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はちすの雨  作者: 新々
3/10

03

「エル?」

 ポプリの言葉に、はっとなる。

「ごめん、今流すからね」

 再びかけ湯で洗い流した後、今度は自分の身体を洗い、そしてもう一度ふたりで湯船に浸かる。


「雨、やまないね」

「もう外出たらダメだよ」

「あしたは?」

「そんなに浴びたいの?」

 考えるように小首を傾げた後で、こういった。

「エルといっしょがいい」

「わたしと?」

「エルがイヤならひとりでする」

「浴びることは浴びるんだ」


 どうしてそんなに、と思う反面、その理由にはだいたいの見当がついていた。というのも、ポプリの身体は大量の薬草ハーブでできているのだ。そのほとんどは雨量の多い場所で育った生草で、雨が好きなのはきっとその時の名残りなのだろう。


「乾かすのが手間だから、一回だけね。その後ちゃんとお風呂にも入ること」

「おふろはいっしょ?」

「うん、一緒」

 けれどもポプリは翌日になっても外へと出なかった。

 もちろん、朝から雨は降っていた。

 ただ、同時に。


「今日はまたずいぶんと強いね」

 刺々しい雨音をはべらせながら、外では風がごうごうとうなっていた。締め切った鎧戸でさえ震わせ、家ごと揺らさんばかりの勢いだ。まあ、さすがに吹き飛ばされることはないだろうけど。

「風は嫌い?」

「きらい」

 薬草のどれかに、風に吹き飛ばされかけた過去でもあったのか、ポプリははっきりとそういった。わかりやすく頬まで膨らませている。


 好き嫌いがあるのはいいことだ。そう思う。多くのことに関心をなくしてしまったわたしにとって、その単純な感情はもっとも人らしいものとして映るからだ。

「エル、雨のにおいがする」

「まあ、降ってるからね」

 そうじゃないといわんばかりに首を振った後で、ポプリは心持ちあごを持ち上げて、ぐような仕草をした。

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