第1章12話:スタンピード
男性は冒険者風の装備をしている。
茶髪で青い瞳。
顔は汗だくで、恐怖に引きつっていた。
ロビーにいた冒険者たちが一斉に彼に注目する。
受付嬢も驚いた様子で尋ねた。
「どうされたんですか?」
男性は荒い息を整えながら叫んだ。
「モンスタースタンピードだ! 街の南の森で、モンスタースタンピードが発生した!」
「な、なんですって!?」
ロビーが騒然となった。
「スタンピードだと!?」
「マジかよ……」
「どれくらいの規模だ!?」
冒険者たちが次々と声を上げる。
フィオネも驚きを隠せなかった。
(モンスタースタンピード……魔物の大群が押し寄せてくる現象ね)
異世界ではときおり発生する災害の一つだ。
何らかの理由で魔物が暴走し、群れをなして人間の街や都市を襲ってくる。
放置すれば街が壊滅する危険性もある。
「すぐにギルドマスターに伝えてきます!」
と受付嬢が慌ただしく駆けていった。
冒険者たちがざわめく。
「お、おい。どうする?」
「良い稼ぎ時じゃねえか。きっと討伐隊が組織されるはずだ。俺は参加するぜ」
「俺は逃げる。モンスタースタンピードなんて、命がいくつあっても足りないしな」
「あたしもまだFランクだし……避難しようかしら」
逃げることを考える人。
戦うために気合を入れる人。
反応はさまざまだ。
(うーん。私も避難かな。冒険者になったばかりで、スタンピード制圧に参加とか無理だし)
ちょうどこの街に長居は無用である……と思っていたところだ。
さっさと街を出てしまおう。
フィオネは玄関ドアを出ようと歩き出す。
そのときだった。
「ちょっと待て」
「!?」
いきなりフィオネは肩を掴まれた。
振り向く。
そこに立っていたのは大柄のオッサンだ。
スキンヘッド。
赤い瞳。
戦士の鎧に身を包んでいる。
筋肉マッチョである。
「えっと……どなた?」
「俺はこの冒険者ギルドのマスターだ」
「ギルドマスター!?」
まあいかにもギルマスみたいな見た目はしているが……
彼は言った。
「さきほどの模擬試合を見ていたぞ。よくぞグレンを倒した」
「はぁ……」
「その実力を見込んで、ぜひともスタンピードの討伐に協力してもらいたいのだ」
「えっ」
「これからスタンピードの討伐隊を結成する。その討伐隊に参加してもらえないだろうか?」
「ええぇ……」
これから街を出るつもりなんだけど……
ギルドマスターは説明する。
「実は人手不足でな。スタンピード制圧にあたっては街の衛兵団にも協力を呼び掛けるつもりだが……圧倒的に戦力が足りてないのだ。だから実力ある者の力を借りたい」
「う、うーん」
要求はわかる。
しかし。
「私……新人冒険者だから、スタンピードなんて荷が重いというか……」
「お言葉だが、君の実力は新人とは思えない。あのグレンを一撃で倒すなど……歴戦の戦士といっても過言ではない!」
「うぐぐ……」
「このままではスタンピードに街は滅ぼされてしまうだろう。それを食い止めるためには、君のような強い戦士の力が必要なんだ。報酬はたんまり支払わせてもらう。だから頼む。この通りだ!! どうか君の力を貸してくれ!!」
とギルドマスターは頭を下げてきた。
「う、うーん……」
悩んだ。
しかし、街が滅ぼされてしまう……と言われたら無視できない。
現実的にそれは有り得ることだからだ。
そしてゲーム魔法があれば……確かに力になれることもあるだろう。
だから。
「わかったわ……協力します」
とフィオネは承諾した。
「そうか、ありがとう! これから街の正門前で戦士たちの集合をかける。君も正門前で、戦闘の準備をして待っていてくれ!」
そう言ってギルドマスターは去っていった。
フィオネは思う。
(まあいっか……魔物相手に実力を試せる良い機会でもあるし)
さっきの模擬試合は人間が相手だったし、武器も木剣だった。
手加減もしていた。
しかし魔物が相手であれば、もっと本気で戦うことができるだろう。
ゲーム魔法がどれだけ強力かを、真の意味で測る良い機会だ。




