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そのバザールついてのいくつかの噂話  作者: 川坂千潮
ユースグリットのバザールには精霊の子がいる
3/10

2

 放課後、セマとヴァルトルは街中でエフェと鉢合わせた。

 エフェは仕事帰りだろう、店で嗅いだあまいにおいが漂っている。彼のかぶる帽子には、毛玉の小精霊が飾りのようにくっついていた。


「やあ、セマちゃん、ヴァルトル君」

「こんにちは」

「こ、こんにちは」


 セマはまだ若干緊張気味であるが、ヴァルトルにしがみつかなくなった。


「二人とも学校の帰り?」

「はい、エフェさんもお仕事お疲れ様です」


 まだまだ街に不慣れなセマとヴァルトルは、時間をつくっては二人で散策していた。


「よかったら、案内しようか?」エフェが提案した。「市場もいいけど、安くて新鮮な八百屋もあるし、本屋とか、手芸店とか行ってみる?」

「行きたいです!」


 手芸店と聞き、すぐさま手を上げたセマは、はっとして手をひっこめた。


「手芸店は最後でいいですよ、こいつ、店から一歩も動かなくなるんで」

「ヴァル!」


 セマはべちんとヴァルトルの背中を叩いた。

 ユースグリットはピクシェノス国の北部に位置する大都市だ。

 活気があるのはバザールだけではない。

 市街地の店や市場は観光客を歓迎し、地元民ものんびり入り浸っている。

 外国人も、申請をすればバザールでなくとも街で店が出せる。ただし治安が荒れないよう、申請条件はなかなか厳しい。

 それに、無事開店できたとしても繁盛するとは限らない。商売敵は巨大市場に地元の老舗たち。生き残るのは至難の業。

 ユースグリットはピクシェノス国随一の商いの街。バザールだけではなく、街そのものを意味している。

 艶やかな弦の音色が耳に届き、少年少女は細い路地に足を入れた。

 薄暗い路地では翁がウードを弾いていた。つるりとした卵型の輪郭の胴をした、木製の弦楽器だ。他にも絵描きや大道芸人、怪しげな露店などでひしめいている。


「あ、そっちはスリとか詐欺師の縄張りだよ、その先の裏路地には元締めがいるから、あまり深入りしないでね」


 注意をしても、ちいさな魔術師たちはけろりとしていた。二人とも、小悪党を相手取れるていどには鍛えられているのだ。エフェとてそうなのだろうと察しているが、それでもならず者の縄張りには近づいてほしくなかった。


「危険は知らないと逃げることもできないからね」


 家族も虹の子も諭す。慢心は禁物、自分たちがまだまだ子どもだということを忘れるな──用心するに越したことはないと、少年少女は心得た。


「じゃあ行こうか、おいしいとうもろこし屋があるんだ」


 表通りに戻り、エフェは二人に屋台で焼きとうもろこしを買ってやった。

 屋台の店主はエフェに気負う素振りはなく、他の店も気軽に声を掛けてきた。


「俺はここで生まれて、ずっとここで暮らしてるからね」


 バンダナで髪や耳を隠すのは、一見さん対策だ。虹の子云々というより、単純にエフェとお近づきになりたい客を避ける為であるが、効果としては、ないよりましである。

 寮の門限が迫ってきてしまったので、手芸店は店の外観だけ眺め、立ち寄ることは断念した。セマは歯を食いしばりその場を離れた。


「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、俺に付き合ってくれてありがとう、楽しかったよ」


 エフェと別れ、十七の半刻、門限ぎりぎりに二人は男子寮、女子寮へ滑り込んだ。

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