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そのバザールついてのいくつかの噂話  作者: 川坂千潮
ユースグリットのバザールには精霊の子がいる
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 セマがお守り作りに集中している間、ヴァルトルは一人、路地裏を歩いていた。

 蓬髪に、少々くたびれた服と靴。表通りで通行人がさりげなく避ける風体だ。逆に、路地ではほとんどが似たり寄ったりの格好なので、制服姿だったこの間のように浮かない。

 いつもならくっついている小精霊も、今日はひとりもいない。代わりに手首に絡みついているのは、トカゲだ。


「兄ちゃん、寄ってきな、いいランプがあるぜ」


 露天商に声を掛けられ、ヴァルトルは店の前にしゃがみ込んだ。

 主に売られているのは吊り下げ式や持ち運びしやすそうな小型のランプだ。どれも細やかな模様が透かし彫りされている。


「なかなかいいだろ、全部職人の手彫りよ」

「ふうん」 


 ヴァルトルはランプをためつすがめつし、いくらと問う。


「高いな、手持ちじゃ無理だ」

「職人の技術代だ、そんくらいするぜ」

「この出来なら、表でも売れんじゃねえの?」

「オレぁただの下請けよ」


 店主と会話をしているうちに、腕を組んだ二人組の男女が、ヴァルトルの背後をうろうろし始めた。


「ずっとここで店開いてんのか?」

「いや、指示されてあっちこっち回ってんのよ、そんなだから、たまに「あっ、前もここでやったな」って時もあるわ」


 男女の視線は、屈んだヴァルトルの背中から店主へと移った。ほんの一瞬、店主と目を合わせる。女は男から離れ、少年の横にしゃがんだ。


「売るモンは、ランプだけなのか?」

「ああ、上からはいっつもランプだな、だからって、オレぁランプ専門ってワケじゃないぜ」


 少年は、そこそこ値段がするランプを買おうか悩んでいる。小汚い身なりではあるが、財布の中身は期待できる。

 見るからに粗暴そうな店主と雑談できるくらいなのだから、路地裏には慣れているのだろうが、やはり子どもか、警戒心が足りない。

 路地裏は何があろうと自己責任、素寒貧になっても誰も助けてくれない。ま、同情くらいはしてやろう。

 男の腕が少年に伸び、店主はつい嗤ってしまった。

 ちょろい、と余裕綽綽だった男は、少年に腕を掴まれてしたたかに投げ飛ばされた。


「えっ、ぶはッ」

「ぎゃッ」


 男は共犯者であり恋人である女へ衝突し、諸共地べたに倒れこんだ。


「こ、このガキ……なにしやがる」

「何って、見ず知らずの野郎にいきなり触られそうになったら抵抗するわ」


 立ち上がったヴァルトルは、自分のものではない財布をもてあそんだ。


「しけてんな」

「オレの財布!」


 重い、どきな!と恋人から叩かれていた男がヴァルトルを指差した。


「返しやがれ!」

「いらねえよ、あんたらとちがって、盗むほど金に困ってねえわ」


 ヴァルトルは露骨にばかにした口調で、舌までだした。

 周囲の視線が集まっている。品定めされているのだ。今、ここで舐められてしまえば、この先も不良やら詐欺師やらの獲物と定められてしまう。いちいちあしらうのは面倒だ。

 散々恥をかかされた男は、青筋を立てながらナイフを懐から取り出し、少年へ振りかぶった。

 ヴァルトルは、男が振り下ろしたナイフを持つ手を掴んで受け流し、手首ごと男を捻り、投げ落とした。

 男は何をされたのかちっともわからないまま露店に頭から突っ込んだ。ランプたちが、がんがらがっしゃんと倒れてゆく。


「あああああああああッ!オレのランプ!」

「お前のじゃねえだろ」


 店主は涙目で絶叫したが、掏摸共を止めもせず面白おかしく見物していたのだ、せいぜい上司に怒られろ。いや、商品を台無しにしておいて、説教で済めば御の字である。

 ちなみに女は、気絶した恋人を見捨ててすたこら逃げていった。


「まあまあ、店長、しゃあねえだろ」

「ボウズに一本取られたな」

「そんな日もある」

「うるッせぇクソ野郎共!」


 このていどの騒ぎは路地裏では日常茶飯事だ。

 ヴァルトルは割れていないランプを二つ、ひょいと手に取った。


「もらうぜ」もちろん、きちんと支払いはした。「まいどありぃ……」


 ヴァルトルの手首から下りたトカゲは、店主へ近づき、服の裾に隠れたが、うなだれている店主も、野次馬も、誰も気がつかない。

 クプカ家は、小精霊、犬や猫、鳥、爬虫類に両生類、虫に魚など、人以外の生き物と心通わせてきた。

 彼らは自由だ。町中だろうが貴族の屋敷だろうが、どこにでも潜りこめる。

 人間の話は信憑性が乏しい。嘘つき。大法螺吹き。人づてに伝わるごとにねじ曲がり、勝手に話がふくらまされることだってある。そんなものは売れない。

 目当てだったランプは、ただの人間に売らせている粗悪品だった。だが偽物ではない。底に魔術式が組み込まれている。この中に捕らえて閉じ込めておく魔術。

 おそらくあの売人の上司も、組織の末端も末端、使い捨て要員の人間だ。魔術のまの字も知らないだろう。

 大した情報は得られないかもしれない。

 だが、あいつは何度もとっておきの密事を掴んできた凄腕だ、うまくやるだろう。


「頼んだ」


 トカゲはヴァルトルへ、「おまかせあれ」と応じた。


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