第1章1話:追放
春。
朝方。
屋敷の執務室に、伯爵令嬢フィオネは立っていた。
身長162センチ。
茶色のセミロング。
黄色い瞳。
紅色のワンピース風の衣服に身を包んでいる。
首からはネックレスをつけていた。
そして。
眼前の机に座っているのは、フィオネの父であった。
フィオネと同じで、茶髪と黄色い瞳をしている。
父は険しい顔で告げた。
「フィオネ。お前を我がクラルドット家から追放する。今すぐ出て行け!」
父の言葉にフィオネが目を見開く。
「ど、どうして……」
「お前が、この家にいる価値がないからだ」
父が冷たく説明した。
「フィオネ、お前は12歳のとき固有魔法として【ゲーム魔法】を授かった。文献にも記載のない謎の魔法だったが、もしかしたら希少な力かもしれないと期待したものだ。しかしどうだ? 19歳になった今でも、お前はその魔法をまともに使えないではないか!」
何も言い返せなかった。
それは事実だったからである。
フィオネの固有魔法である【ゲーム魔法】は完全に未知の魔法だ。
魔法の発動条件がわからない。
使い方もわからない。
しかし、いつかわかるかもしれないと、さまざまな努力をしてきた。
だが結局、フィオネはただの一度も【ゲーム魔法】を発動することはできなかった。
「し、しかし……いつかは【ゲーム魔法】の使い方がわかるかもしれません。ですからもう少しだけ、お時間をいただけないでしょうか」
「いい加減にしろ!」
と父は怒鳴った。
「他の貴族令嬢は、立派に魔法を使いこなしている。お前だけが無能であり、恥をさらし続けているのだ!」
そのとき父は一枚の手紙を差し出してきた。
「これを見ろ。お前の婚約者だったジャラン殿からの手紙だ。ジャラン殿は本日を以って、お前との『婚約を破棄する』そうだ!」
「なっ……」
私は手紙を手に取り、読んだ。
それは確かにジャランからの手紙だった。
父が述べたように、そこには私との婚約を破棄する内容が記されていた。
「ジャラン殿の気持ちもよくわかる。誰が魔法を使えない娘を妻に迎えたいと思うんだ!?」
「……っ」
「魔法も使えない、政略結婚の道具にもなれない。お前は何の役にも立たないクズだ。だからもう一度言おう――――家から出て行け。金輪際、顔も見たくない」
吐き捨てるような父の言葉に、フィオネは打ちのめされた。
「ああ、一応言っておくが、家を出るときに金銭や財物を持っていくなよ。無一文で出て行け」
「……!」
「この家の物は、すべてクラルドットのものだ。お前のような役立たずが持ち出す権利などない」
一文無しで放り出されたら、最悪、野垂れ死んでしまうかもしれない。
そんなことは承知の上で、父は命じているのだ。
もうフィオネを娘として見ていないのだと、彼女は理解した。
「わかりました……全て、言う通りにいたします」
消え入るような声でフィオネはつぶやいた。
深々と頭を下げる。
「今まで、お世話になりました」
きびすを返し、執務室をあとにした。
こうしてフィオネは、無一文のまま家を追い出されることになった。




