一目ぼれしてしまいました
「ふ・ざ・け・る・な! こんな事……もうやってられるか!」
そう、玉座の上で話を聞いていた少年は叫んだ。
きらびやかな王の間、その奥、中央に据えられた、宝石がちりばめられた金色の大きな椅子。
その周りにおかれた猫の様な彫像も全てが初めて目にしたものは目を見張るほどに美しいのに、それに囲まれるように玉座に座っていた少年の前では霞んで見えてしまう。
着ている物は黒を基調にした服で、飾りはあまりないが上品な品。
それ故に少年の美貌を損ねること無く、むしろ鮮やかに演出している。
そんな少年は現在、自身の流れるようなつややかな銀髪を怒りではためかせ、緑と青のオッドアイに険を宿らせて玉座から立ち上がっていた。
そもそもこんな風に魔王が怒っているには理由がある。
つまり……目の前の二人いる側近の一人である部下のルト――青い髪の方が、人間の国の姫を攫って来たからだ。
しかも魔王の名を騙って。
なので魔王は怒りにプルプルと震えながら、
「お前、自分の恋人だろ! 普通に自分で責任持って親を説得するとかそういった発想は無いのか!」
「姫君に直接伝えてもらったのですが、魔族などもっての外だと言われたので駆け落ちする事にしました」
「だったら何で僕の名前を使う!」
「その方が取り返せないでしょう? だって魔王様に喧嘩を売ることになりますし。それに魔王様であれば彼女を人の国に帰そうとするでしょうし」
そう目の前の金色の巻き毛が美しい緑の瞳の美姫であるミアと、その部下ルトは、お互い顔を見合わせて、ねー、と言いあっている。
目の前でいちゃつかれるのもうざいと言えるのだが、それ以上に気に入らないのは、全てが魔王のせいにされていることだ。
つまり魔王は何も悪い事をしていないのに、なぜか姫を攫った犯人にされているのだ。
「く……お前がいなければ国がまとまらないからと強気に出やがって……こんな魔王なんてただの飾りではないか」
「あ、今頃気づきましたか?」
今更かというかのように、嘲るように告げる部下に殺意を覚える魔王。
この部下には、以前から騙されたという思いが強いために魔王はぶつぶつと愚痴を零し始める。
「田舎で平和に暮らしていたらいきなり担ぎ上げられて、ただ座って判子を押せばいいからと騙されて……」
「仕方がないではないでしょう。王位継承権は貴方にあったのですし。次が私で、その次がもう一人の貴方の側近であるシグですからね」
「もう嫌だ、こんな究極の雑用係……責任ばっかりで退屈だし……もう、魔王なんて辞めてやる!」
「あ、魔王様何処へ……」
そう叫んで、部下が止めるのを無視して魔王は魔王城から逃げ出したのだった。
いつもいつもいつもいつも、判子を押せばいいという問題では終わらない微妙な問題が山積みで、人間関係ならぬ魔族関係も大変だし、何故か魔王の体を狙う輩が後を絶たないしでストレスが溜まっていた。
なのでこの城の中で一番落ち着くのは側近のシグの側だったのだが、最近は避けられてばかりでなかなか会えない。
そんな心細さも含めて魔王は精神的に限界に達していた。
だから激情のままに魔王の城を飛び出してしまったのだが……。
見えなくなった魔王の背中を見て部下ルトがふむと頷いて、にやりと笑った。
「では、次の魔族の王は私という事でよろしいですね?」
そして、魔王であるフィオが飛び出して行った後の事。
その魔王の玉座に座っている元部下のルトに話しかける黒髪に赤い瞳の男が一人。
「それでフィオは魔王なんてやめてやる、と逃げ出したのですね」
「ああ、シグ、お前が言ったとおりだ。これで私は、ミアと一緒にいられる」
シグと呼ばれた彼は、魔王……元魔王フィオのもう一人の部下であるシグだった。
整った面立ちの彼は、参謀としてすぐ得た才覚を示すシグ。
けれど彼には欲しいものがあり、そしてルトも姫君が欲しくて堪らなかった。
