36, SHA-256に浮かび上がる世界大戦 ―― もう王はいらない。それでも女神は傍観しているだけなのか。
「逃げる」という交渉のコマンドでは――もう、逃げられない。そんな状況へと、追い込まれていったわ。
その戦況のさなか……ふたりの証人の間にも、はっきりとした温度差が生まれ始めていた。どうも、長期化の懸念から……SegWitのやる気が、明らかに低下してきている。
そこには疑心暗鬼――そんな言葉では足りない、重たい暗雲が、全体を覆い始めていた。いったい……何が起きているのよ。
「もう王はいらない。それでも女神は傍観しているだけなのか。」
……その言葉が、胸に突き刺さる。
結局、SegWitは――燃料不足を恐れた。1ゼタの神殿を維持しなければならない。この1ゼタを維持するには、この地の全エネルギーの約1%を投入し続けなければならない。
とにかく……燃料が必要だったわ。
この約1%という数字。それは、有名な巨大都市の全消費量に匹敵する。想像以上に――膨大だった。しかも、それは夜間であろうと変わらない。消費は止まらない。
まるで――呪いのように。
……そのとき。すさまじい速報が、飛び込んできた。
同じ時期、この燃料――エネルギーを大量に消費していた推論の側で、アルゴリズムが大幅に改良されたのよ。情報処理量を大幅に削減することに成功した。推論の性能は変わらない。それなのに、処理量だけが減る。
それはつまり――エネルギー消費を大幅に削減できる。画期的な突破だった。それを実現したのは……量子を投げ込んできたことで、記憶に新しい――あの者たち。
これによって、浮いたエネルギーを燃料として、他へ回せるのなら……。
……そうなってくると。
そうよ。
同じく「エネルギーの浪費」として目を付けられていた、1ゼタの神殿は――どうするつもりなのか。その問いが、突きつけられるようになった。
……当然よ。そうなるのは、必然だった。
1ゼタは……アルゴリズムの改良では、どうにもならない。そもそも、それすら限界まで削り切った上で成立している――競争的な構造。
つまり……。
エネルギーへ還元する余地なんて、最初から存在しなかった。
……なんだか、今にして思えば。
これも――「七つの大罪」のうちの一つを、再現した仕組みだったのかもしれないわ。
推論が「引き算」で進化していくのに対して……。1ゼタの神殿は、「足し算」を積み上げ続けた末に――エネルギーの還元すら不可能になる構造だった。
これこそが……。『数理という名の、逃げ場のない因果応報』だったのかもしれない。




