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転生愚者  作者: みむやむ
2章:新しい人生
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4.攫われた少女


イブが攫われた。



その事実に過去のトラウマが、掘り起こされる。


前回は、自分が原因でイブが拘束され、そのうえ助けられずに失った。


その時のやるせなさが胸に沸々と沸いてくる。


とは言え、今回の件は対策出来る状況ではあったものの、そこまで頭は良くないので仕方がない。


イブは攫われたがすぐに殺されない安全性がある。


焦燥感には依然駆られる状況ではあるものの、同じ轍は踏みたくない。


今回は、魔法が使える。


魔法は未知数な所が多くまだ実践ではそこまで上手くに使用することができない


今回のイブの件は、前回とは条件が異なる。


いつまでもトラウマに引っ張られるわけにもいかない。


だがトラウマが簡単に解決するわけでもない


まずは、誰かに相談するべきだろう。


俺が使える人脈の中で一番信用できる父のケンと母サンが唯一の人脈だ。


そう思い、一度家に帰ろうとした時だった。


陰から黒い人影が飛び出した。


「俺は、イブを攫った賊を追う、この事を母さんに伝えてくれ。」


鬼の形相をした父のケンだった。


どうやら、ケンは陰から俺たちの事を見守っていたらしい。


なのに攫われたのが、よそ様の子であるイブだった。


大問題だ。


正直、魔法が使えるので付いて行きたいが。


人脈の大切さや誰かに相談することで次の行動に一手を打てる事を俺は分かっている。


「母さんに伝えます・・・」


そう空気に伝えて、家に帰る。


「あら、フォール帰ってくるのが早いわね、探索できたの?」


「母さん、それどころじゃないです。」


焦りながら話す、俺を見て母が神妙な顔つきになる。


「フォール・・・?」


「イブが攫われました・・・今父さんが賊を追いかけています。」


経緯を次々と話していくと、青い顔をした母さんが俺の腕を引っ張り家を出ようとする。


「母さん・・・?」


鬼と言った言葉が脳を過る形相で、母は出口に向かって歩き続ける。


「フォール・・今から憲兵に行って協力を付けるのよ、ケンもイブも助けに行くわ。」


「貴方だけ家に置くこともできないし誰かに預けることもできないから、私から離れないでね。」


そう言い放ち、今にも俺を抱きかかえようとした時だった、


前世のトラウマが脳裏を過る。


失うかもしれないと言った、恐怖からくる焦燥感による視野狭窄。


焦らずに相談することの大切さをフォールは知っていた。


「母さん焦燥感に駆られる気持ちはあるでしょうが、僕の話を聞いてください。」


そう言い放つと母は、一度深呼吸をして落ち着いた。


「フォール・・ありがとう、焦りで周りが見えていなかったわ・・」


「話をして頂戴・・」


母はこちらを向き直した。


「イブが攫われました、盗賊が攫ったことは身なりからわかりましたので早々殺されることはないでしょう。」


「その後すぐ父が盗賊を追いかけました、父が殺される可能性は充分あります。」


父が殺される可能性があると聞き、取り乱しそうになる母を手で制して続ける。


「今から話すことは3歳の戯言ではありません」


「僕は魔法が使えます・・・0番の愚者と言えばわかりますか?」


魔法使いと聞いた瞬間、母は目を見開いてこちらを睨む。


「フォール・・・この大陸で魔法使いと名乗ることが、どれだけの意味を持つか教えたわよね?」


母からすると、ありえない発言だった。


自分で魔法使いと発言する事に関して。


この世界では、本当の魔法使い以外は発言してはいけないと言った暗黙の了解があり、幼子でも教えられることだった。


魔法使いはその存在が認知された時点でその人物を保護するために各国が尽力し、金も人間も大量に動く事態になる。


更に、魔法使いを人ならざる力を持つものとして神の使いと信仰している国もある。


魔法使いは憧れはするものの、努力でなれる物でもないため魔法使いを騙る事はどんな馬鹿でもやらない。


「母さん・・本当なんです見せた方が早いですね。」


そう言い詠唱をする。