利害の一致で手を組み、こうして魔王だったフィオは自身の役目を放棄した。
そこでシグは幸せそうにいちゃつくミア姫とルトの二人を見る。
好きな相手と共にいられる幸せそうな姿にある種の羨望を覚えつつもシグは、
「これで何のしがらみもなく、私も動けます」
「ああ、お前もがんばれ」
「ありがとう」
ルトがシグを応援する。
それに答えて、仕事があるからとシグは歩き出す。
歩きながらシグは獰猛に笑う。
予定通りなのだ。
フィオがここから逃げ出す事は全て。
そしてこれからの事に思いをはせて、シグはさらに笑みを深くしたのだった。
赤い尖塔がいくつも立っている白い壁の城、それが王の住まう人の国の城だった。
そして現在、王宮野中は騒然としていた。
それはそうだろう、この国の姫であるミアが魔族……それも魔王に攫われてしまったのだから。
護衛をつけていたはずなのに、その者達はいとも容易に気絶させられており、今朝、気づいた時にはミア姫は彼女の自室から消え去り、代わりに一枚の置き手紙が残っていたという。
内容は、『ミア姫はもらっていく by魔王』という、馬鹿にでもしたような文面だったという。
「妹を攫っておいて、よくもそんな置き手紙を置いていけるな」
そう呟いて怒りに体を震わせるのは、ミア姫の兄であり、この国の王子のタクトだった。
やわらかな春の日差しを落とし込んだ金髪の髪に緑色の瞳をした、美しい少年と吟遊詩人が妹も含めて歌うような、宝石とも例えられる少年だった。
但し、彼は少女のような美しさではなく、男性的な凛とした美貌の持ち主であったが。
ちなみにそんな彼はシスコンで、それはそれはもう妹姫を可愛がっていた。
なので妹が攫われ、目に見えて怒り狂っており、
「あのミアが、俺の美しい金髪の巻き毛にエメラルドの瞳をしたあの可愛い可愛い妹が魔族ごときに攫われたなんて……」
タクトはそう小さく繰り返し繰り返し呟きながら、父親である王に直談判しに行く。
それこそ今すぐにでもタクト自身が、自身の可愛い妹のミア姫を連れ戻しに行くとそう決めていたのだが、
「父上、どうして助けに行けないのですか!」
「……魔族の力は強すぎる。現状では戦争になる事態は避けたいのだ」
「ですがミアは……」
「お前が妹のミアを大切にしているのは分っている。だが、今は耐えてくれ」
そう父である王に言われて、タクトは黙った。
もちろん納得した黙っているわけではない。
何故こんな弱腰なのだ、と父に怒りを覚えて、けれど口に出さない。
そんな息子の不満そうな様子に王は溜息をつきながら、
「……それに攫ったのが本当の魔王とは限らない」
そんな王の言葉に、タクトの堪忍袋の緒が切れた。
そんなもの、今まで幾度となく魔王達はしてきたではないか。
そしてそれを救い出すために、勇者が魔王と戦った事も。
故にそんな言葉が父から出る事が、タクトには信じられなかった。
「何故そう断言できるのですか! ……分りました。もう父上には頼りません!」
そう叫んでタクトは走り出した。
その様子を見ながら、タクトの父である王は、あのタクトにはまだ言うべきではないと判断する。
そもそも父である王は、本当は魔王ではなくその部下が攫ったのではないかと見当がついていた。
けれどそれをタクトにはいっていなかった。
シスコンの毛があるタクトは、美姫として名高いミアを猫かわいがりしていた。
故に、ミアに好きな人が出来たと相談されていた事も話せなかったのだ。
あのタクトの事だ。
見境無く魔族に喧嘩を売る可能性がある。
そう懸念があったからなのだが……。
タクトはそのまま、城を飛び出して暫く戻る事はなかったのだった。
人の城から脱げ出したタクトはある町に来ていた。
歩きながらタクトは先ほどの出来事を思い出して、深々と嘆息する。
「こうなる事も予想していて、あらかじめ準備をしておいて良かった」
小さく独り言を呟く。
