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翌日、学校の食堂にて。
ヴァルトルとセマは一緒のテーブルを囲んで昼食を食べていた。
食堂は、調理済みの料理が大皿に並べられ、生徒が自由に料理を選ぶ形式だ。
各国の食べ物が取引される商いの街では、料理人の腕が鳴る。学食も例外ではなく、この街の学校は国の定番料理から外国の家庭料理まで献立が豊富で有名だ。
「エフェさんにはとっても感謝してるの、ありがたいわ、でも頂いてばかりは申し訳ないわ、初対面で失礼な態度をとってしまったのも謝りたいわ、お礼がしたいわ!」
「礼か」
ヴァルトルは、嘆くセマへ相槌を打った。
「本来は俺らがもてなすべきだしな」
魔術師には、茶会へ精霊を招待してもてなすという、古くからの風習がある。虹の子も対象の例外ではない。
「お茶会を開くには、エフェさんの好きなお菓子とかお茶とか、情報が足りないわ」
「調べるか?」
「やめましょう、エフェさんが気づかないわけないもの」
「そりゃそうだ」
うんうん悩み、結局、セマはお守りを作ることにした。
かぎ針は幼い頃からの相棒だ。糸も、実家から持ってきたもので足りる。
正確な順序で一度も間違えずに編むことで、魔術を発動させる魔術式を紡がれる。
手順さえ間違えなければ、どんな種類の糸を使おうが、途中で糸の種類や色を変えようが、ビーズなど他の素材を加えようが問題ない。
本来、セマの一族の魔術にかたちは関係ない。魔術式を正確に紡ぐことだけが求められる。
だが、イーネ家は完成のかたちにこだわった。
うつくしく、きれいでかわいく、かっこよく、へんてこで、おもしろおかしく。どうせなら、みんなが持っていたくなるようなものを。
──その方が素敵でしょう
かぎ針に縫い針、タティングシャトルなど、幾種類もの道具を用いるようになった。
糸の編み方、結び方、その回数による魔術の変化を研究し、改良を重ねつつ、動物や植物、幾何学など、あらゆるかたちに仕上げてみせた。
研鑽を続けたイーネ家は、いつしか糸紡ぎの魔術師と呼ばれるようになった。
受けた恩を忘れず、必ず礼を返す。イーネ一族は情に厚い。
「……そういやセマ、お前、どんなお守りを作るつもりだ?」
「命が危機に瀕した時、身代わりになるお守りよ」
「重い」
「えっ」
「街の案内の礼としちゃ重い」
「ええッ?」
「聞いてよかった……もっと楽なモンにした方がいい」
「そんな、楽っていわれても……あっ、じゃあ商売繁盛はどうかしら、お客様を集めるの」
「魔術で人気出てもエフェさんは喜ばねえだろ」
「そ、そうよね、えええ、じゃあどんなものがいいかしら?」
「ほんのちょっといいことが起きそう、くらいのおまじないでいいんだよ」
「そんなぼんやりしたものでいいのかしら?」
「お前が紡いで、ぼんやりになるわけねえだろ」
「う、うひゃひゃ、ヴァルに褒められちゃった」
イーネの一族は情に厚い。ぶ厚いうえに、全力でぶつけてくる。
ヴァルトルの服には、セマ直々に護身用の魔術が施されているし、「ヴァルはいっつもふらふらどこかに行っちゃうんだもの、心配だわ」と、幼馴染にこれでもかとお守りを渡されそうになった。
魔術はセマのすきにしていいので、ひとつかふたつ、最大でもみっつで勘弁してくれと、それはもうがんばって妥協させたのだ。
大事に想ってくれるのはうれしいし、ヴァルトルもセマが大切だ。だがもうちょっと加減を覚えてほしい。




