと、いけねぇや。」

指摘されてクリフが笑う。ようやくいつものクリフが戻ってきた。この後の行程は全て他愛のない会話で満たされた。特筆すべきことと言えば、飛行機の中でクリフが吐いてしまったことくらいだろう。揺れが限りなく抑えられた機内での出来事だった。


 子供の頃、私はテレビを眺めながらよく空想していた。アニメや映画に出てくる研究施設の類はどれも衝撃的で、魅力的だった。私はよく想像の中でそれらの施設を冒険していた。しかし、想像は想像でしかなく、そのうち大した魅力も感じなくなっていった。結局、自分がそこに行くことは出来ないのだと悟ったのである。それが、今や状況は一変した。NASAが、あの宇宙開発の最先端を行く研究施設が目の前にあるのである。

「でかいな。」

 それが私のNASAに対する最初の、率直な感想だった。

「そうだな。」

クリフが軽く頷く。

「取り敢えず行くか。」

「だな。」

 私たちはゆっくりと入口へと向かっていった。自動ドアの向こうには、職員用とゲスト用の二つのゲートが設置されていた。私たちは勿論ゲストなので、そちらのゲートを使った。事前に送られてきていたカードを認証端末に押し当てると、電子音が鳴りゲートが開いた。と、その次の瞬間、私たちのつけているスマートアイに拡張現実の映像が表示された。どうやら道案内のようである。

「便利だな。」

「あぁ。」

 私たちはその案内に沿って歩いて行った。いくつもの角を曲がったり階段を上ったりして、ようやく目的にたどり着いた。部屋に繋がる自動扉はロックされてたため、クリフがノックして部屋の主を呼んだ。

「ごめんくださーい。」

 クリフが大きな声で言う。その数秒後にドアが開き、中から一人の若い男が現れた。眼鏡をかけており、髪はとてもぼさぼさだった。

「はい何でしょう……ってクリフじゃないか!」

 状況から察するに、彼が例の手紙の人物、辻浩史なのであろう。二人は抱擁しあった。

「よく来たな。」

「元気そうで何より。」

「ははっ、それはこの前手紙に書いたろう。」

 それから辻はこちらを向き、

「君がクリフの友人の藤山さんだね?」

「そうです。よろしく。」

辻はかなりラフな態度で接してきたので、こちらも同じように返し、手を差し出した。

「こちらこそ。」

 辻は私の求めに応じて握手した。

「ところでどうだい、NASAは。大きいだろう。」

「それにとても広い。移動するのに十分以上かかったよ。」

とクリフ。

「施設の中で車には乗れないんだ。我慢してくれ。」

「構わないさ。」

その時、女性の声が奥から聞こえてきた。

「ヒロシ、誰が来たの?」

部屋から声の主が出てきた。恐らく彼女が――。

「あぁ、アンダーソン博士。彼らが今回実験に参加してくれる……。」

「貴方のお友達ね。」

「藤乃重信です。」

「クリフです。」

「初めまして、ルーシー・アンダーソンよ。アンダーソン博士とでも呼んでくれたらいいわ。

よろしく。」

「こちらこそ、アンダーソン博士。」

微笑、握手。

「まぁ入りなさい。」

 博士は私たちを研究室の中へと招いた。

「失礼します。」

 私とクリフの声が重なる。研究室の中はきっちりと整理整頓がなされていた。そうでないと研究員たちがまともに動けないのであろう。部屋には辻と博士以外にも五、六人ほどの学者さんがいた。それからスパコンと思しきものが数台壁際に並んでおり、棚には大量の資料とUSBなどのメディアが陳列されていた。

「そうだ、思い出した。」

突然クリフが口を開いた。

「どうした?」

 辻が不思議そうに尋ねると、

「いや、髪の本を持ってくるようにって言ってたろ?ほら、これこれ。」

 そう言ってクリフはショルダーバッグから文庫本を取り出した。

「ありがとう。『二〇〇一年』か。良いな、ボウイの『Space Oddity』を思い出す。」

「ボウイ?誰ですか。」

気になって思わず尋ねてしまう。

「あぁ、昔のミュージシャンさ。とても有名な人でね、彼の曲のカバーがとあるゲームに使われたこともあるんだ。僕が一番好きなのはやはり『The Man Who Sold The World』で、この曲は……。」

「ヒロシ。」

 急に語りだした辻を博士が制止する。

「ム、失礼、どうも好きなことになると自分を忘れがちになるんだ。」

「いや、大丈夫ですよ。」

先ほどの辻の発言で、辻とクリフが親友だった理由が分かった気がした。

「さ、そろそろ実験の方に移りましょ。」

 博士が言い、私たちは実験室のさらに奥の方へと進んでいった。奥にはドアがあり、博士が

カードを使って開けると狭い通路が、そしてさらに進むともう一つドアがあった。これも開け

て入ると、そこには直径二メートルほどの球体と大量のモニターがあった。

「これは?」

 私が言おうとしたセリフをクリフが先に口にする。

「これ?この丸いのか?」

 辻が聞き返すと、クリフが二度三度頷いた。

「これはだな……あ、驚くなよ?これは……。」

「いわゆる物質転送装置よ。」

 私は軽いショックに襲われた。恐らくクリフも似たような状況に陥っていただろう。辻は自分のセリフを取られたことで博士に不満を言っていたが、こちらの様子には気が付いていないようだった。