目深にかぶったフードでタクトは顔を隠していた。
遠目からしか民衆には顔を合わしていないので大丈夫だと思うのだが、一応、王子という有名人であるのでこのように黒い布のフードを目深にかぶっている。
怪しい人物のようにも見えるだろうが、見つかって城に連れ戻されるのも我慢ならないのでこの格好で徘徊することにしたのだ。
ただ歩いていると先ほどの件が頭に浮かんで、タクトは苛立ちを覚える。
そして、だからこそあの弱腰の父に代わって、タクトが妹のミアを助けるのだ。
それにはまず強くなって、“勇者”の称号を手に入れる必要がある。
「強くならないと、魔族達の住む魔界への扉は通れない。そもそも、その門番に、行くのを許可してもらえないんだよな」
以前複雑な事情により、和平が成立して現在魔界と人間界は良好な関係を保っている。
そのため一部の商人達といったものであれば魔界を行き来できるのだ。
加えて魔界は強い魔物も多い反面、こちらの世界とは違う高密度な魔力を濃縮した石、“魔力石”と言った様々な品が取れる。
それ故に商人達もそちらに行きたがるが、魔界は危険が多い。
そのために護衛として雇われるのが、Lvの高い冒険者達なのだ。
ちなみにこのLvというのは、その能力を測る事のできる石が冒険者達が集まり仕事を紹介している“ギルド”という場所にあり、それによって分かるのだ。
現在のタクトのLvは5。
並の人間よりも強いが、それでも“勇者”と呼ばれるLvには到底及ばない。
一昔前までは、魔界に行っても生きて帰ってこれる者が“勇者”とされ、そのLvも今よりも高かったが、現在平和な時代という事もあり“勇者”の称号は若干取りやすくなっていた。
さらに今現在平和なため、“勇者”は護衛の意味合いが強い。
けれど人間界にも、魔界の魔物が現れて悪さをしている。
特に人間界がすぐ隣である魔界に近づくにつれて、強い魔物が現れる現象が存在している。
それは空間の綻びから侵入してくるため、その穴はすぐに閉じてしまい空間が断絶してしまうため、それを伝ってこちらからは好きに行き来できない。
また、正規で無い方法で魔界に行く事も出来るらしいのだが、残念ながらそれについての情報をタクトは持っていなかった。
そして、魔王といった様な強力な魔界の生き物、高位の魔族は自身で扉を開き魔界と人間界を容易に行き来するのだろいう。
そう考えた瞬間タクトは苛立ちが募る。
その魔王に妹のミアが攫われたのだ。
本当に今どんな目にあっているのだろうと思うと不安で不安で仕方がない。
あの美しい妹に心を奪われ、恋に狂って襲いかかろうとしてきた貴族の男どもを全員叩き伏せてきたのはタクトなのだ。
なのに、あの日、タクトはたまたま妹のミアが欲しいというケーキを城下町にお忍びで買いに行ったというのに、戻ってきた時には妹のミア姫は攫われた後だったのだ。
そんな自分の無力さにいら立ちを覚えながら、“ギルド”に向かう。
“ギルド”には、Lv以外に仲間を募るなどの様々な機能が備わっている。
まずはLvを上げないといけないので、依頼や仲間などを求めてタクトは“ギルド”に向かう。
そして名前を登録して、まず冒険者として偽名にしようかと思ったのだが……。
「では、登録はタクト様ですね」
名前だけは、何となく嘘をつきたくなくて本名を登録する。
ただし出身地だけは嘘をついたので、タクトの行動はバレない……と思う。
そして登録をし、仲間を募るが……こんなLvが低く、一見優男風のタクトは相手にされない。
思い切って強そうな筋肉隆々の冒険者に声をかけると、冗談だろうと大声で言われて笑われた。
そのまるで相手にされない様子にタクトは絶望する。
もう、一人でどうにかするしかないのか。
だが、一人の場合もしも深刻なダメージを追った場合どうする?。
そう考えると、タクトは今の能力では自分一人ではどうにもならない事に気づいて、その弱さに歯がゆさを覚える。
