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そのバザールついてのいくつかの噂話  作者: 川坂千潮
ユースグリットの新月には魔術師が集まる
8/9

1

 九十日に一度訪れる新月の日。

 この日は、街全体が朝からそわそわした雰囲気だ。

 十六の刻。バザール閉門の鐘が鳴る。

 客が去り、店仕舞いし、がらんどうとなった巨大市場はどことなくさみしさにつつまれる。

 それはわるいものではない。静寂はやすらぎでもある。次の客を迎えるまで市場も眠る。

 しかし今日は休んでいる暇がない。

 新たな商人たちがバザールに足を踏み入れた。

 彼らは久方ぶりの再会に喜びつつ悪態をつく。後ろ暗いのはお互い様。日の光の下で堂々と商売できない同じ穴の狢である。

 ひとしきり挨拶を済ませると、通常時は閉じられている店舗スペースの鍵を開けた。


 十七の刻。

 夕陽は地平線に溶けてゆき、空が紫紺色に染まってゆく。

 たとえ月が空を照らさずとも、夜の大精霊アイラスナイの慈愛は闇をつつむ。この街では、夜を棲み処とする魔と孤独とて友なのだ。

 日中は観光客にまぎれていた来訪者たちが、ローブを纏い、姿を現す。

 普段は衛兵が外灯を灯すが、この日は来訪者が役目を代わる。七日間消えない魔術の蒼炎。快く歓迎してくれる街への謝意であり、大精霊アイラスナイへの挨拶だ。

 魔術師たちは、路地の隙間から、宿の窓から、露店の商品のように眺められる。不躾な値踏みは日常だ、平然と街を歩く。

 酒場では、意気投合した常連客と魔術師が飲んで歌って踊る。

 端の席でこそこそ酒を飲む客は、魔術師に声を掛けようと意気込んでいる。新月の日は、伝手でもなければ会えない魔術師と商談できる絶好の機会なのだ。

 既に裏路地では、魔術師と契約を交わした依頼人もいる。

 ほとんどの住人は家に引き籠もっている。いつもより早々に帰宅を強いられて不満な子どもの為に、夕飯はごちそうだ。


「いいかい、彼らの邪魔をしてはいけないよ」


 親から子へ、語り継がれるひそやかなお伽噺にして、しきたり。

 ユースグリットの新月には、特別な夜市がひらかれる。

 今宵は街に魔術師が集う日。


「彼らの夜を邪魔してはいけないよ」




  ×  ×  ×




 二十の刻。

 月も星もなくとも、アイラスナイの祝福に満ちた澄明な夜空だ。

 バザールの門前にできた人だかりは、屋根の上を見上げていた。チョコミントの服と帽子に身を包む秩序の存在が、新月にありえない一番星のようにきらめく。


「ごきげんよう、こんばんは、お久しぶりです、はじめまして!わたくし、毎度おなじみ道先案内人ラーファでございます」


 ラーファの声は拡声器なくとも明瞭で、来訪者全員の耳に届いた。


「拍手ありがとうございます、前回よりちょっと音が小さい気がしますが、きっと気のせいですわね! あらっ、大きくなりましたわ、バラバラなのがやけくそっぽくていいですねこんにゃろう! さて、親睦も深まったところで、列を乱さず割り込まずお待ちくださるヘンなところで律儀な皆様、お待たせ致しました!」


 ──ひらけゴマ


 いつもの鐘の音ではなく合言葉。

 大精霊のみが鍵として発動できる言霊で、開門した。


 ──ようこそ、夜のバザールへ!


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