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放課後、セマとヴァルトルは街中でエフェと鉢合わせた。
エフェは仕事帰りだろう、店で嗅いだあまいにおいが漂っている。彼のかぶる帽子には、毛玉の小精霊が飾りのようにくっついていた。
「やあ、セマちゃん、ヴァルトル君」
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
セマはまだ若干緊張気味であるが、ヴァルトルにしがみつかなくなった。
「二人とも学校の帰り?」
「はい、エフェさんもお仕事お疲れ様です」
まだまだ街に不慣れなセマとヴァルトルは、時間をつくっては二人で散策していた。
「よかったら、案内しようか?」エフェが提案した。「市場もいいけど、安くて新鮮な八百屋もあるし、本屋とか、手芸店とか行ってみる?」
「行きたいです!」
手芸店と聞き、すぐさま手を上げたセマは、はっとして手をひっこめた。
「手芸店は最後でいいですよ、こいつ、店から一歩も動かなくなるんで」
「ヴァル!」
セマはべちんとヴァルトルの背中を叩いた。
ユースグリットはピクシェノス国の北部に位置する大都市だ。
活気があるのはバザールだけではない。
市街地の店や市場は観光客を歓迎し、地元民ものんびり入り浸っている。
外国人も、申請をすればバザールでなくとも街で店が出せる。ただし治安が荒れないよう、申請条件はなかなか厳しい。
それに、無事開店できたとしても繁盛するとは限らない。商売敵は巨大市場に地元の老舗たち。生き残るのは至難の業。
ユースグリットはピクシェノス国随一の商いの街。バザールだけではなく、街そのものを意味している。
艶やかな弦の音色が耳に届き、少年少女は細い路地に足を入れた。
薄暗い路地では翁がウードを弾いていた。つるりとした卵型の輪郭の胴をした、木製の弦楽器だ。他にも絵描きや大道芸人、怪しげな露店などでひしめいている。
「あ、そっちはスリとか詐欺師の縄張りだよ、その先の裏路地には元締めがいるから、あまり深入りしないでね」
注意をしても、ちいさな魔術師たちはけろりとしていた。二人とも、小悪党を相手取れるていどには鍛えられているのだ。エフェとてそうなのだろうと察しているが、それでもならず者の縄張りには近づいてほしくなかった。
「危険は知らないと逃げることもできないからね」
家族も虹の子も諭す。慢心は禁物、自分たちがまだまだ子どもだということを忘れるな──用心するに越したことはないと、少年少女は心得た。
「じゃあ行こうか、おいしいとうもろこし屋があるんだ」
表通りに戻り、エフェは二人に屋台で焼きとうもろこしを買ってやった。
屋台の店主はエフェに気負う素振りはなく、他の店も気軽に声を掛けてきた。
「俺はここで生まれて、ずっとここで暮らしてるからね」
バンダナで髪や耳を隠すのは、一見さん対策だ。虹の子云々というより、単純にエフェとお近づきになりたい客を避ける為であるが、効果としては、ないよりましである。
寮の門限が迫ってきてしまったので、手芸店は店の外観だけ眺め、立ち寄ることは断念した。セマは歯を食いしばりその場を離れた。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、俺に付き合ってくれてありがとう、楽しかったよ」
エフェと別れ、十七の半刻、門限ぎりぎりに二人は男子寮、女子寮へ滑り込んだ。




