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はちすの雨  作者: 新々
5/10

05

 しばらく逡巡した後で、仕事場へと向かう。

 仕事場といっても、そこにはフラスコもなければ大きな炉を構えてもいない。わたしは錬金術師ではあるけど、それは仕事ではなく、どちらかといえば生き方でしかない。もちろん、今でもそれを生業なりわいとして暮らしている人もいる。でも、わたしにはそれを仕事にしなかった。ただそれだけのこと。だから今は表向き、翻訳家として生計を立てている。


「ちょっとこれ持っててくれる?」

 ランプの油をポプリに持ってもらい、たっぷりと雨水を溜めた陶器を手にとって、今度は厨房キッチンへと向かう。

「なにするの?」

「油粘土を作るの」


 もちろん錬金術で、ね。


 かまどに火をき、吊るした古鍋に陶器ごと雨水を入れる。少し沸いてきたら油を流し込んで、さらにひと煮立ち。そして。

「ミルクいれるの?」

「そう。少し飲む?」

 ポプリのために少量だけコップに移し、その三倍ほどの量を古鍋に入れる。


 ミルクとはいったものの、普通のそれとは少し違う。もちろん色は白いし、これからチーズだって作れてしまう。でも味も舌触りもまったく違うし、それにこれをそのまま口にできるのは、おそらくわたしとポプリだけだろう。


 それはわたしにしか手にできない、特別な聖乳ミルク


 錬金術師であるわたしの結晶といっても過言ではなく、これがなければポプリも生まれてこなかったのだ。実はポプリの身体は三分の一が薬草で、三分の一がこのミルクでできている。残りの三分の一は、その他の素材の寄せ集め。

 それだけわたしにとってこのミルクは重要な素材マテリアなのだ。


 古鍋の中でミルクが泡立ってくると、陶器はその泡に飲み込まれるようにして消えていった。ここでひと言添えてさらに煮詰めていくと、ミルクが灰色に変わり、次第に粘り気と光沢を帯びてくる。水気がなくなり固まり出したら別の容器に移し替え、サラマンダーの手袋をめてそのかたまりを熱いうちにる。

 と、いつの間にかポプリも手袋を嵌めていた。

 どうやら手伝うつもりらしい。


「こうやって手のひらで押すように……そうそう、上手上手」


 耳たぶほどの柔らかさになるまで練りこんだら、油粘土の完成だ。

「さあ、これで穴を埋めるよ」

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