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(9)比翼連理、父子有親

国境の町ヴェストスを早朝に起った使節団一行は、その日の夕方前にセルシア王国の王都「カナン」に到着した。それほどセルシア王国の国土は狭い。

王都の規模自体、帝国の一地方都市にすっぽりと収まる程度。人口も三万人に満たないといわれている。因みに帝都ノイエンキルヘンの人口は五十万とも六十万とも伝えられていた。


その日のカナンは、巨大な祭り会場のように、街全体に装飾が施されていた。王宮へと続く大通りには、色とりどりの旗や飾りが掲げられ、人々は極彩色の民族衣装を身につけ、街の至るところ、思い思いに歌い踊っていた。


「おおっ……」

アルダンの丸まった眼を見てオスカルは察した。

〜明日も若様のお供だな〜


「何の祭だろう」

アルダンの疑問より早く、オスカルが周囲に尋ねていた。


一人の市民が誇らしげに答えた。

「今日は、豊春祭です!大地と海、それぞれの神様に感謝を捧げ、豊穣と大漁を皆で願う大切な祭であります」


アルダンは、その市民の輝くような笑顔に、心の底から感銘を受けた。帝国の領民には決して見られない、幸せに満ち足りた表情だった。


カナンでの宿は、ユリアヌス卿の趣向に合わせて、やはり街場の宿。とはいっても、街自体が小規模なため夕方過ぎの国王謁見と夕食会には充分に間に合う場所にある。

一行の殆どは各々の宿に馬や荷物を落ち着かせると、思い思いの場所へ出掛けていった。

街と祭の雰囲気に彼らの気がとられていたことをユリアヌス卿は知っていた。

彼は、王家に随行する一部の者以外の全員に、一夜を遊んで過ごせるだけの金貨を支給してやったのだ。


王宮、といっても帝国貴族の館に比べて随分と控えめな規模と造りだが。

その謁見の間というよりは王家の私室と思しき部屋に通されたユリアヌス卿とアルダンは、そこで国王夫妻に対面した。

玉座ではなくソファに姿勢を崩して並ぶ夫妻の、国王ハーラルは柔和な顔立ちで白髪交じりの50歳前後か、王妃ミレーネ・アルジナは目鼻立ちは兄であるヨーゼフ帝の面影を残すが、口元は薄くアルダンに錯覚を与える。


ユリアヌス卿は建前的な口上は程々にし、素の彼に近い口調で本題の謝意を伝える。

国王ハーラルは城下にたびたび出掛けては、一般市民とも気軽に言葉を交わす人物として知られる。


「陛下の力添え、国民の賛同が得られなければ、こうも上手くはいかなかったでしょう」

国王はユリアヌス卿の態度と言葉に、心からの感謝が感じられた。


長く国交を通じていた大陸の二大強国ではあったが、あくまで大陸全体の勢力バランスを慮っての形式的なもの。

今回の通商条約は大陸の南北両端の両国が、従来の陸路、大陸中央部の諸国を通さず、新たに海路を策定し直接的な交易と人材の往来を実現する内容であった。その中継地として王都カノンが協力する。


「我らも忙しくなる。半年以内に港を整備し直さねば、、、やれやれさ」

「ふふっ、あなた、嬉しそう『やれやれ』なんて。ねぇ、ユリアヌス卿?」

ハーラルの砕けた口調に、隣の妃も微笑みを重ねた。

アルダンの想像とは裏腹に、円満な夫婦関係が垣間見えた。


「共和国からも人足や資材を提供させてもらいます」

ユリアヌス卿が言うと、アルダンのほうから『ぐうっ』とした鈍い音が聞こえた。


「ユリアヌス卿、細々した話は明日だ明日。さ、ご子息の腹の虫が鳴いている、食堂へ移ろう」

ハーラル王は快活に笑いながら、さっさと移動を始め、アルダンを見て口元を押さえながら笑うミレーネが後に続いて手招きする。


「父上、お恥ずかしいところを」

恐縮するアルダンと気にする素振りのないユリアヌス卿。

「さあ、今頃楽しんでいる兵らに負けず、我らも食い尽くそうか?」

ユリアヌス卿はアルダンの肩を抱き、その癖っ毛をぐりぐりと撫でまわした、。


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