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その願いには代償が要る。  作者: 友菊
異世界との接触。そして出会い。
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9 『真っ黒』と『少女』


魔法陣をメモ用紙に書いていくシス。元の世界でのイメージと大差ない形である。しかし、その中にツキには見覚えのある文字を書き込まれるのを見た。


「これって、―――英語?」


「エイゴというのが良く分かりませんが、これは『魔術語』一般では『魔語』と呼ばれるものです。」

「-いや、英語だわ。」

「はぁ…。ツキ様の母国語か何かと似ているという事でしょうか?」

「うん。そう。もしかしてこれってさ、何の魔術になる?」


シスの手元にあるメモ用紙に羽ペンでツキにとっては常識と言える英語を書き込んでいく。


「―――フライ。ツキ様、どこでこれを?」

「やっぱりそっか。」


書き込んだ英語は『FLY』。英語のボキャブラリーは学生なのでそれなりに蓄えていた。その中から最近の出来事で印象に残る『飛ぶ』を意味する『FLY』を選択した。


「もしかして、ツキ様は魔術の『素質』も持たれているのでしょうか?」

「うーん…。正直、これが『素質』とは言いにくいかな。そもそも『素質』が分かってないし、常識だし。」

「えっ!これが常識なのですか?」

「う、うん。常識だと思うよ。」


英語を『素質』と言うにはツキの中では抵抗があるが、明らかにシスの反応がおかしい。もしかして、ツキの祖国には天性の才能を持つ魔術師が大量に居るとでも想像しているのだろうか。


「本当に敵対はされないのですよね…?」

「うん、それはもちろん。契約もある。」

「そうですか。それは良かったです。」

「あぁー話が脱線しちまったな。ちょっと『FLY』使ってみてもいいか?」

「『FLY』を使われるのですか?それではシロ様をお呼びして…」


そのシスの言葉を遮るように『FLY』とツキが呟き、シスが焦って席を立ち椅子を倒した。その様子にツキは驚きもしたが、体に浮遊感を感じ実際に飛んだことにも驚いた。


「うわ…。俺飛んでる?」

「――はい…。飛ばれていらっしゃいます。」

「おぉ!おぉーー!」

「そんなに飛ばれては魔力が尽きてしまいますよ!」

「え?でもほらほら!」


その警告も無視し、空中でバク転をかまして見せる。初めて空を飛んだツキだったが、思いのほか移動がしやすい。このままどこか飛んでいこうかと考えた時だった。



―――――王都を全て覆うような巨大な黒の魔法陣が展開され、その中から二本の巨大な腕が伸びた。


突如にして現れた『腕』は街を破壊しようと腕を地面に近づける。しかし、『薄緑の膜』に弾かれた。それも王都の全てを覆っていた。何度も何度も『薄緑の膜』へ腕を伸ばし弾かれる。そんな光景をただツキは眺めていた。


「ツキ様!危険です。今すぐ避難を!」

「そ、そうだな。街の人も避難してるんだよな?」

「えぇ。街は『結界』が張ってありますし、地下シェルターもあります。」

「そっか、じゃあ避難しよ―――


避難しようと足を踏み出したツキ。しかし数十メートル先に浮遊する人物を見つけ、足が止まる。


飛んでいたツキが着地したのは窓のすぐそば。そして窓の向こうに少女が見えた。その少女が現れたことはツキにとって看過出来ない。


「―――さやちゃん。」


コの字に造られている王城の中心に姿を現したのは、他の誰でもない『さやちゃん』その人だった。そして、後ろに黒い服を着ており存在すらも黒く見える人物が居ることにも気がついた。

恐らくアイツがあの『腕』も操っていると本能が察した。今すぐに彼女をあの男から離さなければ。そう思った刹那―――



「―――貴様。また童の前に現れよったな。」


この声は聞き覚えがある。あの無駄にデカイ扉の向こうに居り、姿を直接は見ていないが圧倒的な力の持ち主。カーレン女王だ。


「久しぶり だね 元気 してた?」


それに答えるように一単語ずつ喋り始める者。あの黒い奴。ここでツキの脳裏をある存在が過ぎった。


「―――そうか。あれがクロ。」


その言葉に反応するようにシスが続けた。


「そうです。あれがクロです。奴の力は圧倒的です。今からここは戦場となります。そこに立ち入るのは危険です。避難を!」

「――でもあいつを止めれるのか?ここにいる誰かが。」

「シロ様が居ます。女王陛下もいらっしゃいます。あの方々なら…」


「じゃあ『素質』持ちを探していた理由が分からない。」

「―――。」

「それに今、俺には戦う理由が出来た。――彼女を取り返す。」


クロの存在が自分にとって他人事に捉えていた。シロの両親の話を流していたわけではないが、一線を越えて理解する事が出来なかった。それは実際に経験した者でないと理解できない類のものである。そして今のツキは違う理由でシロと同じ志を持った。