「魔法使いの0番である愚者が命ずる、無知の創造により愚者を解放せよ。 愚者の解放 【フールリリース】」


木で作られた使い古された机や椅子、先ほどまで母が見ていた本。


その全てが無くなったかのように周囲が何もない白い空間に変わる。


その魔法を見た母は驚嘆と共に、難しい顔をしている。


「本当なのね・・・」


「はい・・・なので勝算はあります」


相槌を打ち、すぐに魔法を解除する。


周囲が白い何もない空間から、使い古された木造の家に戻る。


もし1度目の異世界転生時にこの能力があればここで「何故息子の凄さを喜ばないんだ!」と激昂していただろうと思いながら話しを戻す。


「母さん、今見て頂いた通り僕は22魔皇の愚者の魔法使いです僕が付いて行くことが勝算がある理由です、なので付いて行っていいですか。」


今の光景を見て唖然としていた母は、発言を聞いて自分の意識を戻していく。


「・・・えぇ魔法使いなら大丈夫でしょう」


そう答え、母は準備をする。


母は元々は冒険者だったらしい。


その当時使っていたであろう物を引っ張り出してくる。


先端に高度な魔術が仕込まれたであろう濃い水色の魔術具がはめられた杖や魔術の編み込まれたローブなど。


様々な高価だと感じる装備を身に着け、準備が整う。


「よし・・」


言いながら杖を鳴らす。


周囲に木を叩きつけた音が広がる。


「フォールいくわよ」


端的にそう答えてフォールを抱き上げる。


母は俺を抱きかかえながら、夜のハルトレイを風のように走っていると、


前から、1人の憲兵が息を途切れさせて、走ってくる。


「サン!」


「・・・サウロス?」


「はぁ・・はぁ・・っサン・・あの子の居場所が分かった。」


息をきらしながら、兵士がそう言った。


「本当なの?」


「・・・はぁ・・あの子の件もあり色々と調べると盗賊のアジトが町中の酒場にあった・・・」


息を整えながら話すサウロスに対して焦燥感が見てわかる程の母はいきなり肩をつかみ、サウロスの体を前後に揺らしながら問いただす。


「早く教えて頂戴!」


「・・・あぁ」


「あの子がいるのはここから南方に位置する黒岩亭の地下に囚われているままとの事だ。」


サウロスの話を聞き母は今すぐに走り出そうとした。


「母さん、待ってください」


「何・・・フォール」


普段出さないような低い声で、母はこちらに聞き返す。


「今焦燥感があるのは分かりますが焦っても何も良い事は起こりません。」


過去の経験からそう答えるが、母は我慢の限界が来たかのように叫ぶ。


「フォール・・貴方の父親と友人が攫われていてそんなに冷静なのは何故なの?」


「それは・・」


「貴方は3歳で何が分かるの?」


「・・・」


答えれない・・・転生などと言っても訳の分からないことだろう。


「言えません」


「母にも言えないことをどう信じろと言うのですか。」


冷静ではない母を、説得する事が出来ない。


「サン・・3歳の子に怒鳴っても仕方ねえじゃねえか。」


二人の言い合いを聞いていたサウロスが横槍を入れる。


「坊主も経験があるわけねえだろ・・・取り合うだけ無駄だサン」


「えぇ・・そうね」


そう答え抱きかかえられる。


その後景を見てサウロスが、驚愕の顔でこちらを見る。


「サン・・まさかこの坊主も連れて行くのか?」


今更な質問が飛んできた。


「事情は今言えないけど連れていくわ。」


「サンが良いならいいけどよ・・」


困惑しながらも、今はそれどころじゃないと納得してサンと走り出すサウロス。


10分ほど走り、サンとサウロスの足が止まる。


目の前には人語で書かれた看板に黒岩亭と大きく書かれた看板に安めの酒場の印象を受ける佇まいの建築物がある。


「はぁ・・はぁ・ここね」


「そうだ」


ついてから数秒を掛け息を整えた母とサウロスが杖と剣を構え前衛にサウロスが立つ。


黒岩亭の扉を慎重に開けるサウロスを母が止める。


「まってサウロス。」


「どうしたサン」


「先に罠よけの魔術を発動しておくわ」


そう言って詠唱を始める。


「慈悲なる水の力を持って我が障害から守りたまえ 水の罠防御【アクアトラップディフェンス】」


母の手から何度も見た水色の魔法陣が光り周囲を霧で包み込む。


