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第4章 霧の国の苦悩と希望

 最後の投稿から今日にいたるまで、色々と壮絶な事態が起きていました。

 いまさら言い訳する気にはなれないので、手っ取り早く投稿しておきます。


 北へと進む三頭の馬が霧をかぶりながらも、手探りで前へと進んでいた。


 スヴェイン川のせせらぎと、ベンヤミンのコンパスも手伝って迷う事はなかったものの、アデールはいつものレマの道に異様な不気味さを感じていた。


 やがてレマの都であるグウィネーへと続く門を見ると、その一種の恐れが増していった。


 「どうされましたか、隊長?」


 「いや、なんでもない、ボトゥーロ。 それより、鎧には慣れたか?」


 彼は木こりの体にぴったりとはまった鎧の塊を手でそっと整えた。


 その指にボトゥーロの荒い鼻息がかかると、鎧の重さがいかに彼を苦しめているかがわかった。


 「どうした? そんなことでは戦えんぞ?」


 「平気さ。 それより、あんたのほうは大丈夫なのか?」


 アデールはそう言われてベンヤミンの涼しげな顔を覗き込み、ため息をついた。


 「ああ、実は会うのは久しぶりだ。 こういうとき、彼女になんと言えばいい? どうやらわたしは以前から彼女に好かれていたみたいなんだ。 なんというか、どうあいさつしたらいいのか分からないんだ。」


 実に初々しい彼の言葉と口調に、ベンヤミンはいつものことのように淡々と馬の上に座り込んでいたが、ボトゥーロのほうは思わず斧を落としそうになった。


 「こりゃたまげたもんだぜ。 どんなに強えやつも女には勝てねえってよく言うが、そんなのは夢の中のほら話とばかり思ってた。」


 「真剣に答えてくれ。 彼に尋ねても決まってからかわれる。」


 アデールはたじろいでボトゥーロの返事を急がせた。


 「はいはい、分かりましたよ隊長。 俺が思うにですな…」


 「私に会ったこともない人に、私を語らせる気なの? アデール。」


 ボトゥーロの声をさえぎって、門の向こうから歩いてくる人影が数人見えた。


 分かりやすく例えるなら、後ろ髪をバラのように結んで、残りの美しい薄金髪は長く背中へと垂れている。


 その女性が左右にいた侍女からあるものを受け取った。


 「覚えてるわ、アデール。 一年前、私との決闘であなたが二つに折ってしまったこのレマの宝剣、テーゼン・ヴェイン。」


 それは女でも扱える細身の剣で、中央には明らかにいびつな剣撃の傷があった。


 「折れた剣は屈した心も同じ。 でも、私は女よ。 折れた剣のとがった矛先で抵抗を続けるもの。」


 「はあ、なるほど。 そういうことか。 とんでもねえ、うわさ通りの女だな、隊長。」


 彼はアデールが王女に決闘の最中に揺さぶられて、半ば強制的に恋人にさせられたことを認識した。


 一見して普通の王女が、実は腹黒く、嫉妬に満ちていることをほのめかすボトゥーロの発言は、彼女を一瞬だけ本気にさせた。


 「なんです? この兵士にはしつけが行き届いていないの?」


 いつのまにか彼の暴言はアデールの監督不行き届きということにされていた。


 「さすがはお嬢様。 目の付けどころが冴えておりますな。」


 ベンヤミンの方も、もうやけくそといった感じで、実にさわやかに王女をなごませて場を乗り切ろうとしていた。


 彼女は近親者たちの間では、特にリッテという愛称で呼ばれていて、それはアデールにも許されていたはずなのだが、彼はいまだに王女様とか、リッテンブリーニという長々しい文字を用いてきた。


 もちろん、彼女がそのことに対して不安を抱えていると彼は知っていた。


 「リッテンブリーニ。 よしてくれ。 私たちはもういい年をした大人なんだ。」


 思っていたそばからそう呼ばれた彼女は、むっとして言い返した。


 「あら、確かにあなたはもう年だけれど、私はまだまだ十九でも子供なのよ? あなたという強力な助けがいるくらいにね。」


 だから愛称で呼んでくれと言いたい彼女だったが、アデールの関心はガヴェールの侵略の方へと向いてしまった。


 「そういえば忘れていた。 さっそく話をしよう。 中へ案内してくれ、なっ、ちょっと待ってくれ、どこへ行くんだリッテンブリーニ。」


 「あんたって、本当に鈍いんだな。 同情するぜ。 俺にもさっぱり分からん。」


 彼は後ろからボトゥーロに励まされた。






 「アデールよ、いつもすまぬな。」


 ベッドにふせったままのレマ王、テオドールは重々しい息をしつつ彼を見た。


 「イシュムルドはそなたをないがしろにするが、世は、幾度となくそなたに助けられた。 マレンボワーズによき友を持って幸せだと伝えよ、ゴほっ!」


 「お父様、しっかり!」


 父王のせきの反動で、赤い天蓋てんがいのベッドが小さく揺れた。


 「リッテ、今案ずるべきはガヴェールと戦う、エムラベラスだ。」


 「ご心配なく陛下。 今のところ将軍が敗走したとの知らせは入ってきておりません。」


 泣きじゃくる王女の代わりにベンヤミンが事を報告した。


 父王が病に倒れ、それに加えガヴェールの侵攻。


 今回ばかりはリッテンブリーニも真剣だった。


 「現状はご察しいたします。 我々もすぐに助けに向かいます。」


 「王に代わりにお願い申しあげるわ。 敵はここから西にあるフーシェンクロム高地にいるそうよ。」


 「事は一刻を争う。 食糧が尽きれば将軍に長期戦は不可能です。 できるだけ早いご援助を。」


 さすがのベンヤミンもアデールに対して下手に出ていることからも分かるように、レマの現状は相当深刻であることを物語っていた。


 「そう言えばここでも食糧が霧のせいで足りないんじゃないのか? 昔からこのあたりは霧だらけだったそうだが、あんたらよく戦争なんかできるな。」


 確かにレマは霧のせいで食物の育たない環境にあったが、ベンヤミンは穏やかに語りだした。


 「霧のせいで、今の我らがあるのです。 レマの歴史の裏には、かつてこの地に息づいた先祖たちの苦労がありました。 霧に強い食物を育てたのですよ。」


 しかし、ボトゥーロが歓喜の声を上げたのもつかの間、老人の口調は急に重々しくなった。


 「ですが、それはレマだけのもの。 全ての世の民を救うことはできず、その場しのぎにしかなりませぬ。」


 「だが、心強い。」


 アデールがすぐにベンヤミンを元気づけた。


 「テオドール陛下。 わずかながらでもよろしいので、兵をお貸し願えますか?」


 王は彼の言葉に対してアデールを激励した。


 「ゆくがよい、誇り高きアデールよ。」


 

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