―――クロを倒す。



ただそれだけ。ただ難易度が異常に高いだけ。

それをわざわざ自分から誘ってきてくれた。ならば乗ろう。


「さやちゃんを。――弥生を返せ。」


声は小さくても、その覚悟が本物である事はシスが見抜いた。


「ツキ様。止める様なことは致しません。しかし、死なれては困ります。」

「あぁ。死ぬわけないさ。――少なくとも彼女を救うまでは。」


ツキとシス。まだその完璧でない主従関係でも今はお互いの意思が分かった。


「行ってらっしゃいませ。」

「――あぁ。行ってくる。『FLY』。」


そう呟き、ツキの体は重力に逆らう。徐々に床から足が離れる。窓を開き王城から飛び立つ。

そして明らかにおかしい視線を感じた。それはクロからのものだった。


「あれ なに あの子 なんで 飛んで い…」


その言葉はツキの耳に届く前に動きがあった。


空間ごと切り裂くような剣撃、シロのものだった。


「そろそろ僕の前から消えてくれると嬉しい。そろそろ怒ってしまいそうだ。」

「ふふ 君 つよく なったね 僕 嬉しい」

「そうかい。」


その会話は二人の間だけで交わされた。最初の剣撃の後に、第二撃、第三撃と繰り出すシロ。莫大なエネルギーの衝突で生まれる煙や爆音、その中でも光の粒子が散っていく。周りの人間は煙で中の様子が何も分からない。もちろんその中で行われる会話など知る由もない。



「―――貴様、童の前で何をしておる。いますぐに消え失せろ。クロ。」


その爆煙に向かって圧倒的な存在感を持つ者が言葉を発した。それはカーレン女王だった。


その厚みのある声とは違い、幼い容姿の少女だった。華奢な体に豪華すぎる赤のドレス。綺麗な金髪を伸ばし、人目で美しいと思わせる様な少女でもあった。しかしその瞳には他を圧倒する力があった。


その声にツキは圧倒され、動かなかった体を動かせるようになった。そして少女―弥生に向かって急加速する。


距離を一気に詰める。そして彼女の手を掴もうと腕を伸ばしたその刹那。


「―――貴様、死ぬ気か。」


そう耳元で呟かれた。初めてシロと接触したときにもされた同じものだった。そして肉体の制御が効かなくなる。


「僕の 娘に 触ら ないで 欲しい なぁああああああああ!!!!!!!」


直後にその声が聞こえる。断片的に喋る様子が一転。憎悪に満ちた声で叫び、煙の中から姿を現す。――そしてクロの顔をツキは見た。


肌は朽ち、真っ黒になっていた。その上、髪は整えられていた時期があったのか、と思わせるほどボサボサで伸び放題になっていた。そしてクロの瞳を見た。瞳孔は開ききっている。死んでいるにも等しいその姿がツキには一瞬でトラウマになった。


そしてクロが一気に接近してくるのが見える。手には短剣を持っていた。『あれに刺されれば終わる。』本能が脳に警告音を鳴らしているが、体を動かす事ができない。



「くそ…死ぬ。弥生…。くそぉぉおぉぉおぉぉ!!!!」



ツキは心の中で叫んだ。死んだとしても死に切れない。ただひたすらに自分の無力を呪った。



「だから言っておろう。貴様、死ぬ気か。」


その声が聞こえたときにはクロの姿が無かった。そして自分は芝生の上で大の字になっていた。そして体の制御が効く様になっていた。そして、ここはさっきまで女王の居た場所だと気づいた。



「――あの女王。戦ってやがる。」



爆煙の中、あの真っ赤なドレスを着て戦っている少女―カーレン女王はツキの居た場所に居た。


「もしかして場所が入れ替わった?」

「――そうじゃ。貴様、童の広く大きな器に感謝せよ。」

「うわっ!声が…」

「――童がこうして直接会話するのもお前を利用するからじゃ。」


「本心出てますけどいいんですか。」

「――貴様はあの少女を助けたい。そうじゃろ。」

「…。どうして分かるんですか。」

「――こうして直接、感覚を繋げておるからな。」

「それでどうするんですか。」

「――あのクロは『素質』持ちでしか斬れない。だからこそ貴様を利用する。」


「はぁ。具体的には…。」

「――まぁそうじゃな。童とシロで隙を生ませる。そこに貴様が思うように斬れ。」

「思うようにって。本当に俺が思うように斬っていいんですか?」

「――うむ。ただし、童やシロを斬った時には貴様の首も同時に飛ぶぞ。」



そう言い合っている間もカーレン女王とシロはクロとの戦いを続けている。どちらも互いに引くことなく戦い続けている。そして街の方はまだあの『腕』が『薄緑の膜』を破ろうと文字通り腕を振るっている。



「女王。合図をお願いします。その時に二人は斬らずに奴を斬ります。」

「――うむ。良い覚悟じゃ。その覚悟に免じて合図をくれてやる。」


それから戦闘は激化の一途を辿った。剣と剣、魔術と魔術その二つの交わる速度が格段に速まっている。


「――貴様。もうすぐじゃ。準備せよ。」

「はい。」


そう返事して深く息を吐く。その後大きく吸う。そして右手に力を込め、『剣を創造』する。


これはツキの直感に従っただけだった。もしもそれが正しければ剣を作り出せる。そして二人を斬ることなく、クロだけを斬れると思った。


その直感は正しかった。しかしある意味では違った。ツキが創造したのは剣ではあるが、光で構成された剣であった。シロが創造した様な鉄で出来た剣をイメージしたのだが、様子が明らかに違う。ただ、斬る上で問題が無さそうなのでそれを使う。


しっかりと地面を踏み込み、剣を振り上げれるような体勢を取る。


「――良いか。」

「はい。」


「…。」


「…。」


「―――今じゃ!斬れ!」



その合図に従って剣に力を込め、一気に振り上げる。イメージは、そう。




『――――クロだけを、斬れ。』



光の剣から光の斬撃が繰り出される。かまいたちのようなモノだが、規模が違う。ツキの前の地面を抉りながら進んでいく。


その間にも光の斬撃は大きさを増していく。





全ては、――――クロだけを、斬るために。

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