07
見習い時代、わたしの主な仕事は器の製作だった。
水と土とを混ぜ合わせ、成形し、焼く。毎日毎日その工程のくり返し。
正直いってつまらなかったし、こんなことで本当に錬金術師になれるのかと疑ってさえいた。でも、そんな未熟もののわたしに、師匠はいつもこういっていた。
『自然の声を聴きなさい』
はじめのうちはよくわからなかったけど、後になって、器に適した土と水があること、ものの形にはそれぞれに意味があること、薪の種類によって火の勢いも変わることを知った。
自然の声。
それがどういうものかなんとなくわかりかけたという頃になって、師匠はわたしの前から姿を消してしまった。術のひとつも教えてくれないまま、静かに土へと返っていった。
自然に戻ったのだ。
何年かの後、骨だけになった師匠と再会してようやく、わたしはあの言葉の本当の意味を悟った。
でも、なにもかもが手遅れだった。
その時すでにわたしは錬金術師となっていたけど、同時に人でもなくなっていた。自然からもっとも遠い存在になっていたのだ。
わたしは未熟なまま、永遠に成熟する機会を失ってしまった。
自然から離れてしまったわたしは、自然の声を聴くことはもう適わない。声が聞こえないという点では同じでも、見習い時代のほうがはるかに優れていただろう。
人として。自然に生きるものとして。
「みて、エル」
ポプリが得意気に見せてきたそれは、油粘土で作ったハチの巣だった。そばで見ていたからわかったものの、完成品だけを見せられたら、ただの穴の開いた板にしか見えなかっただろう。
「上手にできてるね」
「でもね、穴ぼこいっぱいあいちゃったの」
貫通した穴からわたしを覗き込む。
「ハチさんのおうちも、もれちゃうね」
「それは掃除が大変だ」
「ねえ、エル。なんで雨ふるの?」
「さあ、なんでだろうね」