仕方がないので城下町を歩き始めてそのまま寂れた路地に入る。
そこで、声がしたのだった。
魔界にいたら連れ戻されそうな気がしたので、魔王フィオは人間界に来ていた。
一応自分ではないと釈明をすべきかどうか迷うものの、今までが今までだけに信じてもらえない気がした。
今は特に何もない状態とはいえ、一昔前は人間と魔族は戦争をするくらいに仲が悪かったのだ。
魔族と人間では、それほど身体的な特徴は変わらず、せいぜい耳がちょっと尖っているかな? とか、魔力が強いものたちが多いのが魔族、とか、獣人といった獣耳が生えた人間も魔族と言うとか、とりあえず普通っぽい人間以外、魔界に住まうものは魔族とおおまかに定義されている。
ちなみにどうして人間達のそんな事情に詳しいかといえば、田舎にいた時も、時々、フィオは人間の世界に遊びに来ていたからだった。
なので人間達の事情も含めて色々知っていたのだが、こんな風にあてもなく飛び出してきたのは初めてだった。
なのでどうしようかとフィオは迷いながら、気がつくと路地に入っていた。
大通りの喧騒が遠い。
戻ろうと思ったその時、
「よう姉ちゃん、ちょっと話があるんだが?」
「……僕は男だが?」
「え? 男?」
「何だ? 服を脱げばいいのか?」
「……いや、大した問題じゃねぇ。所で話がある」
「見ず知らずの人間と話す事は無い」
「まあまあ」
そう言って、フィオは五人ほどの男に囲まれる。
フィオはその様子に溜息をついたのだった。
声のした路地裏に入っていくタクト。
何時もならばそんな声がしても面倒事には関わらないようにするのだが、その時は何故かその声の方に向かってしまう。
この自分の力の無さという苛立ちを誰かにぶつけたかったのかもしれない。
そしてさびれた裏路地は何処か薄暗く、ゴミが散らばっていて汚い。
すぐ傍にはゴミをためておくための牙小屋汚れたバケツが転がっていて、そのゴミにはネズミは小さく鳴きながらゴミの中に紛れ込んだ肉にくらいついている。
そこを更に進んでいくと複数の人影が見える。と、
「あははは、ほら、着ろよこの服を! 昨日酒場で美味しくジュースを飲んでいたら酔っぱらった男とトランプゲームになって、その時の戦利品としてもらったのだけれど……僕には必要ないからね」
「じゃ、じゃあ自分で着ればいいのでは? ……ひぃいい」
「その分捕った奴もそんな事を言いやがったので、痛い目に合わせてきたが……お前達もまだまだ足りないようだな!」
「お、お許しください、出来心だったんです――!」
「問答無用!」
そう、何処か楽しそうに一人の華奢な……男だか女だか分らない髪の長い生き物が、悪そうな男達を五人ほど叩きのめして女性のやけに派手な衣装を着せようとしている。
けれど僕と言っていて、女性向けの服を嫌がっているから男だろうかとタクトは見当をつける。
よく見ると魔法で体を強化して全員を叩き伏せているらしい。
彼の体がうっすらとまとう金色の光、それがその肉体強化の残滓だ。
対術に優れた魔法使いなのだろうか? と思ってタクトは近づいていく。
その間にも更に手際よくその華奢な人物は、強面の筋肉ムキムキの男達に女ものの服を着せて行く。
「俺達の存在意義が……嗚呼、うう」
さらし者のような姿に強制的にされていく、悪人面の男達が嘆くように声を上げる。
悲痛な悲鳴を上げる彼らは、よく見ると魔法で拘束されていた。
拘束しながらその女装をさせていく手際も含めて、どうやら高笑いしている彼は、かなり手慣れた魔法使いらしい。
この位置からはタクトに背を向けているので、その人物の長い銀髪しか見えない。
けれどそろそろ女装された醜い彼らが気の毒なようにも思えたタクトは、その華奢な彼の肩を叩いた。
「もうその辺でやめておいた方が良い。恨まれると面倒だぞ?」
そこで、その人物がタクトに振り返る。
