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白妙の菊、星辰の鷲  作者: 北斗巴
序章 遠き日へ還らん
2/12

序章 2  首都からの追放者

雨の止んだ夕刻、アルダンは杯を手に『政治劇のセリフ』を呟いていた。

「ここの反乱鎮圧は、軍歴の長い軍団長達が過去に3度も失敗しているのだ。それを北方の国境警備が優先するからといって、寄せ集めの我が軍団に押し付けるとは。現実を知らぬ年寄どもが」

アルダンはしばしば、マースにだけはこのような物言いをする、

その理由は、お互いに測りかねている。

ただ、マースの遠慮のない切り返しを気に入っているフシはある。


恨み節のように呟き白葡萄酒を煽るアルダンはまだ25歳。ライネ共和国の寡頭支配の象徴たる元老院に議席をもつユリアヌス家の当主だ。当然、当主たる彼自身が元老院議員でもある。

共和政体内の貴族階級にある身分だが、その言動と政治姿勢は共和国の人口の大半を占める市民階級の権利保護と生活の向上に重きをおいていた。


「俺以外にも、20代30代の議員は居るが」

「たったの9人でしょう。しかも、そのうち6人が『元老院派』でしたっけ」


市民階級の生活の充実こそが、君主国が乱立する大陸で共和制の国が生き残るための礎になると信じていたからだ。実際に4年前のユリアヌス家相続以来、祖父や父が遺した私財を投じて民衆の為の政策勉強会や文化交流会などを定期開催しており、そこには必ず自身も参加するため市民階級はアルダンを身近な存在と捉えている。


「権利者は20歳を過ぎると元老院入り出来る法律だが、21歳っていうのは25年ぶりだったそうだ」

「自慢ですか、それ」

マースの切り返しを気にしない風に、アルダンの呟きは続いた。


『護民派』


貴族間では、市民階級寄りの政策を推す勢力をこう呼んでいるし、市民たちも同様だ。

亡き父の後を継いで初めて登院した頃のアルダンは、保守派が8割以上を占める元老院内で歓迎されない存在だった。


「父上は、病で亡くるのが早すぎたのだ。もう少し長く生きて、俺に力を蓄える時間を与えてるべきで、、、」

「酒が入るといつも別人になりますね。そんな調子で飲まれる酒に同情したくなりますよ」


アルダンは元老院初登院の3年後、発言の機会も増えた頃に全体からの推薦で首都防衛隊長に選出され、身の置きどころをハウゼン北面警備部隊にうつした。

更に一年後、今度は執政官の推挙という名誉極まりない形式で、再結成された第9軍団の軍団長に任命された。そして勃発以来4年、解決の糸口さえ見つからないゲルンローテ属州の反乱鎮圧の任に付くため首都ハウゼンを離れ、この時に至る。


「この年齢で軍団を率いるなんて、想像もしていなかった。もう少し戦術を学ぶ時間がほしかった」

「時間、人材、知識知恵、、、欲しいものばかりですね」

「なぜ経験の浅い俺に、この任務を」

「ただの厄介払いです」

「わかっている」

「そうでしょうね」


形式はライネ共和国支配層のエリートコースに乗った形だ。しかしその実態はマースの指摘通りであった。それはアルダンに与えられた新生第9軍団の陣容を見れば一目瞭然だった。騎兵500騎の騎兵隊が4個。重装歩兵1000人の大隊が6個。総勢8000の兵力はライネ共和国の一個軍団の規定に則っているが、6割は過去の失敗で壊滅した第3、第5、旧第9軍団の敗残兵で、残りは10代中心の新兵であった。

第9軍団に配属された大隊長はマースを除く全員が先の3軍団の生き残り士官である。彼らに共通するのは、過去の反乱鎮圧作戦で我先に逃げ出したが為に生還できた、という事実。



そこでハウゼン出立の前、アルダンはマース以外の大隊長を肩書きはそのまま自らの直属部隊に組み込んだ。彼らには、『軍歴乏しい自分を経験豊富な皆さんに補佐していただきたい』と伝えて了承を得た。


「その賭けに勝ったんだな、我々は」

「戦ったのは、私だけですけどね」

「考えたのは俺だ」


マースは中身を飲み干し、アルダンは杯に酒を注ぎ足した。


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