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第1章3話:始まり


(とすると今の私は、ゲームで使用したことのある魔法を、使うことができる……?)


ゲーム魔法の説明文を読むかぎりでは、そういうことになる。


しかし、さすがにフィオネは半信半疑(はんしんはんぎ)だった。


前世のゲームで使ったことのある魔法。


攻撃魔法。


回復魔法。


補助魔法。


中には空を飛んだり、物を生成したりする魔法もある。


それを全て使えるとなったら――――


人生が一変するのではないか?


「……」


ごくりと息を()む。


無能とさげすまれてきた。


社交界でも馬鹿にされ、貴族令息には相手にもされず。


挙句(あげく)の果てには父から家を追い出された。


そんな底辺のような人生が、全てひっくり返るかもしれない。


「本当に使えるのか、確かめないと……!」


フィオネは周囲を見回した。


屋敷の敷地(しきち)には誰もいないが、どこかに人目(ひとめ)があるかもしれない。


いったん屋敷を出ることにした。


庭園を抜けて、正門(せいもん)を抜けて。


近くの森に入り込む。


よし……


ここなら魔法を使ってみてもいいだろう。


でも、どの魔法を使おう?


うーん。


(たとえば……転移魔法を使えたりなんてしたら、ヤバイよね)


転移魔法。


前世のゲームでは定番の魔法だ。


しかし異世界では伝説級(でんせつきゅう)の魔法であり、使える者は皆無(かいむ)とされている。


もしソレを自分が使うことができたら……


とんでもないことである。


ごくりと息を()む。


(やってみよう)


フィオネは目を閉じた。


転移先(てんいさき)をイメージする。


屋敷から少し離れたところにある街―――領都(りょうと)


その正門(せいもん)(まえ)


ちょうど衛兵の視界に入らない、門の(わき)にある大きな樹木の裏側。


そこを転移先としてイメージしたあと。


魔法の詠唱を心の中でおこなう。


(――――【転移】)


瞬間、身体がふわりとわずかに浮いた。


視界が歪む。


光が(はじ)ける。


次の瞬間――――――


「!!」


景色が変わっていた。


樹木の(かげ)


その樹木の向こうに領都の姿が見える。


正門が見える。


転移成功だ。


「ほ、本当にできた……」


フィオネの声が震える。


本物だ。


ゲーム魔法は本物だった。


前世でプレイしたゲームの魔法が、本当に使えるんだ。


(じゃあ、他の魔法も……)


回復魔法も。


攻撃魔法も。


バフも、デバフも。


クラフトスキルも。


全部使えるということになる。


フィオネは樹木にもたれかかった。


全身が打ち震えている。


(無能だって……役立たずだって、言われてきたけど……)


涙があふれそうになった。


でも悲しみの涙じゃない。


(私……これから変われるかもしれない)


心からそう確信した。


そのとき。


ふいに思うことがあった。


実家のことだ。


フィオネは【ゲーム魔法】を使えなかったから、実家で無能(むのう)(あつか)いされてきたのだ。


ならばゲーム魔法について理解したことを、父に報告したら……


家からの追放を撤回してくれるのではないか?


(いや……)


とフィオネは思い直した。


(もういい)


いまさら父の娘に戻るつもりはない。


そもそもフィオネは貴族社会が好きじゃなかった。


しがらみの多い世界だし、何より自分のことをさんざん馬鹿にしてきた。


そんな場所には二度と戻りたくないのが本音だ。


(せっかく追放されて、貴族社会から解放されたのだから、これからは好きに生きていこう!)


異世界でやってみたいことがたくさんあった。


各地を旅してみたい。


商売をやってみたい。


この世界を楽しみ尽くしてみたい。


これからは、何にも邪魔されず、好きに生きていくのだ。


だから過去には戻らない。


そう決心して、フィオネは歩き始めるのだった。






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