「転送装置……ってことは瞬間移動?出来るんですか?」

「ん、あぁ勿論だよ。ヒロシが手紙でもう言ったみたいだけど、私たちの研究はほとんど完成しているからね。」

「凄い。」

とここでクリフが

「仕組みは、仕組みを教えてもらってもいいですか?」

と博士に頼んだ。

「良いわ。この転送装置は量子テレポーテーションを応用しているわ。量子テレポーテーションを使えば情報を一瞬である地点から別の地点に移動させることができるの。」

「情報版のテレポーテーションですか。」

「そう。でも、これはあくまで情報を運ぶためのものであって、形あるものを運ぶことは出来ない。それでどうしようか思案していたとき、たまたまヒロシが空気中の素粒子から物質を作り出すプリンタについて研究していることを知ったの。量子テレポーテーションで物質の構造のデータを転送し、プリンタで形にする。プリンタと量子テレポーテーションを組み合わせれば物質の転送が可能になるかもしれない、そう考えたの。」

「それで浩史をアメリカに呼んだわけですね。」

とクリフ。

「そういうこと。そして私たちはここで研究を重ね、一年くらい前に試作機が完成した。まぁ、できはかなりひどかったけどね。物質のスキャンが上手くできていなかったのか、まともなものが作成されなかった。それから沢山の修正を加えて、ようやく完成したってわけ。」

「データが足りないっていうのは……。」

「建前みたいなものよ。成功するっていうのは分かっていても、証拠がないといけないから。」

「成る程。」

「じゃあ始めますか。」

 辻が博士に声をかける。

「えぇ、そうね。ノリオ、クリフ、一人ずつ装置の中に入って。」

「お先にどうぞ。」

 クリフが言うので

「じゃあ遠慮なく。」

と承諾した。装置の中は人一人がやっと入れるくらいの広さしかなく、椅子を球体で覆ったような形になっていた。外では辻と博士がコンピューターをいじくり、システムオールグリーンだのスキャン完了だの言っていた。

「そういえば、私はどこに飛ばされるんですか?」

「月よ。」

「月ィ⁉」

そう叫んだ次の瞬間、私は真っ白な光に包まれた。自分の体が霧になったような感覚に包まれ、それから今度は押し潰されるような感覚がした。恐る恐る目を開けると、私は相変わらず装置の中にいた。もう終わったのかなときょろきょろしていると、装置の扉が開いた。装置から出ると、そこには見知らぬ男が立っており、私にこう言った。

「月へようこそ。テレポーテーションの旅はどうだったかな?」

「本当に、月なのか?」

そう尋ねると、

「勿論だ。君はアメリカの研究室から月まで転送されたんだよ。」

と男が扉を閉めながら答えた。

「信じられない……。」

 私がそのようなことを呟いていると、装置が激しく光り、数秒後中からクリフが出てきた。

「凄い、もう着いた。」

 クリフも男といくらか言葉を交わし、こちらに歩いてきて、感想を話しあった。途中で男が

月の様子を見てみないかと進めてきたので、窓の付いている部屋まで案内してもらった。外は

とても暗く、綺麗だった。

「夜だな。」

「そりゃあ月だからな。」

「俺の嫌いな時間だ。」

「あぁ、そういえばそうだったな。」

「でも、ここなら大丈夫そうだ。」

「なんでだ?」

「魂の行き場所がなさそうだからだ。」

 確かに、月の表面は普通に考えれば殺風景で、とても魂はいられそうになかった。



「そう言えば博士。」

 紀夫とクリフのいなくなった研究室で、辻がアンダーソンに尋ねた。

「何?」

「今気が付いたんですけど、あるモノを分解してそれを別の素材で再構築したとき、でき上がったモノは元のモノとは別物になりますよね。」

「まぁそうなるわね。」

「だったら、オリジナルはどうなっちゃうんでしょう。」

アンダーソンはしばらく考え込み、それから

「消えちゃうんでしょうね。でもオリジナルと寸分たがわぬコピーが出来るんだから、別に損失はないでしょう。強いて言えば魂が無くなっちゃうだけじゃないかしら。肉体はちゃんと機能するから大丈夫でしょうけど。」

と答えた。辻は苦笑いし、適当な返しを見つけるとそれを口にした。

「だったらこの転送装置を使えば体重が二十一グラム軽くなるわけですね。こりゃ良い、量子ダイエットだ。」

「私だったらそんなダイエットごめんだわ。」

そして二人は笑いあった。その時辻はこうも思った。まるでゾンビだな、と。

構成がガバガバだとか言わないでくれ。死ぬほど疲れている。

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