災害級
重症者を優先して治療していく。一日に治療する人数は十人だ。命に関わる人が出ればその限りではないが、普段は十人人きっかりに固定する。キリが無い為だ。
俺の収入についてだが、教会信者が増える→寄付金も増える→俺の所にも何パーセントかくる、この構図だ。
「ありがたやありがたや」
「聖女様ありがとうございます」
「お姉ちゃんありがとう」
などなど回復魔法を使うたびに言われる。悪い気はしないが……ただ、なんか罪悪感がなぁ。
よし決めた! ちゃんと聖女を演じて全うしよう。この世界では皆の役に立てるように生きようと胸に誓った。
「なぁルー、今日の飯はなんだ〜?」
昼間に聖女として活動する、言わば演技だ。家の中では素でいたい。
「今日はカレーだよ」
へぇ、カレーねぇ……ってファ!?カレーあんのかよ。そういえばギルド制度といい、発達してる所もあって文明レベルそのまんまって所もある。考えられる事はふたつ。ひとつはとんでもない天才がたまたま誕生した事、そしてもうひとつは、俺と同じような転生者。おそらくは後者だろう。俺以外にも転生者は存在したのだろう、もしかしたら今も同郷がいるかもな。
「ルーはこの短期間でだいぶ上手くなってるからなぁ 、料理の才能があったのかもな」
ケラケラと笑う。ルーはなにやら俯いている。
「あ、ありがと……」
ルーと落ち着く時間を過ごしていたとき、外が騒がしい。いや、落ち着くっつっても俺が勝手にそう思ってるだけなんだけどね。
カンカンカンと大きな音が聞こえる。……ってこれ警報じゃん! しかも超緊急のやつ!
「緊急事態だ! 冒険者は全員ギルドへ! 住民の方は家から出ないように!」
公務員だろうか、大きな声を張り上げて呼びかけている。
「ルー、緊急事態らしい。教会に行くぞ」
ルーは頷き走ってついてくる。教会本部では既に前と同じ様に上層部が集まっていた。
「ファルメさん、状況はどうなってるんですか」
飛び入っていきなり質問する。来る途中に聞こえた事が本当だとするとやばい事になる。
「聖女様……実は災害級の魔物が街付近に出没しましてですね」
災害級とは街ひとつ、さらに言えば国ひとつさら崩壊させられる力だ。つまりはそれだけの力を持つ魔物だ。
「魔物の種類は?」
聞きたくないが……
「オーガが二匹」
俺は絶望した、とてもこの街の戦力では太刀打ち出来ない。おそらくは一体が限界だろう。
そもそもオーガとは鬼である。桃太郎に出てくるような本物の鬼だ。ニメートルから三メートルはあるかという巨体、もりもりな筋肉、魔力の溜まる大きな角を持っている。
「なるほど」
「今頃ギルドは冒険者を掻き集めてるでしょう。不幸中の幸いかAランクで構成されたパーティがいるの善戦は出来るでしょうが……」
それも一体が限界と言いたいみたいだ。
「ふむ……」
「そこでですね、我々教会が一匹を担当させられる事になっーー」
絶対に聞き捨てならない事を聞いた事がする。
「一匹ですか!? 勝算はないでしょう、どうするのですか?」
「そこで聖女様に活躍して貰いたいのですが……」
なるほどなるほど、成功すれば教会の威厳は一気に上がる。国王と同等までは伸びるだろう。だが失敗すればどうなるか分かってるんだろうか?
「それはもちろんですが、他には?」
何故かこれで黙ってしまった。まさか俺が参戦しただけで勝てるなどと思っている訳ではないだろう。
「それではいってまいります」
ルーを連れて飛び出す。時間は限られている、どれだけ準備出来るものか……
「オーガが入って来たぞぉ!」
な、んだと!? もうか! 早すぎる。
「上手くいかねぇなぁ、何でいつもいつも!」
なんだかだんだんとイラついてきたぞ。なんでいつもこんな問題が起きるんだ? 世界は俺に恨みでもあるのか?
「ルー、俺の首に嚙みつけ」
「……」
ルーは黙って血を吸っていた。くすぐったいな。ごきゅごきゅと飲み、口を離した。口をからはタラァと血が零れている。
「ルー、悪いけどもしもの為に俺たちの家を守ってくれ」
「うん」
「それじゃあ、ちょっと行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
どうも!