第二章第六話IF
第二章第六話でクラブが本編と異なった選択をしたパターン。
第六話の視点はエルニエルでしたが、本話視点はクラブなので途中まで本編と同じ流れです。
目の前に立ちはだかるのは自分の三倍はある巨大な鋼鉄の蜘蛛。
手持ちの獲物と千冬の双銃でなんとかなる相手かというと残念ながらNOだ。
それにこの獲物は使うわけにはいかない。
ファラスの爆炎という忌み名を捨てるためにここに来たんだ。
ファラスの爆炎という忌み名が風化するまで使うわけには行かない。
何もかも捨ててポシューマスまでやってきた意味をこんな早々に見切ってしまっていいのか?
限りなく否。
ファラスでリーズ兄に押しつけてしまった負担をここでも姉に押し付ける事になる。
そんな事はとてもじゃないが許容できない。
俺の獲物、爆弾を使うだけでファラスの爆炎、ポシューマスに健在と俺を追っている奴らの耳に届くだろう。
だから爆弾を使うわけにはいかない。
となると俺の手持ちの武器は護身用に身につけていた果物ナイフ大の短剣のみ。
一応、戦闘用に錬成されている短剣とはいえ、あんな鋼鉄でできた蜘蛛の肉を刺す事は叶わぬだろうが、肉弾戦に挑むよりは何倍もマシといったところか。
頭の中によぎるのはこれは最早アカデミーの試験ではないということ。
そりゃそうだ。
アカデミーは受験生を殺して何の得がある?
非難されるのが明白であんなものを配置する必要を全く感じない。
そもそもこんなの、ベテラン冒険者でも対処するのは極めて難しい。
こんなのと戦い、何を計る?
無い、無い。
こいつはアカデミーにとってもイレギュラーともいえる存在だ。
さて、攻める手段がない。
向こうの力切れを目論んで逃げ回るのもいいが、先にこちらが力切れや判断ミスで被弾してもおかしくない。
今の所、五発ほど鋼鉄の蜘蛛の頭から発しているレーザーを避けている。
発射するまでのタイムラグがわかっているとはいえ、向こうの飛び道具は光速。
反撃出来るタイミングを見つけなければこのまま力尽きる。
どうする……。
その時、蜘蛛の頭に威力の弱い魔法の弾がパンと音を立て、当たった。
あれはホーリーライトとかいう光属性の魔法だったか?
「私がこれを引きつけるから逃げて下さい!」
そう声を発したのはプリーストの戦闘衣に身を包んだ女の人。
こんなにタイミングよく、こんな場所に援軍がくるということは俺たちの試験官として俺たちを付けていたあろう人か。
さすがにあの年で教官ってことはないだろ。
教官にしては能力低すぎるだろうし、この場で勝算もなくノコノコでてくるなんて未熟から来る愚は犯さない。
となるとあの人は試験官の手伝いかなんかしている先輩、ってところかな。
だが、無茶な注文をしてくださる。
逃げる?
それが出来るんならすでに離脱している。
あのビームをかいくぐってどうやって逃げろ、っと?
「逃げれるならとうの昔に逃げてますよ、先輩」
あの蜘蛛に背中を見せたら即撃たれる。
鋼鉄の蜘蛛は先輩にターゲットを変更した模様。
蜘蛛から発射されるレーザーは先輩に直撃した。
「!」
先輩の周りを覆っていた光の壁らしきものはパリンと、割れる。
あれはある程度のダメージ量の物理攻撃を無効にするバリアで確かキリエイソンとかいう教会系の防壁魔法だったか。
あれは術者の魔力と被術者の防御力に比例して防壁の層が厚くなる典型的な術。
あの先輩、一撃だけとはいえあのバリアを耐えれるだけの防壁を張れるのか。
だが、あの魔法はかなり魔力を消耗すると聞く。
いずれ力尽きるのは目に見えていた。
なら、魔力を外的要因で回復させればいい。
俺の手持ちに、魔力を回復させるアイテムもある。
瓶に入った一般的な魔力回復アイテム、青い水と、その青い水の原料を粉末にして爆弾に詰め込んだ俺命名の青い爆弾。
回復量は青い水の方が高いが、青い水は飲まなければ効果を発揮しない。
しかし青い爆弾は、爆発して飛散した粉を呼吸と一緒に体内に取り込む事ができるので、その飲む為に費やす時間を考慮すると、やはり青い爆弾の方が効率がいい。
が、青い爆弾を使用するのには問題点が一つ。
青い爆弾を使用する冒険者は冒険者多しといえど、ファラスの爆炎と呼ばれた冒険者くらいなものだ。
つまり使えば知っている人にはばれる。
それはマズい。 絶対ダメだ。
先輩は改めてキリエイソン、防壁を張る。
が、張った後に見える疲労感。
つまり後、だいたい三回貼れればいいほう、か。
先輩が力尽きるのはこのままでは後ちょっとだ。
どっちにしろ魔力回復は急務。
「先輩!」
そうして俺は先輩めがけて瓶詰めの青い水を投げた。
「へ?」
先輩は先輩めがけて投げつけた青い水に気付いて手を伸ばそうとするが、蜘蛛は再び先輩めがけてレーザーを放った。
「きゃああああ!?」
先輩はバリアに護られているとはいえ、相手の攻撃は先輩のバリアを一撃で破壊するほどの火力。
先輩はバリアが砕かれると同時にレーザーの火力を相殺した際に生じた衝撃波によって尻餅をつく。
そのラグのため、先輩めがけて投げた青い水が入った瓶は、パリンと、先輩の手前で割れてしまった。
「げ……」
俺らがその事実を認識し、一瞬止まってしまった隙を好機と見なした蜘蛛は、第二射を先輩めがけて放つ。
「しまっ!?」
一瞬の油断。
先輩のいた箇所はクレーターができており、先輩の姿はどこにもなかった……。
「う、うそだろ?」
明らかな俺の判断ミス。
ファラスの爆炎を隠したいという俺のいらない意地が、かなわないとわかっていながら助けにきてくれた先輩を見殺しにしてしまった。
なんとかする手段はあったのに、俺のへんな意地のせいで!
「クラブさん!!」
「え?」
千冬の声で我に戻るが、これは既に時遅し、というのか……。
蜘蛛の目は俺を捉え、レーザーの発射準備を整えていた。
回避はもう絶望的。
「ごめんな……」
最後の言葉だった。
badend……。
いや、某ノベルゲームに触発されまして……。
もはや外伝が提督立志伝ならなんでもありになってきた……。
ちなみにIFへの分岐はさくっとばれてますでしょうが、本編では青い爆弾、IFでは青い水の入った瓶を投げています。
そこからの分岐でこうなってしまったというわけです。
書いてみて思ったことですが、クラブ、お前綱渡りすぎる。