第1章17話:無双
終わったら3人はふたたび森の奥へと歩き始める。
ただしエレクとキルティアは、フィオネを見る目が明らかに変わっていた。
森を進む。
木々のあいだを抜けていく。
ある程度進んだときだった。
ドスン。
ドスン、ドスン……
と重い足音が響いてきた。
「……!」
3人は立ち止まって警戒する。
木々の向こうから、巨大な影が2つ現れた。
「あ、あれは……!」
キルティアが息を呑む。
身長3メートルはあろうかという巨大なゴブリン。
筋肉が盛り上がっている。
手には大きな鉄のこんぼうを持っていた。
赤い瞳がぎらぎらと輝いている。
「ゴブリンキングだ……!」
とエレクが叫んだ。
「しかも2体も……!?」
とキルティアが顔を引きつらせる。
ゴブリンキング―――ゴブリンの上位種であり、Dランク相当の魔物だ。
通常のゴブリンやホブゴブリンとは比較にならないほど強力である。
「ま、まずいですね……」
とキルティアが冷や汗を浮かべる。
「ああ。1体ならともかく2体同時はシャレにならねえ。倒せなくはないが、相当骨が折れる作業だぞ……!」
エレクも焦りの表情を浮かべていた。
ガアアアアアアッ!!!
と咆哮を上げながら、2体のゴブリンキングがこちらに近づいてくる。
「くそっ! やるしかねえか……!」
とエレクが剣を構える。
キルティアも弓を構えた。
そのとき――――
「任せて」
とフィオネが素早く駆け出した。
「え!?」
「フィオネさん!?」
2人が驚く。
フィオネは強めに地面を蹴って加速する。
次の瞬間。
フィオネは1体目のゴブリンキングの目の前に現れていた。
まるで瞬間移動のごとき素早さである。
(まずはさっきと同様に、剣で倒そう)
と思ったフィオネ。
「ハァッ!!」
シュートソードを振るう。
すさまじい剣速が空気を切り裂く。
ズバアアアァンッ!!
ゴブリンキングの巨体が、真っ二つに切断された。
血しぶきが噴き出す。
ゴブリンキングは声を上げることもなく、地面に崩れ落ちた。
「なっ……」
とエレクが呆然とする。
(一撃で倒しただと!?)
(すごい……!)
とキルティアも思う。
フィオネはそのまま2体目のゴブリンキングに向かって疾走する。
2体目のゴブリンキングがこんぼうを振り下ろしてきた。
しかしフィオネは横に回避する。
(よし――――ここで!)
攻撃魔法を使用しようと決意するフィオネ。
「―――――【魔炎竜巻】!!」
フィオネはそう詠唱する。
魔力の炎によって出来た小さな竜巻で、敵を焼き払うゲーム魔法――魔炎竜巻。
青と赤が入り混じった、逆巻く魔炎がゴブリンキングを包み込む。
「ガアアアアアァアア――――――!!???」
ゴブリンキングが絶叫する。
魔炎竜巻は森の木々には燃え移らない。
対象だけを的確に焼いて絶命させる。
最終的には、そのゴブリンキングは魔炎によって消し炭に変わった。
骨も残らず消滅する。
「……」
「……」
エレクとキルティアは、あんぐりと口を開けていた。
完全に言葉を失っている。
フィオネがショートソードを鞘に収めながら振り返った。
「ふう……終わったわ。素材は私がもらってもいいかしら?」
「あ、ああ……」
「はい……」
エレクとキルティアはうなずく。
フィオネがゴブリンキングの素材を回収し始める。
1体は【魔炎竜巻】で消滅させてしまったので、剣で斬り殺したもう1体の素材のみ回収する。
その姿を眺めながらエレクは思う。
(いったい何者だよこいつ。ゴブリンキング2体を瞬殺なんて、尋常じゃねえぞ)
キルティアも思った。
(実はフィオネさんって、名の知れた戦士なのでは……)
ゴブリンキングの素材を回収したあと、フィオネたちはさらに森の奥へと進んでいく。
途中、何度も魔物に遭遇する。
しかしフィオネが瞬殺していく。
「――――【グラッシアル】!」
氷魔法でワーウルフの群れを串刺しにする。
【――――【ヘルスパーク】!」
雷魔法でホブコボルトの群れを感電死させる。
スタンピードで押し寄せてくる魔物たちを、フィオネが次々と撃破していく。
エレクとキルティアが1~2匹倒してるあいだに、フィオネはその10倍ぐらい倒している。
尋常じゃない殲滅力であった。
「……」
フィオネは自分の手のひらを見ながら、しみじみと思う。
(つい数日前までは、本当に無能な令嬢でしかなかったけれど……今の私は、こんなにも戦える。誰かの役に立てる……!)
そのことが嬉しくてたまらない。
ついついテンションが上がって、大魔法をブッパしたくなる衝動に駆られる。
そんなフィオネの背中を見ながらキルティアは思う。
(この人……いったいいくつ固有魔法を持っているのでしょうか……)
普通、固有魔法は1人につき1つまでだ。
しかしフィオネは明らかに2種類以上の魔法を使っている。
キルティアもエレクも驚愕するばかりだ。
だが。
(……すげえな)
と、フィオネの戦いぶりを見ながらエレクは、心の中でつぶやく。
(固有魔法を覚えたて、お守りが必要な新人冒険者……そんなふうに侮ったことを、改めなきゃいけないな。後で謝ろう……)
そう思って、謝罪する機会をうかがうエレクであった。




