3. 愚かな冒険者 フォール≪後編≫
今回も前回同様見ていてつらいかもしれません。
でも必要な話なので、書きました。
次回からは現実進行に戻ります。
「暴行事件の犯人はフォールじゃなくて私だよ、捕まえる相手を間違えてるね!」
そう兵士にイブは言いきった。
「お前・・・」
言い淀む俺に対してイブは片手を差し向けて、黙るよう促す。
「暴行事件はフォールじゃなく、貴様が真犯人だと証言するのか?」
「はい」
周囲は否定をするが、加害者が名乗り出たのなら。
特に確認されず、拘束される。
「なら貴様を拘束する。」
先ほど俺に向けられた魔術がイブに向けて放たれ。
俺の拘束が解かれた。
「土の力よ、誠実の意思を持って我が前の敵を拘束したまえ 土の枷 【アースシャックル】」
周囲の、反対も虚しくイブは連行されていった。
数日が経ち、帰ってこないイブを不安に思い。
情報を集める。
イブが連行された拘置所の兵士。
町の酒場の店主
情報屋
色々な人物に聞きまわったが。
情報は集まらなかった。
そもそも、情報を集めるだけの交渉術や手札もなく、技術もない。
そんな中で、イブの行き先も分からず、酒場でいつも通りパンとスープを食べている時だった。
「あらぁ・・・フォール様じゃない・・」
聞き覚えのある、声が聞こえた。
「アリシアか・・・」
情報が全く集まらずに憔悴しきった俺に話しかけてくる。
「どうしたの?もしかしてイブ様の事かしら?」
「アリシアも知っているんだろ・・・」
「えぇ・・まぁね」
「何か情報はないか」
正直、頭打ちだった・・この町ではアリシアにしか頼ることができない。
他の知り合いはこの町には・・・いない。
「ないわね・・」
申し訳なさそうに、アリシアは首を振る。
「そうか・・・」
「まぁ焦らず探していきましょう、私も情報見つけたら教えるわ。」
そう言いアリシアはなにも注文せずに帰っていく
そんな会話をした2日後だった。
いつも通り酒場で飯を食べながら情報収集をしていると後ろから話しかけられる。
「フォール様、情報が見つかりましたわ」
「本当か!」
イブを見つけられた。
なんの才能もない自分でも人脈を作っておけばもっと早く見つけられた。
そう後悔しながらもその情報を聞く。
「イブ様の所在ですが・・・どうやらモルト・エーガン男爵に囚われているみたいですわ。」
「エーガン男爵か・・」
一番聞きたくない貴族の名前だった。
モルト・エーガン
類稀なる、政治力を持ち当時子爵家中位の家柄を男爵家上位まで上げた人物であり
魔術と戦気ともに中級まで扱え、混合魔術も1つのみだが使用することができる。
だが・・モルトの性格に難があった
若いころからモルトは、努力を惜しまない性格だった、努力は自分を裏切らなかったし。
努力をすることも嫌いではなかった。
幼いころ、モルトは好意を抱いていた相手がいたが、父であるガウス・エーガンによって
その相手をとられる。
当時は反発したが、この世界では当たり前だった。
子爵家当主の方が権力が強いからだ。
その時に貴族とは何かと言う事を、幼いながらも理解する。
それから各所に根回しをして、父ガウス・エーガンの中抜き等の犯罪を日の元に晒し当主の座から引き下ろす。
その功が認められ、子爵上位の位をもらいエーガン領当主となる。
領主となってからの改革的な政治は敵を作りながらも着実に力をつけ家の位を上げる。
だが・・・モルトには欠点があった。
幼いころに好いている相手を父親に取られる経験で、彼を歪んだ好色家に育て上げてしまった。
気に入った相手を難癖付けて、拘束し。
