第1章6話:怒り
「痛え!! 痛え!!! なんだよコレ!? 何が起こった!?」
とジャランが混乱していた。
ジャランの護衛も急なことに困惑しながら尋ねる。
「ジャラン様!? いかがされたのですか!?」
ジャランが答える。
「足を怪我して……いや、斬りつけられたんだ! 何者かに!!」
ジャランの足から大量の血が流れていた。
そのときジャランとフィオネの目が合った。
ジャランはハッとして叫んだ。
「まさか……お前か!? フィオネ!!」
「……!」
ジャランが怒りに染まった顔でフィオネを睨みつけてくる。
「お前がやったのか? アァッ!?」
「は?」
フィオネはすっとぼけた。
「何をですか?」
「いま、俺の足を斬りつけただろ!?」
「いいえ……? どうしてそう思ったんですか? この距離からあなたを攻撃するのは無理でしょう?」
ジャランとフィオネの距離は10メートル以上も離れている。
護衛の目をかいくぐって攻撃を浴びせるのは至難だ……普通なら。
「固有魔法なら可能だ。固有魔法を使ったんだろ!?」
とジャランが怒鳴り散らすように問う。
フィオネはわざとらしく苦笑いを浮かべながら答えた。
「あの……ジャラン様? それは無理です。あなたもご存知でしょうが、私は固有魔法を使えませんから」
「くっ……!」
「なので言いがかりはよしてください。再度申し上げますが、私がやったことではありません」
私がやったことなんだけどね。
……とフィオネは心の中でほくそ笑んだ。
しかしジャランは、いまだに私が固有魔法を使えないと思っている。
シラを切るのは簡単だった。
「くそっ……!」
ジャランはフィオネを追及するのは諦めた。
「犯人を探せ! 俺に危害を加えたクズを見つけ出して、八つ裂きにするんだッ!!」
「は、はい!」
護衛の一人がジャランの治療のために残り……
それ以外の護衛たちは、犯人探しのために去っていく。
(さて……私もそろそろ立ち去ろう)
フィオネはすっきりしたような顔で、その場をあとにするのだった。




