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0037:冬越し(ジェノヴァ)

1448年、晩秋。

リグリア海を北上する一隻の帆船が、夕闇の迫るなかでジェノヴァへと帆を向けていた。


まず鼻を突くのは、晩秋の冷たく湿った潮の香だ。しかし、港に近づくにつれ、その香りは変化する。陸から吹き下ろす風には、何万もの竈から立ち昇る薪の煙、貯蔵された乾魚、そして「誇り高き都市ラ・スペルバ」と称されるこの街が富を築いた源泉——東方から運ばれた香辛料や、なめし革の微かな渋い匂いが混じり始める。


水平線の彼方から、山々の斜面にへばりつくようにして白い石造りの街並みが姿を現す。


港の西端にそびえ立つ巨大な灯台——

かつて十字軍と商船を導き、今は利子と信用を照らす石の塔が、夕日に照らされてひときわ高く、番人のように船を迎え入れる。


強固な城壁が山へと続き、その内側には、サン・ロレンツォ大聖堂の白と黒の縞模様のファサードや、銀行業で富を成した貴族たちの邸宅が、石の劇場の観客席のごとく重なり合って見える。


入港の合図とともに、船内は俄かに騒がしくなる。ジェノヴァは依然として地中海の覇権を争う巨大な貿易拠点だ。


視界を埋め尽くすのは、無数のガレー船やカラック船の帆柱である。カッファやヒオス島から戻ったばかりの重い貨物を積んだ船、近海を行き来する小舟、そしてヴェネツィアとの小競り合いに備える軍船。それらが狭い水域に密集し、林立する帆柱はまるで冬枯れの森のようであった。


波を砕く船首の音に混じり、周囲からは多言語が響いてくる。リグリア語の荒っぽい怒号、水夫たちの歌声、滑車の軋む音、そして遠くの教会から響く晩祷の鐘の音。


岸壁が近づくと、石造りのドック(ダルセナ)で働く人々の影が、油灯の火に照らされて揺れているのが見える。

数年前の教皇庁との軋轢や、ミラノ公国との緊張感を含んだ政治の喧騒さえも、この圧倒的な石の質量と海の咆哮の前では、一つの静かな情景に飲み込まれていく。

船がゆっくりと接岸し、厚いロープが投げられる。ジェノヴァは、まさに地中海の心臓として、力強く、そして冷徹に鼓動していた。




ジェノヴァの港口を跨いだ瞬間、船団を包んでいた自由な海風は死に、代わりに湿り気を帯びた「制度」の空気が、衣服の下にまで染み込んできた。

それは潮より重く、肺の奥で一瞬だけ息を詰まらせる匂いだった。


入港を告げる鐘の音が、鉛色の空を震わせて響き渡る。それは歓迎の調べではない。都市という巨大な機械が、新たな部品を検品し、組み込むための合図だった。


かつて黒死病に喉元を食い破られたこの都市は、疑い深く、潔癖だった。接舷するなり乗り込んできた通関役人たちは、猟犬のような鋭さで船倉を嗅ぎ回る。積荷目録と現物を照合し、封印の傷跡を指先でなぞり、淀んだ空気に病の兆候がないかを見極める。

その厳格な儀式を経てようやく、ラウロたちの船団は「都市の内部」へと招き入れられた。


——ここからが、冬越しだ。

冬越しとは、荒天を避けるための単なる休息ではない。

荒れ狂う冬の地中海が物流を止める数ヶ月間、人、船、資本、そして情報を一度解体し、春に向けてより強固に作り替える――静かなる「再構築」の時間。


冬の地中海は気まぐれで、利益を運ばない。

だが都市は、冬にこそ最も雄弁になる。

金が動き、契約が書き換えられ、信用が積み上がる。

ラウロはそのことを、誰よりもよく知っていた。


船のことは、アルヴィーゼに一任された。

老船長は何も問わない。ただ頷き、職人を手配し、帆と索具と船腹を診断する。

船は来春までに「もう一度、生きられる身体」に仕立て直される。


積荷はすべて倉庫へ運ばれた。

香辛料、薬剤、砂糖、染料、明礬、装飾武具——

湿気を嫌うものは上へ、盗まれやすいものは奥へ。

帳簿と実物が一致するか、無言の確認が進む。

人の配置もまた、同時に進められた。


船員と奴隷は、港近くの宿屋へと誘導される。

そこはラウロの元から巣立った者が切り盛りしている、名もなき宿だ。

看板は小さく、外見は地味だが、内部は清潔で、余計な詮索をしない。


冬の間、彼らはそこで過ごす。

仕事のある者は昼に出、ない者は身体を休める。

逃げ場でも、牢でもない。

ただ「都市の中に置かれる場所」だ。

その管理と誘導を、ミケーレが引き受けた。

人を「まとめて扱う」ことに、彼ほど躊躇のない男はいない。


港の喧騒を離れ、ラウロは倉庫と事務所を兼ねた商館の奥へと潜り込んだ。


高い天井と、冷たい石壁。外界の光を拒むような薄暗い部屋の中で、ただ一点、机の上の油灯だけが揺れている。


ラウロは重い外套を脱ぎ捨て、机に向かった。

目の前には、白紙の羊皮紙と、鋭く削られた羽ペン。


カリ、カリ……


静寂の中に、紙を削るような音が響く。

一通はジェノヴァの商人へ。

一通はフィレンツェの銀行家へ。

一通は教会の仲買人へ。

そしてもう一通は、金流を掌握する仲間へ。


ラウロが書き記すのは、単なる報告ではない。それは、数ヶ月後に訪れる「次の世界」を定義する契約だった。


積荷の香辛料や薬剤は、倉庫の奥で静かに呼吸を整えている。

窓の外では、冬の海が低く唸っている。

だがその音は、ここまでは届かない。


この部屋で鳴っているのは、

羽ペンと羊皮紙が擦れ合う、乾いた音だけだ。


それは命の音ではない。

命が、数に変わる音だった。

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