助けに入った、男の前で最終的に拷問し殺す。
と言った具合だった。
各所に敵を作るやり方ではあるがモルトは政治権力や立場があり誰も逆らえなかった。
モルト男爵の話をアリシアから聞いて焦燥感が顕著に出る。
「・・・今すぐ助けに行く」
そんな言葉を聞いてアリシアが答える
「死にますわよ。」
誰にでも分かる事だったが、焦燥感に駆られ、それどころではなかった
「イブを助けられるのは俺だだから・・・行く。」
そう言い放ち、エーガン男爵亭に向かう。
エーガン男爵亭は男爵とは思えない程、豪華な邸宅だった。
石造りの白い壁基調で、現代日本ならホワイトパレスと言われても遜色無いかもしれない建物だった。
エーガン男爵亭にたどり着いて、偵察する。
何故か門番がいなかった。
何か事情があるのだと思い、そのまま侵入する。
屋敷の中は静かだった。
鼠一匹、女中一人いない。
兵士もほとんどいなかった。
屋敷に侵入し不気味な廊下を月明かりが全体を照らす、赤が貴重の廊下
「貴族か・・」
転生して貴族だったら・・そんな考えが過るが
奥からの足跡がそんな考えをかき消す。
ガシャ・・・ガシャ・・・
鎧の擦れる音と同時に聞える足音に耳を凝らし兵士が角に着た瞬間に喉を貫く。
「ゴボっ」
口から血が噴き出る。
初めて人を殺した感覚が手に残るが、イブに対しての焦燥感がその気持ち悪さをかき消す。
赤色の絨毯が赤黒く染まっていく中で一度身を隠すため隣の部屋に駆け込む。
部屋に入ると、そこは物置だった。
薄暗い物置の中に雑多に魔道具や魔石の山などが乱雑に置かれて整理されていない。
そんな薄暗い物置の中で扉に耳を立てて周囲の様子を音で探る。
「敵襲ー」
死体が見つかると同時に屋敷内に響き渡る声。
敵である俺の捜索が開始される。
物置付近に2つの足音が聞こえる。
「鼠は見つかったか」
「嫌・・・各所の部屋を探すしかない。」
そんな声が物置の入り口で泊まる。
「この血痕・・・ここにいるかもしれません」
逃げ込む際に剣先から滴った血液が自分の存在を周囲に教えていた。
扉が開けられようとした瞬間
扉越しで相手の喉元を目掛けて剣を突き刺す。
壁越しから血の噴き出る音が聞こえた直後にもう一人の兵士が叫んだ。
「敵は、物置にいるぞ!」
その叫びが聞こえてから瞬時に、扉を開けて剣を突き刺す。
3人目を殺した興奮が全身を包む。
「俺にも・・やれる・・・」
そう呟くが、廊下の両方行から増員の兵士が来る。
逃げられない状況だが、どうすれば最善策が出るなど頭が良いわけでもない。
活路を開くため5人よりも3人の方を襲う。
一番可能性のある窓側の兵士に剣を突き立てようとするが、後ろから魔術の詠唱が行われているのに気づく。
気づくのが遅かったため詠唱が終了していた。
「・・・我が前の敵を拘束したまえ 土の枷 【アースシャックル】」
瞬間兵士の手元からオレンジの魔法陣が出現し手足の動きを土の魔術で封じられる。
拘束され、抵抗するも虚しく。
モルト男爵との部屋に連れていかれる。
モルト男爵の部屋に到着すると同時に、手足の拘束が外された。
俺は脅威では無いようだ。
男爵の部屋に入ると、先日初めて嗅いだような匂いが充満する。
まるで、前世からの魔法使いを卒業した時の・・・情事後の匂い・・
嫌な予感がした。
嫌だ・・・
イブ・・・・・・・・・・・・・
「ようやく来たか。」
下卑た顔をした小太りの中年の男は、下着一枚でベッドから起き上がる。
先日高級酒場にいた高貴な衣装に身を包んでいた男だ。
高貴な衣装は包んでいないが、分かった。
