5.少女の行方
13番の魔法使い
【死神】 サティ・エルフリア
前世でのトラウマである人物。
死神はその残虐性から会って生還したものは、数人しか居ないと言われている。
過去に死神の名前を冠する魔法使いはサティ程、残虐ではなかった。
それ故に歴史書にも幾分か情報が残っている。
サティはフォールの記憶以外、基本的に0に近い程情報が無かった。
何故、生還する事が出来ないのか。
何故、皆殺しにするのか。
そう言った微々たる情報はあるが、どの情報もサティがどういった人物かを物語るに
は薄かった。
魔法使いの異名は、基本的には魔法名から付けられることが多い。
しかし、当代の13番 サティだけは違った。
一言で言えば、殺し過ぎた。
会えば問答無用で殺す。
苦しめて殺す。
残虐だった。
何故魔王と呼ばれていないのか、わからないレベルであった。
それ故に真の意味での【死神】と呼ばれるようになった。
フォールにとってトラウマである人物が、何の因縁か再び
フォールの目の前に現れていた
その背筋が凍りつくような、死の気配を感じる黒い霧を立ちこませながら
薄氷の笑みを浮かべている。
「死神・・サティ・・・」
フォールの反応を見たサティは、薄氷の笑みを疑問の顔に変化させる。
「あらぁ・・・どこかで会ったのかしらぁ~?」
サティの問いに対して。
恐怖で震える頭の中で、「逃げろ」とひたすらに問いかけてくる。
そんなフォールを見たサティは恐怖を味わうようにゆっくりと舌なめずりをした。
「貴方と会ったことは・・・無い・・です」
「そうよねぇ。貴方みたいな子供と戦った記憶なんて無いものぉ~」
震えて動けないフォールを死神は待ってくれない。
数秒間の静寂の後、サティはフォールに襲い掛かった。
サティの冷たい右手がフォールに向けられ魔法が行使される瞬間。
好機を狙っていたサウロスが声を荒らげながらサティに剣を振り下ろした。
・・・が。
黒い霧によって斬撃は剣と共に朽ちて行った。
サウロスが怒りと恐れの表情でサティに問いかける。
「何故・・一国の魔法使いが盗賊風情に加担する!」
「・・・それぇ~貴方にぃ関係ないでしょぉ~」
「・・・」
黙って動けない俺を気にせずサウロスが言葉を続けた。
「・・・死神は盗賊風情に手をかす様な、愚者だったか」
その発言を聞いたサティは、今までのらりくらりとした会話をやめ。
周囲の黒い霧を右手に再度集め、黒い剣を作り出した。
「黒霧の剣 黒棺 」
サティが詠唱を唱えた瞬間剣を横に振りぬいた。
「危ない!」
その一言が聞こえた瞬間サウロスは横から強い衝撃を受け倒れた。
サティの黒い霧で出来た剣から飛んだ薙ぎ払う様な霧の斬撃。
サンがサウロスを突き飛ばしサティの斬撃からサウロスを救ったのだ。
「・・・反応いいわねぇ~」
黒い霧の掛かっていて見えずらい剣を持った、睨むだけで人を殺せそうな雰囲気を出
す少女が気味の悪い笑顔を浮かべながらそう呟いた。
「・・・!?」
サンが助けたサウロスを起こそう体を持ち上げた瞬間だった。
サウロスの首が地面に落ち、周囲に地面と頭がぶつかる鈍い音が室内に響く。
「サウロス・・・そんな!」
「男の方はぁ~避けることができなかったみたいぃねぇ~」
その状況に驚嘆している母。
何もできないフォール。
絶望的な状況だった。
あって間もない男だったが、このメンツで逃げ切るためにはサウロスは必須だった。
居ても逃げれる可能性は0に近いかもしれないが。
必要な人だった。
その状況でも死神の追撃は続く。
未だ動揺して頭の整理が出来ていないサンにサティは追撃をしようともう一度剣を構
える。
フォールの意識が引き戻され。
頭より先に体が動いた。
「 魔法使いの0番である愚者が命ずる、無知の想像により愚者を解放せよ。
愚者の解放 【フールリリース】 」
フォールから発動された魔法は黒い霧の立ち込めていた酒場の半分を白い何もない部
屋へと変化させる。
「もう・・・後悔はしたくない。」
「・・・なるほどねぇ」
サティは黒棺を構え死生混合剣術の構えに入る。
「 死とは救い、生とは地獄。 混合剣術奥義 瑠璃断界 【るりだんかい】 」
混合剣術、世の中に2種類以上の混合剣術を使える人物は一握りと言われる程
難しい剣術である。
剣術も魔術と同じく、戦気の属性によって流派が存在する。
それぞれの流派には3つの奥義が存在し、その奥義を扱えれば免許皆伝となる。
その免許皆伝を2つ以上持っていて、更にその奥義を混合して扱うのが混合剣術であ
る。
魔法使いと言う事実だけでも、勝ち目がない中そこに混合剣術まで混ざるとなると
勝ち目がない。
頭の中の本能が逃げろと警鐘を鳴らす中。
魔法を展開した白い空間を巻き込みながら、黒霧の斬撃が飛び魔法を解除していく。
その黒い斬撃が喉元を過ぎる瞬間だった。
ガキン
金属と金属が擦れる音が周囲に響き、喉元まで迫っていた斬撃を金色に輝く鎖が食い止めていた。
「何故ぇ~ここにぃ~お前がぁ~?」
「黙れ死神の愚物が。」
俺はこの光景を見たことがあった。
この場にいない二名を除いて。
「皇帝おまぇ~何故そいつをかばぅ~?」
「愚物には関係ない、死ね」
そう言い放った人物は、俺の人生最後に見た人物と重なった。
エンハンス・ランロッド
ランロッド帝国皇帝その人であった。
何故ここに?
