第1章4話:隣の領地へ
とりあえず領都に入った。
といってもお金がない。
なのでまずはアクセサリー屋へいく。
そこで唯一、身に着けていたネックレスを売却した。
30万ディリンの資金ができた。
1ディリン=1円。
つまり30万ディリンとは30万円である。
(無一文で出て行けと言われたけど、身に着けていたものは咎められなくて良かった)
おかげで最低限の資金はできた。
この資金を使ってフィオネは買い物をすることにした。
まずバッグを購入する。
さらに野菜や果物、肉などの食材をいくつか購入した。
購入した食材は、さきほど買ったバッグの中に放り込む――――
と見せかけつつ、ゲーム魔法【アイテムボックス】に入れる。
(私のアイテムボックスは容量無限、時間停止。あまりにもぶっ飛んだ魔法だから、人に見られないほうがいいよね)
だからバッグに入れる動作をしながら、アイテムボックスに収納する。
アイテムを取り出すときは、逆をやるだけだ。
バッグはあくまでカモフラージュ。
ちなみにアイテムボックスからの出し入れは、頭の中で念じるだけで可能である。
詠唱などは必要ない。
(さて……あとは旅の衣服と、武器が欲しいな)
さすがに現在の服装は旅に向かない。
なので服屋で旅装束を購入する。
さらに武器については、武器屋に行ってショートソードを購入した。
ベルトも一緒に購入して、腰に巻き、ショートソードを引っ提げる。
「よし。これで旅を始める準備は万端ね!」
武器屋を出たフィオネは微笑んだ。
(でも、これからどこへ行こうか?)
特に行き先は決まってない。
行くアテもない。
少し悩む。
しかしすぐに決断した。
(そうだ。ヴァルタリス王国がいいな。ここから国境が近いしね)
貴族社会から追放されたフィオネは、今の国では住みにくい。
別の国に移り住んだほうが気楽だ。
ヴァルタリス王国は平和で安定しているので、新しい人生をスタートするにはもってこいの国である。
というわけでヴァルタリス方面へ向かう馬車を捕まえて、乗ることにした。
領都を出る。
馬車に乗って旅路をいく。
ガタゴトと走る馬車。
視界の端を草原が流れていく。
草原には岩や、樹木や、雑木林が点在している。
そこでフィオネは、ゲーム魔法で何ができるかを確かめる。
とりあえず馬車に乗っていても確かめることができる魔法を、いくつか使用してみた。
(うん……転移魔法だけじゃなく、鑑定魔法やステータス魔法も使えるね)
どれも異世界では必須級の魔法といえる。
ちなみにステータスを確認したところ、私のレベルは低かった。
(お……マップも表示できるじゃん)
マップ魔法によってマップを表示できる。
ただし、ほとんど白紙だ。
一度でも行ったところの地形データが更新されていく仕様のようである。
(便利すぎるわ、ゲーム魔法!)
とフィオネは感心した。
草原をゆく。
森をゆく。
山をゆく。
そして2日後にはクラルドット領を抜けた。
隣の領地である【マクスウィン領】に入る。
「マクスウィン領か……」
マクスウィン辺境伯は、フィオネとは因縁の深い家だ。
なにしろマクスウィン家の令息ジャランは、フィオネの元婚約者だからである。
正直会いたくない相手だ。
(でもマクスウィン辺境伯領は、ヴァルタリス王国へ行く途中にある領地だから、通るしかないんだよね)
わざわざ避けて通るのも時間がかかる。
だから入領することにしたのだ。
マクスウィン辺境伯領の街道をゆく。
やがて最初の街が見えてきた。
【田舎街クレトート】である。
馬車に乗りながら、フィオネは田舎街クレトートの街並みを眺める。
(ふむ。街に立ち寄る理由はないかな? いや……)
フィオネは思う。
(国境を出るときのために身分証が欲しいから、冒険者ギルドに行っておきたいな。冒険者カードを作れば身分証になるし)
冒険者ギルドは国際的な組織だ。
だからギルドで発行してもらえる冒険者カードは、いろんな国で身分証として使える。
今まではクラルドット家の家名があったから身分証なんて必要なかったけど……
今後は持っておいたほうが、さまざまな場面で便利である。
(領都で作っておくべきだったわ。完全に失念してた)
とフィオネはため息をつく。
正直、マクスウィン辺境伯領には長居したくない。
でも身分証があるのとないのとでは大違いだ。
できれば作っておいたほうがいいだろう。
(よし。あの街の冒険者ギルドに寄っていこう)
と意志を固めた。
街の近くで馬車を降りる。
さっそく街の正門にたどりつく。
正門の門衛に呼び止められた。
「クレトートの街にようこそ! 身分を証明できるものは?」
「ないわ」
とフィオネは答える。
門衛は言った。
「でしたら入場料をいただきます。500ディリンとなります」
「はい。500ディリンね」
「確かに」
フィオネは門衛に500ディリンを渡して、街に入場した。
大通りを歩き出す。
赤い屋根の家々が立ち並ぶ街―――クレトート。
人口は5000人ぐらいだ。
大通りには民家や、店が並んでいる。
行き交うのは買物客や行商人、町娘や主婦、冒険者らしき人々。
どこにでもある普通の街である。
といってもここは、元婚約者ジャランのいるマクスウィン領。
フィオネは警戒心がぬぐえなかった。
(ジャランがいたら面倒だなぁ。ぜったい絡まれるだろうし)
ただ……とフィオネは思う。
(でもまあ、マクスウィン領もそこそこ広いからね。ジャランと遭遇しちゃうことは無いか)
とフィオネは少しだけ楽観視した。
しかし。
その認識は甘かった。
「おーおー」
と声がした。
「誰かと思えばフィオネ嬢じゃん」
名前を呼ばれて振り返ると、ジャランがいた。
ジャラン・フォン・マクスウィン。
身長178センチ。
キツネのようなオオカミのような顔立ち。
金髪。
赤い瞳。
騎士のような服装に身を包んでいる。
さらに背後には3名ほどの護衛を引き連れていた。
(えええ……なんでいるのよジャラン)
フィオネは嫌そうな顔をした。