ベッドから起き上がった瞬間、魔術の詠唱がされる。
「 復讐の炎よ、目の前に炎を顕現せよ 小炎 【プチファイア】 」
炎が顕現し、周囲を明るく照らす。
「う・・そだ・・・・」
ベッドの上には毛布一枚に包まった、灰色の少女が寝息を立てていた。
手遅れだった。
嫌だ・・・嫌だ・・なんで・・まにあわなかった・・・・
そんな感情に支配される。、
すると部屋の炎の明るさで、ベッドの上の少女は目を覚ます。
「・・・フォール」
「イブ・・・お前・・」
「見ないで」
瞬間目を逸らしてしまった。
目を伏せていると、嗚咽が聞こえる。
「フォールがあの時一緒町に戻ってくれてたら・・・こんなことにならなかった」
事実を言われ目を上げる。
「・・・なんで助けに来たの」
「なんでって・・・そりゃあ・・」
なんだ。
イブを無視し続けた俺に、お前が大切だからなんて言えるのか・・・
イブが大切なら最初から町に戻っていれば良かった。
何故俺は・・・
「そりゃあって何なんだよ!」
イブの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。
「私が戻ろうって言った時になんで戻らなかったのに・・・今戻ってくるんだよ!」
「戻ろうって言ったのを断っておいて、挙句女の人と一晩過ごして。今更なんなんだよ」
涙で凄い顔になっているイブはこちらを睨む。
「帰って」
最近そんなことを俺は一人の少女に言った。
その少女は、意地を張った俺を連れ戻そうと何度も何度も意図的に無視をした俺に帰ろうと言い続けてくれていた。
そんな少女に放った残酷な一言は今自分に返ってくる。
「・・・イブ」
何故この時そう確信したか分からない。
だが、確信した
・・・俺はイブの事が好きだった。
「帰ってよ・・」
「お前の事が好きだ。」
その瞬間イブは悲しそうに答えた。
「もう・・遅いよ・・・・なんで今なんだよ・・・」
反論できなかった。
断っていたのは自分だったから。
問答をしている最中だった。
後ろの扉が開かれそこから聞き覚えのある声が響き渡る。
「男爵も悪趣味ねえ」
「そう言うなアリシア、これだけが楽しみなのだ。」
アリシアだ。
アリシアはこちらを見て言い放つ。
「男爵の趣味に利用されるだけの愚かな冒険者フォールさんじゃない」
「アリシア・・お前はそっち側だったのか」
なんで・・・
「当たり前じゃない、男爵に頼まれでもしないとあなたなんかと一夜なんて共にしないわ」
「あの情報は・・」
「愚かねえ、誘い出す口実に決まってるじゃない」
「目の前に餌を釣られた魚はすぐ食いついてくれるから、簡単だったわ」
残りの希望も全てが打ち壊されていく。
すると、イブが呟いた。
「・・・そっか」
「私が目的だったんだね・・・ごめんフォール」
「・・・なんで謝る」
理解ができない・・・さっきまで頑なに、帰ってと言っていたイブがいきなり謝る理由がない。
「自分の事ばっかで、フォールが利用されてるなんて気づいて無かったよ」
それは違う、俺がイブに帰ろうと言われたときに町に帰っていればイブはこんなことになっていない
今回の件だって、俺が原因だ、男爵に酔った勢いで吐いた暴言が原因でもあるだろう。
「フォール・・・一緒に戦って?」
「えっ・・・」
なんで
原因を作ったのは俺なのに
一緒にいてくれるのか。
そんな疑問が生まれるが、イブは続ける。
「色々言いたいことはあるけど・・・まずはここを切り抜けよう?」
「あぁ・・・イブ・・後でゆっくり話そう」
二人は頷き、俺はモルト男爵に向け走り出す。
イブは後ろから、風の魔術を詠唱する。
