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(15)羊頭狗肉

「先生。そもそもなぜ共和国は、こちら側から条約を打診したのでしょうか?今でも食糧や物資は充分に賄えていますよね?下手に将来の禍を呼び込まなくても。それよりも目先の豊かさを求めて、ですか?」


総督府に到着し一夜明けた休息日。

アルダンはこの後しばらく会う機会の無くなるであろうリヒト卿に、最後の『授業』を求めていた。


リヒト卿は好物の茶を啜ると、椅子に深く腰掛け直してから話し始めた。

「元老院の連中は、それほど近視眼的ではないね」

「ではなぜ?方針を決議したのは元老院ですよね。父は元々この案には疑問も抱いている様子でした」

「私は真っ向から反対の立場をとってしまってね。あれは不味かったかな」

カラカラと笑うリヒト卿は、アルダンの目を見据えて続ける。


「君は元老院について、何か思うところはあるかい?」

「はい。民意がやや反映されにくい仕組みですが、それでも議会制というのは帝国のような支配体制より、随分と良いように思います」


リヒト卿はふっと息をつくと、共和政の正義を真っ直ぐに信じる若者が羨ましくなった。そして、どこまでをアルダンに話すか思案する。

しばしの沈黙。

アルダンの知りうる限り、リヒト卿は初めて言葉を選んでいる様子を見せていた。


「ふうっ......。

アルダン、これだけは言っておこう。

元老院の中にだって、

帝国貴族とよく似た病を患う者が居るんだよ」

リヒト卿は喉の渇きを癒すために茶を啜る。


再びの沈黙。

元老院体制に様々な歪が生じていることは、アルダンも承知していた。

彼は師の言葉の先にあるものを必死に探す。


リヒト卿が事務官に呼ばれ席を外してもなお、アルダンは様々な可能性について考察していた。そして一刻の後に朧気ながらも姿を現した仮説の正体を、彼は受け容れ難く思う。


リヒト卿が執務室に戻ってきたが、アルダンは気付かずに独り言を呟く。

「いやまさか、こちら側から帝国を....」


目の前にリヒト卿が座り、ようやく気づく。

「あっ先生。おかえりなさい」


「その『まさか』だよ」

リヒト卿は呟く。


「もしそうだとして、彼らは帝国とぶつかる事の意味を理解しているのですか?勝ち負けの問題じゃありません。無関係な中央諸国が戦場になるんですよ」

「無関係ではないさ」

「そんな......」

「帝国と元老院の病人たちは、どちらも大陸全土を自分達の支配下に治めることを夢見ているんだよ。

帝国はより多くの弱者から搾取するために。

こちら側の建前は、彼らが叫ぶには『民衆解放』だったかな。実際はそんなこと微塵も思ってもいないがね」


「初めて聞きました」


アルダンは肩を落としている。

これまで揺るぎなく信じていた共和政ライネの存在理念が、空風に吹かれているような錯覚にある。


『国は民衆のために、民衆は近しき者のために』

その理念のもと民衆の代弁者を自認する議員らが熱弁を交わし、国を民をより良く導くはずの元老院内が確実に腐食し始めていることを知った。


「今のライネが掲げる存在理念とは、次々と属州を増やしていった当時の反省のもと、元老院が定めたはずですよね。それを今さら」

アルダンはやり切れない。


「そう塞ぐものじゃない。そんな思想の輩はまだ一部だし、表立って帝国侵略など唱える馬鹿者はまだいない。しかしその危険分子が主流派とならないように、ユリアヌス卿のような人望ある実力者が元老院には不可欠なんだよ。わかるね。君には私の分まで我が友を支えることを期待しているよ」

アルダンの肩を叩きながらリヒト卿は立ち上がり、最後のメッセージを伝えながら玄関まで見送った。


「国とはなにか。

民衆の衣食住を補償するだけの存在で良いと私は思う。国なんて、大仰しくある必要はないってことさ」






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