08
雨がどうして降るのか、それはわたしにもわからなかった。雲があっても降らないこともあれば、晴れているのに降ることだってある。わたしがこれまで読んできた本の中には、それらしい説明が書かれていたものもあったけど。
雨はまだ騒がしく降っている。
「ポプリは、なにか聞いてないの?」
「きく?」
「雨の中にいる時、なにかいってない? 声は聞こえない?」
「こえ?」
瞳をぱちぱちとさせながら、小首を傾げるポプリ。
少し、いじわるなことを訊いたかな。
そう思った時だった。
「えっとね、ただいまっていってたよ」
「ただいま?」
「そう。ただいま、ただいまーって。雨のおうちってどこにあるの?」
「どこだろうね」
たくさんの雨。
ただいま、か。
「ポプリ、外に出てみる?」
「ううん、いい」
「どうして?」
「風ふいてるから。ねんどもこねこねしたい」
「粘土は好き?」
「すき。エルもいっしょにつくろ。エルはこっちのおうちね」
ハチの巣と一緒に、油粘土もひとかけら渡される。これを作れということだろうか。でも巣は真似して作るのに、なかなかどうして難しそうな形をしている。劣化の影響か、ほとんどの穴は向こうまで貫通している。
雨。油粘土。
ハチの巣。ただいま。
「自然の声を聴け、か」
生きてる時は雨の声なんて、ひと言だって教えてくれなかったのに。
まったく、師匠はどこまでもわたしの師匠らしい。
ハチの巣に開いた穴を見つめて、ふと閃いた。
「ねえポプリ、わたし作りたいものがあるんだけど、手伝ってくれない? できあがったら、一緒にお風呂入ろっか」
「なにつくるの?」
「それはね……」