01
「エル、雨のにおいがする」
仕事部屋にやってくるなり、ポプリはどこかうれしそうな声でそういった。
「雨? もう降ってるの?」
「まだ。でも、においがする」
そういい残して、さっさと姿を消すポプリ。後を追って外に出てみれば、はたして灰色の雲が空に落ちかかっていた。
「おっと、洗濯物干しっぱなしだったっけ。ポプリ、手伝って」
でもポプリは空を見上げたまま動かなかった。
ああ、とそこで気づく。
手早く洗濯物を取りこむと、予想通り雨はすぐに降ってきた。
ふるいにかけたような細かい雨。
「雨のにおいねえ」
少しずつ重みを増していく雨に、むせ返るようなにおいが鼻をつく。
ポプリはまだ外で空を仰いでいる。いつの頃からか、こうして雨を浴びることが習慣になってしまった。
「気持ちいい?」
ポプリはちらりとこちらに顔を向けた後で、小さく頷いた。
琥珀色の瞳、花びらのような小さな唇、髪はわたしに似て蔓のようなくせっ毛で、肌の色は柔らかいミルク色。背丈はだいたいわたしの腰辺りで、今のところそれ以上大きく育ってはいない。
ポプリはわたしが生んだホムンクルスだった。
ホムンクルスとは錬金術によって造られた人間のこと。それゆえ人造人間とも呼ばれ、古文書には蒸留器の中にいる小人のような姿をしている。でもわたしの場合はいろいろな偶然が重なって、ポプリははじめからこの大きさの女の子として生まれてくることになった。
そう。ポプリはわたしが生んだのだ。
そういえば、あの日もたしか雨だった。
ポプリはまだ雨を浴びている。しばらくは止みそうにない。
「お風呂沸かしておくから、気がすんだら入ってきなさい」
わたしはそれだけをいって、お風呂場へと向かった。