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morning routine 朝の日課。




scene: 諳詞度の自宅、朝、丁寧にセットしたアラームが鳴る。


ジリリリリリりりリリリ!!




「もう朝かよ…むにゃ」

顔を突っ込んだ枕に諭され、アラームを止めて、二度寝の誘惑を畳んで、洗面台に凍てつく体を曝す、トーストとプロテインの用意はその後に私を呼ぶ。急げ急げ。

垂れ流したラジオに誕プレで貰ったお気に入りのジェラピケを洗濯籠に放り込んで、ジャージの袖に腕を通す、この姿が結局一番落ち着くのはもはや悲しい性としか言いようがない。


「と、朝の走り込み行きますか…」

あ、ダイナに餌やるの忘れてた。

飼い猫のダイナは私よりいつも早起きで、朝から量を食う。日課の朝5キロ、気が付けばなぜか毎回ついてきていたりして、姿を塀の上や、車のボンネットの上に大胆不敵にぼってりと現したりもする。から、さすがに飯抜きは可哀想だな。

おかげで今日の資料もう一回予習する時間も出来た。


「よしっ!れっつごー!」

高層マンションの真新しい御影石は朝早くから滾滾と聳え立ち…、渾渾!!コンコンッ!昏昏!コンコンッ!!

ノック早からぬ配達が郵便受けにハガキを掴んで並ぶ、しゃかしゃかと小気味よく音を立てるウィンドブレーカーを着て朝露満つる並木道に私はさっきの資料の内容を反芻しながら汗を流す。帰ったら浴びるシャワーの事しかぶっちゃけ考えてないけど。コンヨクッ!!コンヨクッ!

式神…、うるさい!


「はい!時間ない時間ない!」

三十分、ストレッチも兼ねて体がぽっかぽかになったら、部屋に戻る!

コーヒーをセットして、はいシャワー!浴びたら体が冷えない内に着替え!

スーツ、スーツ…、あれ、今日外回り先だっけ…、じゃあこっちか。最近買った珈琲豆が美味すぎる件について語る時間は無い、これは水出しも美味いけど、季節柄出来れば冷たい飲み物は遠慮したい。電式USB弾倉グリップ、超小型銃電式スマホ、WEB射出器と、肝心のけーたいけいたい、…着信?


「起きてたか。朝早くに悪いが、半蔵門に向かってくれ。」

上司!朝早くに着信はパワハラモラハラに当たると聞いたけど、この人は別に出ようが出まいが怒るわけでもないから気にはならない。9時5時の出社義務に押しつぶされ、小さなあのOfficeで今日も徹夜で仕事をしているのを知ってしまっているのもある。


「また餓鬼ですか?こんな時間に…」

仕事が最近舞い込みすぎてる。低気圧のせい…?

私達が忙しくしているということは、それだけ芦原の国の泰平が崩れているという事。


「あぁ、でそれ片付いたら例の事件現場、鑑式許可取れたからよろしく。多分飛鳥川と宝蘭は先についてるはずだ。」

そうだ、例の連続爆弾魔事件について確か資料新しいの届いてたはず…

素早く視界右端のファイルに瞬きで、ファイルが開く。液晶コンタクト、最初は慣れなかったけど上司にお勧めしてもらって使うの慣れたら案外便利だな…


「了解しました。ではまた後で。」「おう。」

内容にざっと目を通してそのまま電話を切る。駅までは十五分、半蔵門って…、確か今【SHIN-OBI-2】とかいうクソダサいカラギャンがやんちゃしてるとこだっけ…、やだなー、めんどーくさー…。



駅に着くとようやく朝日が顔を出し始めた。靄がつとめてしらを切り通して、光の粒子は世界の商業ビルまでをも輝かす。言ってもまだ春前、少し寒い。スーツがいかに保温、伸縮性に優れていると言っても冷える。マフラー忘れたんっ!旦タン!!淡谷タンヤッ!

電車はまだ通勤ラッシュ始まる前で、いくらでも座り放題だった。乗換通路に合わせて車両を移動していると、わざとらしく注意を引きたいキツネの式神が網棚に乗ってさっきからちょこちょここっちを見ている。


(お前、天河原とまだ契約してないな。どこから来たの?)