「 永遠の春、終わりなき風よ目の前の敵を風でなぎ倒せ 風波【ウインドウェーブ】 」
敵をなぎ倒す魔術がイブの手元の緑色の魔法陣から放たれる。
行ける。
そう思った時だった。
前に透明な障壁が、あり魔術と剣が弾かれる。
「魔道具による障壁だ。」
男爵はそう言い放ち、俺に向けて魔術を詠唱する。
「土の力よ、誠実の意思を持って我が前の敵を拘束したまえ 土の枷 【アースシャックル】」
瞬時に体の自由が奪われる。
「フォール!」
こちらに向け走り出してきた、イブだったが
イブもまた冒険者になりたての初心者だった。
アリシアの格闘術によって直ぐに地面に倒される。
「他愛もないな」
「えぇ」
薄れ行く意識の中そんな会話が聞こえた。
目が覚めると、石造りの一室にいた。
土の魔術によって、拘束され体は動かせない。
目の前には明らかに拷問するためだけのものと分かる椅子にイブが布一枚で座らされていた。
すると。
「起きろ」
イブに目掛けて、痛めつけるだけの道具である鞭がモルト男爵の手から放たれる
「あ”」
声が痛みでうまく出ないような声を出した。
「んーんー」
俺自身は、口元に何かがあり叫べない。
モルト男爵の快楽を得るためだけの、非人道的な拷問がイブを痛めつける。
そんな中何もできない俺は、イブに対して謝罪を続ける。
拷問が始まり2時間程度経過したが、イブに対して尚モルト男爵は拷問を続ける。
「もう許して・・・」
「父上・・・母上・・・助けて」
そんなイブの叫び声が聞こえる。
耳と目を覆いたくなるような光景だったが、手足の拘束がそれを許してはくれなかった。
イブの声が涸れ擦れた。
イブの体はボロボロでもう長くないと一目で分かる。
そんな中でイブはこちらを見て、言った
「フォール・・・生きて・・」
イブの最後の言葉だった。
その言葉を聞いた直後に放たれた鞭を受け、イブは動かなくなる。
「もう終わってしまったか」
名残惜しそうなモルト男爵だったが後始末を開始する。
イブが死んだ・・・俺のせいで・・・
耐えられない苦痛で死んでいった。
・・・最後の言葉は今まで、無視していた俺に対しての言葉だった。
俺の拘束が解かれた、満足そうな顔をしているモルトに対して。
イブの生きてと言う最後の約束を守るため。
プライドを捨てて命を懇願し、惨めな醜態が興を買って命は助かった。
だがその夜から、とれない呪いの言葉が響く。
宿に戻るが頭から言葉が取れない、イブの苦しむ姿、声が離れない
「あぁ・・あ・・・あ・」
フォールの精神は耐えられなかった。
朝起きては生きるために最低限の食事をする。
「どうして・・・イブ・・・・・」
同じ言葉を道の端で口ずさみ続ける。
フォールは何度も自殺しようとしたが、一歩手前でとどまる。
イブの「生きて」と言う言葉に阻まれ続けていた。
昼は、商業区で道行く人に問いかける。
「なぁ・・・どうしたら助けられたんだ?」
「あぁ?あんた誰だよ。」
「教えてくれ」
「知るか」
肩を押され倒れこむと、男は去っていく。
次の人に話しかける。
そんな問答をひたすら繰り返す。
「なぁ・・・どうしたら助けられたんだ?」
「誰ですか貴方は?」
「おれっれれにににn教えてくれれれれれれれれれ」
「きゃあ・・誰か憲兵を!」
憲兵に取り押さえられる、フォール。
「おっれっれれっれワわわあななあににににがあがががああ」
暴レル俺を取り押さエル憲兵。
そんな目も当てられない状態の、愚かな冒険者フォールに道を行くとある男が話しかける。
「お前、何があった。」
それが・・・エッジとの出会いだった。