そんな疑問を持ち問いかける前に少女が問いかける。
「何故ここにぃ~?」
「余は、あの女の頼みを聞いたにすぎん。」
「あいつねぇ~・・」
「ならぁそいつは生かしといたほうがいいのねぇ・・・」
「そう言う事だ。」
「わかったわぁ~ならもうぅ~用はぁないわぁ~」
そう言った瞬間、先程までの殺気に満ちた空気が嘘のように無くなっていく。
「あの・・何故助けてくださったのですか。」
「愚物には関係ない。」
「・・・わかりました。」
エンハンスは、場を収めるとすぐ去っていった。
何が何だか理解が追いつかない、俺とサン。
つまらなさそうに去っていくサティ。
皇帝の出現とともに解決する空気。
過去の戦いは何だったのか。
何故あの時俺はサティと皇帝と戦うことになったのか。
リュートは今どこにいるのか。
エッジはどこにいるのか。
皇帝に頼める存在である女とは。
様々な考えが頭をグルグルと回っている。
「・・・フォール、ケンを探しましょう。」
「・・・はい。」
そう言ったサンに対し、力なく返事する。
何も言えない。
今回俺は何を出来ただろうか。
勇敢にも立ち向かったサウロスや母に対して
魔法が使えるアドバンテージを何も生かせず
ただ目の前の戦いに流れを任せる事しか出来なかった。
そんな事を考えながらも、暗い闇の中を母の魔術を頼りに歩を進めていく。
暗闇の中を照らす母の魔術は周囲をほんのりと明らかにしていく。
数々の死体と、サティが召喚したであろうソウルイーターだったもの。
父であるケンはこのソウルイーターや賊を相手できる実力ではないのは、
ケンを知る者にはわかることだった。
「・・・ケンは大丈夫かしら。」
暗闇の中自分を安心させるように言い放った一言は、
暗い通路に響きわたる。
「きっと無事です」
なんの根拠もない答えを言い放つ。
それから、5分ほど歩き続けた先に一つの空間が現われる。
石造りの息が詰まりそうな空間を所々を小さな明かりが揺らめいている。
そこには一つの影が存在していた。
その影はフォールたちが言葉を発するよりも先に、問いかけてくる。
「愚者の魔法使い・・・愚かなぁぁぁぁあ」
狂気めいた叫びが石造りの部屋を反響し耳に響く。
「この事態を・・あなたは回避できたはずです。」
「何を・・・」
フォールの問いかけになんの反応もなく女であろう人物は続ける。
「今回の事件の発端は偶然ではない。盗賊がなぜ貴方とあの子を狙ったのかその真
意はどこにあるのか、考えましたか?」
この事件は偶然だ、魔法使いである俺ならまだしも何故イブを狙った?
今も不在のケンはどうなった?
そんな疑問が頭を駆け巡るが、答えは出ない。
「貴方だけではなくイブとケンは両方とも魔法使いですよ」
女であろう影が一歩踏み出しながら答える。
「嘘だ!・・ならケンやイブは何故能力を使わなかった!」
「それは・・貴方が一番知っているでしょう?『2度目の転生者』 柿原 誠 」
その名前を知る者はいないはずだ。
何故知っている。
同じ転生者だとしても前世の俺の名前を知るはずがない。
「イブとケンはまだ自覚していないのですよ貴方の1回目と今回もね」
「何故・・僕の名前を知っている・・・」
「・・・なんの事なのフォール、あの人とイブが魔法使い?柿原 誠って?」
この会話に遅れをとる母を置いて会話が流れていく。
「私は、魔法使いの10番【運命の輪】の魔法使いイリシアナ=フォーチュン。
貴方をこの世界に転生させた魔法使いです」
「運命の輪・・・何故僕を呼び寄せた、イブとケンはどこだ。」
「貴方を呼び寄せた理由は、愚者の魔法使いだからです、イブとケンに関しては
カナリア王国にさらわれました正直あの二人は私の作戦には必要なので残念です」
「・・・二人を助けるにはどうすればいい?」
「今の貴方に色々と説明する時間もありません、まずはあの二人を救うためには、
貴方は私の所属するランロッド帝国で愚者の魔法を学び、理解しなさい」
ランロッド帝国に所属・・・
屈指の強さを誇る列国の一つ、そんな帝国に所属するのは今後を考えても
最善の手ではある・・・が。
「イブとケンは無事なのですか?学んでいる間に殺されたりはしないのですか?」
「そんな事知りません、死んでいたらそのまま進めるか不都合であればまた貴方を
起点にやり直せばいい。」
やり直せばいい。
簡単に言い放つその言葉には恐怖を抱いた。
俺はもうイブの死ぬところを見たくはない。
そのためには力がいる。
少なくとも魔法使いとして攫われたなら父ケンがいる限り問題にはなりにくい。
今は力をつけるしかない。
「わかりました、ランロッド帝国に所属します。」
その言葉を聞き届けた瞬間、イリシアナ=フォーチュンと名乗る女は消えた。
「・・・フォール?」
「何ですか・・母さん」
「貴方は本当にフォールなのよね・・・?」
「もちろん、母さんと父さんの息子のフォールですよ」
「そう・・・ね」
歯切れの悪い会話を終え、帰路につく。
その帰り道は酷く暗いものだった。
喋る気力もなく、俺も新しい情報で頭がこんがらがっている。
俺だけでなく母も考えることが多く、言葉を話さない。
そんな複雑な一夜を終えて、少女の行方は分かった。
イブを助ける。
そう再度誓った。