人が居ないとはいえ何もない網棚に喋りかけるなんて真似は出来ない。人目なんて気にせず、当たり前の様に喋りかけちゃう人もいるけど…

私の上司にはそういう人が何人かいる。私は見えているから全然気にならないけど、〝見えない人達〟からすればもう本当にただのヤバイ奴にしか見えないだろうなと漫画で勉強してからから自分はやらないどこと誓った。


(えっ?あっ…、えっと…西天京の方…)


後半はボソボソして何言ってるか全然聞こえなくなる。式神にもコミュ障が居るのだから世の中面白いもんだ。見た目も可愛いし連れて帰ってあげたい気もするけど、家には既に式神の狐が一匹、預かっているタロン大佐という鷹が一羽、おまけに飼い猫のダイナは狐ぐらいなら食べかねない…


(そう、私これから仕事だけどついてくる?)

(ふぇっ!?へっ!ええええ!?!?!?え、ど、どうしよ…)


どんだけリアクションするんだよ、狐が両手を広げるんじゃない。そこまでやったらアニメ化物よお前は。


(何か他に用事でもあるの?)

(えっと、今日は通勤ラッシュの禿げたサラリーマンを網棚から見下ろしてキンカ頭乙wwwってやろうと思ってたから…)


朝から性格悪いことするんじゃないよ全く。どこの信長だよ。


(ついてきたらご飯上げるよ、何食べたい?)

(えっ、えっと、赤いタヌキすすりながら、『はっ、食物連鎖のヒエラルキー俺のほうが上だから…プックスクス』ってしたいかな)


どんだけ性格悪いねんコイツ…、食べるから重心ズレてるし…。まあいいや、教育も含めて連れてくか。ちょうどマフラーを探してたんだ。

手早くスーツの内ポケットからあぶらとり紙ケースに入った式神札を一舞。


「令和には策を弄してカミムスビ、数えた羊、狐裘こきゅうの助け」

ちゃっかり恋愛祈願もやっておこう。月下老人さん、何卒よろしくお願いします!

っと、とにかくこれで首周りが温かいし、嵩張らない!

隠密派の私としては式神との縁結びに発話が必要なのは少し照れくさいけど、まぁ誰も居ないし大丈…


「可愛い天士ちゃんが朝から歌詠み?」

車輌の椅子に腰掛け、眠たそうにチェーンを垂らした金縁の鼻眼鏡を持ち上げて目を擦っている。アッシュの金髪に痩身、変形スーツにごてごてしたシルバーアクセ…、誰だコイツ?


「もう今日も配信で徹夜やけん、くっそ眠いのに社長に呼ばれて、車車検出してるから電車かよとか思ってたけど、いやええもん見たー…」

男は長い足をほっぽりだして、コキコキと背筋を伸ばしながらまただらんと天井を見上げる。

長椅子の端の手すりに腕を乗せ、またその腕に頬を乗せ、「よかったなー、可愛い飼い主見つかって。」と私の首周りに巻いている狐に目を細めて話しかけている。


「昔は都々逸でやっとったけん…、まぁ時代やな。あれてか、もしかして半蔵門に向かっとう?」

「だったらなんでしょう」

式神が視えている…、それに何でコイツ半蔵門の件のことまで知ってるんだ?

私達天河原の人間?いや少なくとも私はこんな奴知らない…、住宅街を抜けながら少しずつ一日の時計の歯車を回し始める通勤電車の中は燦然とした陽の光で満ちていた。不似合い、不釣り合い極まりない私の緊張はゆっくりとスーツの裏側のホルスターに手を伸ばさせた。


「朝から物騒なもん出さないの…、頼むから俺に休息をくれ…」

うちの社畜上司もおんなじような事を明け方に口にすることが多い。なんとなく男の様子に毒気を抜かれ、けれど内情を知っているからには油断はできない。気が付けば乗り換えの駅に着いていた。降りるか、一瞬躊躇う。


「いってらー…」

男の声にとんっと背中を押されるように私はホームに足を降ろした。緊張感、敵か、味方か…









【サービスカット】

『ひたすら彼女のパンティラインをなぞり追う転生した鷹ことワイ。諳詞度たん、はぁはぁ、今日も瑞々しい御御足が堪らんですなー!!タマランデスナータマランデスナー

曇りガラス張りのバスルーム潤う桃尻!!

黒髪がスベスベ肌の背中に羽のようにふわりふわりとブローの間舞う様がまたえっちー!!!!エッチーエッチー』



「お前インコじゃないんだから喋んなよ…てかどこで覚えてきたその語彙。」



あっ、しまった…、忘れてついうっかり…、いやしかし…この見つめられた時の黒曜石みたいな瞳の驀っ直ぐな感じ…たはっ!タハッ!タハッ!




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