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(13)父と師

ヴェリア属州を南下する使節団と州兵の一団は、属州総督府が置かれる港湾都市アークライトを目指した。豊かな緑に包まれた穏やかな丘陵地帯を抜ける道は、初夏の柔らかな日差しに輝き、暖流がもたらす温暖な気候は旅の疲れを癒やす。


アルダンは、馬上で語る父とリヒト卿の会話の隅々にまで聞き入っていた。

アークライトまでの3日間は、彼にとって単なる移動の時間ではなかった。幼い頃から彼に大きな影響を与えてきた二人の実務政治家が、共和国の現状のみならず未来まで語り合う貴重な機会であり、その傍らに身を置くことで、自らの見聞を深める特別な授業にもなった。


特に印象的だったのは、二人が帝国との通商条約発効後の見通しを話していた場面だ。

一団が葡萄畑が広がる丘陵地帯を通過する中、ユリアヌス卿が口を開いた。

「通商条約それ自体は、自給自足を旨としてきたライネ共和国にとり、大きな転換点となる。足りないものは他所から奪う行為を繰り返してきた歴史に、楔を打ち込める」


リヒト卿は苦笑した。

「同胞の先人らを野蛮人のように言うか。まあそれは置くとして海路を開く意義は大きいな。幾つかの課題についての首尾は?」


「条約の発効は半年後と時間がないからな。セルシアは既に、港湾設備拡張のための土木事業を開始している。今ごろは山を削り土砂や石材の運搬が始まっている頃だ」

ユリアヌス卿は常に冷静だが、続けて友に協力を申し出る段になって、珍しく力が入った。

「そこでアネリアに頼みたいのは、このヴェリアから人足を300ほど、王都カナンへ派遣して欲しいのだ。何せセルシアは小国で人手が足りない。冬前の航路開通を実現するためにも」


「それは手配済みだ。我らがアークライトに着く頃には、派遣団の出発は可能だ」

リヒト卿が胸を反ってみせた。

「仕事が早いな」

感心するユリアヌス卿。

「前総督殿の引き継ぎに書かれてあってな」

両手を広げるリヒト卿。


「あのご老人、ただの飲んだくれではなかったか」

「仮にもヴェリアの総督だぞ。怠惰過ぎてはヴェリア人に足元を見られる。その程度は理解していたのさ」

2人は前総督に対する敬意を込めて笑い合った。


ユリアヌス卿の強い口調は続く。

「しかし我ら共和国の物流は変わるぞ。4カ国に跨る貿易海路の確保は、ライネの経済成長を加速させ、したたかな大陸中央諸国への依存度を減らす」


「なぜ帝国は対等な条件を受け入れたのかな」

静かに返すリヒト卿。


「表向きさ」

「やはり正使殿は、そう感じてきたか?」


ユリアヌス卿とリヒト卿の会話は、これからが本題のようだった。

その静かな迫力に、アルダンの入り込む隙は微塵もない。彼は真剣に聞き入り続けていた。



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