「さすがだな・・サン」


「行くわよ」


扉をゆっくりと開いた瞬間だった。


周囲の霧が目の前に飛んできた矢を包み込み矢の推進力を0にする。


その状況を目の当たりにし唖然としている俺を周囲の状況は置き去りにしていく。


「サウロス!」


「任せろ!」


扉の裏にいた盗賊がサウロスに上段で切りつけるが、サウロスに剣が届くよりも早く


サウロスは剣を振りぬく。


振りぬいた隙を狙い一人の盗賊はサウロス目掛け槍を投げる。


「慈悲なる水の盾よ我が前の脅威から、守りたまえ 水壁【アクアウォール】」


サウロスと槍の間に水の壁が出現し、槍を弾く。


「助かった・・サン」


「お礼は後で言ってちょうだい」


「あぁ」


そんなやり取りをする最中相手の正面の盗賊が吠える。


「おい、カロお前はお頭とあの奇妙な女に襲撃だと伝えろ!」


「わかった」


奥に下っ端らしい男が走っていく。


前に向き直った盗賊の隊長各であろう男が魔術具らしきショートソードを構える。


「誠実な大地の裁きを持って我が前の敵を貫け。 土槍【アースランス】」


盗賊の手元から魔法陣が出現し、サウロスの足元から土の槍がサウロスを貫こうとする。


「チィッ」


サウロスは瞬時に剣を地面に突き立て無理やり土槍をよける体制にする。


「 戦気 大地斬【アーススラッシュ】 」


盗賊の剣を戦気が包みサウロスに向けて気の斬撃が放たれる。


体制を持ち直せていないサウロスに直撃しサウロスの胸から鮮血が周囲に噴き出す。


「水の慈悲と生の秘めたる力を借り、我が魔力を糧に癒したまえ 複合魔術 水生の癒し【アクアライフヒーリング】」


サンが唱えた瞬間、サンの手元から水色と、濃い緑が半分ずつ入り混じった複雑な魔法陣が展開される。


魔法陣から緑の霧が出現し、サウロスに集まっていく。


集まった緑の霧はサウロスの胸の傷を瞬時に癒していく。


「くそっ・・厄介な魔法使いだな。」


ヘイトがサンに集中する。


「死ねぇ女!」


盗賊から斬撃が飛ぶ。


サンはとっさにフォールを庇い背中から赤い血を流している。


「俺はまた失うのか・・・」


嫌だ・・・嫌だ・・・いやだ・・イやダ


「魔法使いの0番である愚者が命ずる、無知の創造により愚者を解放せよ。 愚者の解放 【フールリリース】」


ただ、感情のままに魔法の詠唱をしていた。


先程までの戦いによってボロボロになった酒場を何もない空間が包みこむ。


「おま・・・おまええええ・・まさか・魔法使いか!」


盗賊は戦意を喪失する。


「もっ申し訳ねぇ!まっまさか魔法使いだとは思いもしなかった。」


「おっ俺も命が大切なんだよ・・な?」


先程までの、戦っている姿とは別人の情けない姿で許しを請う。


「イブはどこだ・・・」


「イブ?・・あぁあのガキの事か!」


「裏だ!裏に仲間といる俺が取り返してやるから命は助けてくれ!っな?」


助けを請う盗賊の幹部らしき男に苛立ちを感じながらも、情報は大事なので話を続ける。


「分かりましたから、早く連れて行ってもらえますか?」


「分かったから・・魔法を解除してくれ・・」


「いいでしょう」


周囲白い空間から薄暗いボロボロの酒場へと元に戻っていく。


「連れて行ってもらえます?」


「・・・ついてきな」


盗賊は体を起こし案内しようとした瞬間だった。


黒い甲冑を来たアンデッドに首を跳ね飛ばされる。


首から血が飛び散り視界を遮った。


「あらぁ・・裏切者を殺したのぉ?」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。


瞬間周囲に黒い霧が立ち込める。


見たことのある光景。


トラウマが襲い掛かってくる。


ガタ・・ガタ・・ガタ・・ガタ・ガタガタ


「なんなの?」


母が叫ぶ


「お前は誰だ!」


サウロスも叫ぶ


「そんなぁ~大きな声でぇ叫ばなくてもぉ伝るわよぉ」


「・・・・」


言葉が出ない。


恐怖で周囲が何も見えない。


助けてくれ。


「わたしは、13番の魔法使い、死神のサティ」


前世と全く変わらない15歳ほどの姿の少女はそう名乗った。

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