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はちすの雨  作者: 新々
7/10

07

 見習い時代、わたしの主な仕事は器の製作だった。

 水と土とを混ぜ合わせ、成形し、焼く。毎日毎日その工程のくり返し。

 正直いってつまらなかったし、こんなことで本当に錬金術師になれるのかと疑ってさえいた。でも、そんな未熟もののわたしに、師匠せんせいはいつもこういっていた。


『自然の声を聴きなさい』


 はじめのうちはよくわからなかったけど、後になって、器に適した土と水があること、ものの形にはそれぞれに意味があること、まきの種類によって火の勢いも変わることを知った。

 自然の声。

 それがどういうものかなんとなくわかりかけたという頃になって、師匠はわたしの前から姿を消してしまった。術のひとつも教えてくれないまま、静かに土へと返っていった。


 自然に戻ったのだ。


 何年かの後、骨だけになった師匠と再会してようやく、わたしはあの言葉の本当の意味を悟った。

 でも、なにもかもが手遅れだった。

 その時すでにわたしは錬金術師となっていたけど、同時に人でもなくなっていた。自然からもっとも遠い存在になっていたのだ。

 わたしは未熟なまま、永遠に成熟する機会を失ってしまった。

 自然から離れてしまったわたしは、自然の声を聴くことはもう適わない。声が聞こえないという点では同じでも、見習い時代のほうがはるかに優れていただろう。

 人として。自然に生きるものとして。


「みて、エル」

 ポプリが得意気に見せてきたそれは、油粘土で作ったハチの巣だった。そばで見ていたからわかったものの、完成品だけを見せられたら、ただの穴の開いた板にしか見えなかっただろう。

「上手にできてるね」

「でもね、穴ぼこいっぱいあいちゃったの」

 貫通した穴からわたしを覗き込む。

「ハチさんのおうちも、もれちゃうね」

「それは掃除が大変だ」

「ねえ、エル。なんで雨ふるの?」

「さあ、なんでだろうね」

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