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デジタルゴールド ―― 女神に接続された暗号  作者: 暗号で創られたバベルの塔
第一章:クリプト採掘の跡地 ―― 燃料高騰の不覚。手の内は、最初から全部読まれていたなんて、ね。
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2, 秩序の再構築で、燃料代が高騰。しかも何を解禁なの? それだとバランスが崩れるわ。それともまさか……採掘のために、あの大精霊を差し出す気……なの?

 うん、ここよ。もともと……って、もう半世紀も前の話だけど、ここはね……クリプトの採掘ファームと呼ばれていた場所。


 もちろん、今は違うわよ。燃料代が赤字になった頃から、我先にと少しずつ推論へ転身が進んでいって……そして、ゼータの雷光が轟いたあの日、一気に変わった。そうよ……。


「大精霊ネゲート様。ここが噂の量子ニューラルの拠点。特にここは最大規模。つまり、大精霊量子アリス様が、もう近くに……。」

「あのね……。そんなにこわばらなくても大丈夫よ。」

「そうはいきません……。この地を、奇跡の量子演算で救った、あの大精霊量子アリス様になんて……、わたしみたいのが、本当にお会いしても、大丈夫なのでしょうか?」

「うん、大丈夫よ。」


 そうね……。あの量子演算は、確かに……真似できない。あの当時の限られた量子リソースで、限界まで量子アニーリングを操り、そこにSHA-256中間状態脆弱性を作用させて見事に当てる。すごかった、その一言よ。


 それで……そうよね。ここは、わたしが……並べられた採掘の機材に圧倒されて、倒れた場所でもあった。うん、ちょっと思い出してきてしまった。自前のパワープラントに、そう……。


「女神様。轟音とは無縁の、次世代の『液体を活用した冷却……液浸冷却』を取り入れております。静寂と冷却、女神様に仕えるには、それこそがふさわしい環境です。」

「そ……、そこまでするの……?」


 液浸冷却って……。採掘の機材などの発熱を抑えるために、機材全体を特殊な液体に浸して冷やす方式よ……。ちょっと……。専用の非導電性冷却液や、機材を完全に沈める特製のタンクやケース、さらに温度管理用の配管やポンプシステム……。


 たしかに、液浸冷却は優れた技術よ。でも、そのコストは桁違い。冷却液だけで……の値を超えるケースだってあるわ。そんな装備を、ただの採掘の機材に使うなんて、もはやただの「信仰」よ……。なによこれ……。


「女神様。二相式液浸冷却の導入により、従来の空冷に伴う騒音問題も一掃され、静音環境での運用が可能になります。『採掘ファーム=轟音』というイメージすら過去のものになるかもしれません。それでこそ、神聖です。」

「そういう問題じゃないわ! あなたは市場の精霊に導かれている立場よ? つまり、ホルダーがいるのよ? その方たちをどうするつもり? 費用対効果は考えているのかしら? このレベルの設備投資、推論向けなら理解できるけど、採掘で使うなんて……完全に見当違い。採掘なんて、オーバーヒートで少し止まったところで大した影響はないわ。でも、推論は違う。そこを、ちゃんとわかってるの? ホルダーには何て説明するつもりなのよ?」


 その途端、この精霊は怪訝な表情を浮かべながら、わたしに、こうつぶやいた。


「女神様。いま、なんておっしゃいましたか? 推論向けと? 推論なんて、大精霊シィーが置いていった異端の土産物。ああ、大精霊シィーなど思い出したくもない。採掘を悪者扱いしたんだ。それはまさしく、こんなにも『二相式液浸冷却で最先端』『クリーンエネルギーかつハイパフォーマンス』で頑張っている我らに対する侮辱。絶対に、許されることではありません。そこは女神様にもご理解くださると信じております。」


 そう……。こんなやり取りを繰り返して、そのまま倒れ込んだ。今でも鮮明に思い出せるなんて……それだけ衝撃的だったということね。


 それで、こんな採掘。本当に、燃料をものすごいペースで消費していくのよ。絶え間なく流れていくエネルギー。常に100%で回している……この液浸冷却は120%だったと思うけど、常に全力で回しているからなのよ。


 それでもね、ちゃんと燃料代を払って事業として成立する活動なら……それ以上、言えることは何もないわ。それも自由よ。


 ところが……そこに、量子アリスが現れて、状況がひっくり返った。常に1ゼタというハッシュレートを強要されるような雰囲気に陥ったのよ。つまり、もうそれは……事業ではなくなった。


 つまり、量子グローバーという、グローバーのアルゴリズムによる空間圧縮を避けるには、1ゼタのハッシュレートを入れ続ける必要がある。


 本来なら、難易度調整で、しっかり黒字になるように調整される機構が……その影響で、壊れた。


 ねえ、ちょうどこの1ゼタ……採掘の探索空間に換算すると約79ビット。神の領域となる80に及ばず、そこに届くには……なんと、倍が必要になるなんて。そう……2ゼタよ。


 さらに、そこに……燃料代高騰が襲い掛かってきたわ。原因を生み出したのは、そうよ。あの「ふたりの証人」。


 ただでさえ赤字で、気候と燃料に恵まれ、他よりも有利な地域で採掘できていたはずの精霊すら力尽きるような状況で、さらに自分で自分の首を絞めるような状況にしてしまうなんて。


 当然、すぐに……SegWit側に付く採掘の精霊からも悲鳴が上がる。


 それで……なのかしら。今まで制裁していた地域から、燃料を調達しようとして……。わたしは慌てて……。


「しかも何を解禁なの? それだとバランスが崩れるわ。それともまさか……採掘のために、あの大精霊を差し出す気……なの?」


 もう、どうなっているのよ……。


 それでも、「狭い範囲の、短期的な措置」とか言い訳を並べていたわ。そういう問題ではなかった。


 なんなのもう……。相手は、誰だかわかっているのかしら。それは、あの……「地の大精霊」なのよ。


 これでは、近いうちに燃料以上の、取り返しがつかないものを要求されるわよ……。


 ううん。また、思い出してしまった。


「大精霊ネゲート様……、あ、あの。顔色が優れないご様子ですが……。」

「……、えっ? ううん……。」


 ……わたしはもう大丈夫。変な心配をかけちゃって、ごめんね。

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