02
結局、ポプリの雨浴はお風呂の準備ができたと同時に終了し、ポプリの身体を洗うついでにわたしも一緒に入ることにした。といっても別々に入浴したことなんて今まで一度もないのだけど。
小さな湯船の中にふたりして身体を沈ませる。
「エルは雨、すき?」
「そうだね、好きでも嫌いでもないかな」
「なんで?」
「さあ、なんでだろうね」
お風呂場に反響する声に雑じって、雨音が耳へと届く。
「ポプリは雨が好きなの?」
「すきー」
小さな手でお湯をすくい、指の隙間から滝のようにそれを落とす。
「いいにおいがするの」
「においが好きなの?」
小さく頷いてポプリはわたしに向き直った。
視線が間近でそろう。
「雨、きもちいいよ?」
「わたしはお風呂のほうが気持ちいいよ」
ものごころついた頃からお風呂は好きだった。他にもたくさん好きなことはあったけど、錬金術師となってからはほとんどのことが、ウソみたいに関心がなくなってしまった。でも、お風呂だけは例外的に好きなままでいた。
「さあ、身体を洗っちゃおうか」
洗い場に移動して、まずはポプリの髪を洗う。髪用石鹸を手に取り、頭全体になじませるようにして優しく泡立てる。かけ湯で泡を流した後は、固体石鹸で同じように身体も洗う。タオルやヘチマの感触は肌に合わないらしく、洗うのはもっぱらわたしの手だ。
首から腕、胸、お腹、背中にお尻、足と順番に洗っていく。
こうして見てみると、我ながらよくできていると思う。
はじめは女の子にする予定はなかった。そもそも性別は決めていなかったし、もっといえばできるとも思っていなかった。とある人にそそのかされて、なんとなく手をつけてみただけだった。
まあ、契機なんてそんなもの。
でもどこかで期待してたのだと、実際にポプリを目にして思った。
もちろん、実験が成功することではなく──。