タクトは言葉を失った。
流れる銀髪に、緑と青のオッドアイ。
整った容貌はまるで彫像のように眼鼻立ちがくっきりしていて、肌も白く滑らかだ。
こんな綺麗な人をタクトは今まで見た事が無かった。
確かに自分の可愛い可愛い妹姫のミアは天上の美姫と呼ばれていたが、こんな存在は今までっであった事がない。
人は見かけではないというが、そんな物を考える事すらできないくらいにタクトは魅了される。
そしてタクトの胸が今まで感じた事の無いほどに高鳴る。
言葉が詰まりタクトが何も言えずにいると、その人は半眼になって、
「何の用? 僕は今、こいつらを教育的指導をしている最中なんだけど」
邪魔をされて機嫌を損ねたような声だが、その声も綺麗で、タクトはその声をもっと聞いていたい衝動に駆られながらもそれを口に出すのははばかられて、代わりに、
「……十分こいつらも反省しているし、これくらいで良いんじゃないのか? やりすぎると、後々面倒な事になるぞ?」
「どんな? だって悪いのはあいつ等だろ? 僕を脅してお金を取ろうとした挙句、襲おうとしたんだぞ! 可愛い女の子ならともかく、男である僕を!」
怒ったように言いながら、自分の胸を叩く。
確かに胸は特に膨れている様子もなく、女性と言われても分からないような美貌で、もしかしたなら女の子だったりするのかなと思ったタクトだ。
だが、彼は自分で男性と言っているし、おそらくは男性なのだろう。
もちろんこれらは口に出さない。
彼が怒るだろう事は目に見えていたのだから。
それが少し残念な気もしつつタクトは、
「……一応男同士でも結婚できるぞ」
同性婚が出来るようになっている……正確には女性の人数が少ないために、人間界はそうなっていた。
魔族側も確か同じような理由で同じような事になっていたはずである。
どの道、同性間でも魔法薬を使えば子供が出来るので、大抵の場合は気にされていない。
ただやはり異性が気になる者の方が世の中多い傾向にはあって、少なくともタクトはつい先ほどまではそうだった。
正確には目の前の彼に出会う前までだが。
そんな彼はタクトの言葉にむっとしたように、
「でも普通女の子にするだろ! 僕はそんなに女の子に見えるのか!」
この姿を正面から見れば、絶世の美少女と勘違いしてもおかしくないよなとタクトは思う。
思っただけで、彼が怒りそうなので口に出さず、代わりに、
「……まあ、程々にした方が良い。でないと警備のやつらに牢屋に放り込まれるぞ? 過剰防衛で」
「く……仕方がない。憂さ晴らしもかねて教育的指導をしていたのに……」
そういうと、悪い奴らを拘束していた魔法が解けた。
その途端逃げ出す悪い奴ら。
「覚えていやがれ」
とりあえず、目の前の綺麗な彼の仲間と思われたらしいが、彼らの事は忘れようとタクトは決めた。
そして、目の前のむすっとした彼にタクトは頬笑み、
「でも強いな。驚いたよ」
「ふん、この程度当然だ。僕は強いんだもん」
何処か子供っぽく背伸びをするように、自信ありげに彼が言う。
けれど実際に彼らを倒したりしている手際を見れば、実力があるのが分かる。
かといって、彼がどんな人間か分からないから、それを知ってから仲間に誘うのもいいのではないかという打算がタクトにはあったのだ。だから、
「美味しい料理の店を知っているんだが……奢るぞ?」
「本当!」
目を輝かせる彼に、タクトはこんなに無防備で大丈夫なのだろうかと不安に思いはしたが、彼も一人らしいのでこれはタクトにとっていい機会だった。
人格的に問題がなければ、何とか仲間になってもらえないだろうか。
というかこんな風に素直だと、性格もそこまで悪くなさそうである。
だが念には念を押して、しっかりと彼から話を聞かなければ、そう、それ以外の不純な動機はタクトには、一切無い。
そう繰り返しタクトは心の中で呟いたのだった。




