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(2)生活の土台

冷たい秋の夜風がハウゼンを吹き抜ける。

第六区画ロトンディ広場は大勢の市民たちで溢れている。月に一度の『区画民会』は、ただ市民たちが現状への不満をぶつけ合う場ではない。


参加者が出揃い民部省事務官が開会を宣言したころ、アルダンは最後列に静かに立つ。ここでの提言が数日後に行われる『全市民会』で計られ可決されれば元老院へ最終判断が委ねられる。

この『区画民会』では3名前後が政策提案の演説を行い、参加者の過半数の賛成を得れば議案化される。


まず最初に小規模商会主だという男の演説だ。

「本日めでたく帝国との通商航路が開通し、人と物の交流はより一層加速するでしょう。

しかし、その恩恵を受けるのは他国を相手に商売をする大規模商会と、宿泊関連業だけではありませんか?

どうか地元相手の小規模商会、職人や生産者にまで恩恵が行き渡る制度設計をして頂きたい」


次いで職人組合の代弁者という男。

「今年は帝都航路開通に伴い、港湾設備や新倉庫建設で多くの人手がとられました。しかし他の公共工事、特に下水道の補修は手つかずです!

港湾の拡大は重要でしたが、市民の生活の基盤は何より優先されるべきでは?

疫病の発生にも繋がる設備を放置し、一部の者たちの利益だけを優先する都市運営は改めるべきです!公衆衛生予算の追加を強くを要求します!」


最後は退役軍人だという初老の男。

「来年早々、元老院議事堂の大改修追加に巨費を投じられることを、皆さまはご存知か?

三年前は議事堂正面に『解放の女神像』を建立。昨年は敷地内に元老院専用の浴場を整備。さぞ見応えにのある威容と成りましょうが、我々の生活には何の役にも立ちません。

それよりも公衆浴場の増設を切に願います!」


ハウゼンの公共設備は老朽化の目立つものも多い。そこを放置する元老院を、市民達は遠慮なしに発言している。君主制国家ならばあり得ない文化だろう。


アルダンは、提案に対する参加者投票の直前に広場から家路についていた。実父が関わる通商条約や元老院に対する不満ばかりで、やや居心地が悪かったこともある。

彼は寒風を背に歩きながら考えを巡らせていた。


アルダンはユリアヌス邸に帰ると、泊り番のオスカルを見つけて言った。


「あれじゃ貴族の子弟は参加しないわけだ。元老院階級にとっては、耳の痛い話ばかりさ」

「殆どがそうです。しかし彼らの主張は生活の土台に直結するものばかり」

オスカルが捕捉する。


「通商条約に絡む訴えも出されていたよ。それ自体が否定されていないが、産み出される富が幅広く行き渡らない仕組みに問題があるんだな。公共工事の遅れもそうだ』

アルダンは疲れた様子で自室に戻った。


彼は寝転がり、天井を見ながら呟く。

「国とはなにか。民衆の衣食住を補償するだけの存在で良い、か。この現状で俺には何が出来るのかな」


かつてリヒト卿が話したことを思い出し、自らの進路について思いを巡らせる。

ここまでお読み下さった皆様、いきなりのお知らせてますが、物語の構成を精査し、最高の形で完結させるため、しばらく執筆に専念いたします。

再開の目処が立ち次第、改めてお知らせします

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