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(14)神君の遺言と帝国の病

ヴェリア属州二日目の夜。

旧自由都市の一つオヴァールの宿場にてアルダンは、その日の父と師の会話を振り返っていた。


大陸の二大強国と称される帝国とライネ共和国だが、純粋な国力差は6:4といったところ。

国土面積、人口、資源、生産力、兵力、人材などの主要素のうち、面積と資源については拮抗する。しかし両国の決定的な差は、資金力に由来するという。

帝国の強みは、大陸から見て北東から東に点在する幾つかの島嶼国との交易を独占的に行える地理上の利点にある。これらの島嶼国は、その遥か東に存在するという、全く別の文化圏とも繋がりを持つようだ。

ライネ共和国にとっては未知ともいえる異文化圏。それすらも巻き込む帝国の経済網。ここから産み出される富を源泉として増強された軍事力による、周辺国への隷属的支配。これを加味すると帝国と共和国の国力差は更に広がる。


故にユリアヌス卿とリヒト卿の二人は、互いに関税を課さないという条件を受け入れ、人の往来にも制限を設けなかった帝国の思惑を測りかね、道中の殆どの時間をその考察に費やしていたのだ。


アルダンは翌朝の出発直後、父とリヒト卿の意見交換が深まる前に尋ねた。


「先生。帝国が対等な条約に合意した。これは単に共和国の力量を認めているから、とは考えられませんか?」

アルダンは散々考えた挙句にその答えが見出せず、最も楽観的な見方を口に出して恥じ入っていた。


しかしリヒト卿の返答は意外なものだった。

「恐らくはその通りだろうね、しかし」

彼は続ける。


「帝国との物流が活発化するついでに、何が起こるか?君は今回の旅で何を得てきたかな?」

リヒト卿はいつもアルダンにするように、質問に対して質問で返す。


「訪れた各地の社会構成や文化、民衆の生活様式など。時間の許す限り体感しようと努めました。父の勧めではありましたが」

「これからは帝国の商人だけではなく、多種多様な立場の者達がライネに訪れやすくなる。彼らは君のようにライネの多くの情報を祖国に持ち帰る」

「そして、あっ......すいません」

アルダンは何かを言いかけた。


「いいよ、続けてごらん」

リヒト卿がやんわりとアルダンに促した。


「同時に彼らは、共和国内に自分達の思想や文化を持ち込むことが可能になりますね。そこが帝国の狙いだと?」

「そうだろうね。彼らの悲願は大陸全土の併呑だ。何世代をかけても果たすべき、初代オーデン大帝の遺言だそうだ」

呆れ気味にリヒト卿は頭を振った。


「そのオーデン大帝は、帝国ではほとんど神格化されていました」

アルダンが思い出したように話し、

ユリアヌス卿が付け加える。

「帝国中枢の貴族どもは、もはや神君オーデン大帝の狂信者ばかりだぞ」


帝国は国境を接しないわが国に対して、時間をかけて我々の弱みをを探る。

あと何十年かかろうと、彼らはきっと共和国を内と外から帝国色に染めようとするだろう。


それがユリアヌス卿とリヒト卿の、今のところの見解だった。

そしてアルダンは、とある矛盾に気がつく。


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