03
「エル?」
ポプリの言葉に、はっとなる。
「ごめん、今流すからね」
再びかけ湯で洗い流した後、今度は自分の身体を洗い、そしてもう一度ふたりで湯船に浸かる。
「雨、やまないね」
「もう外出たらダメだよ」
「あしたは?」
「そんなに浴びたいの?」
考えるように小首を傾げた後で、こういった。
「エルといっしょがいい」
「わたしと?」
「エルがイヤならひとりでする」
「浴びることは浴びるんだ」
どうしてそんなに、と思う反面、その理由にはだいたいの見当がついていた。というのも、ポプリの身体は大量の薬草でできているのだ。そのほとんどは雨量の多い場所で育った生草で、雨が好きなのはきっとその時の名残りなのだろう。
「乾かすのが手間だから、一回だけね。その後ちゃんとお風呂にも入ること」
「おふろはいっしょ?」
「うん、一緒」
けれどもポプリは翌日になっても外へと出なかった。
もちろん、朝から雨は降っていた。
ただ、同時に。
「今日はまたずいぶんと強いね」
刺々しい雨音をはべらせながら、外では風がごうごうとうなっていた。締め切った鎧戸でさえ震わせ、家ごと揺らさんばかりの勢いだ。まあ、さすがに吹き飛ばされることはないだろうけど。
「風は嫌い?」
「きらい」
薬草のどれかに、風に吹き飛ばされかけた過去でもあったのか、ポプリははっきりとそういった。わかりやすく頬まで膨らませている。
好き嫌いがあるのはいいことだ。そう思う。多くのことに関心をなくしてしまったわたしにとって、その単純な感情はもっとも人らしいものとして映るからだ。
「エル、雨のにおいがする」
「まあ、降ってるからね」
そうじゃないといわんばかりに首を振った後で、ポプリは心持ち顎を持ち上げて、嗅ぐような仕草をした。