1.運命の輪
今までの展開で賛否はあるかもしれませんが
どうか愚か者のフォール君をよろしくお願いします。
死神の抱擁で死んだ。
体が、水に溶けていく感覚が全身の間隔を侵食する。
魔法使いになった時に愚者のカードが出てきた空間に似ている雰囲気だった。
頭の中に詠唱が浮かんできたときの如く、声が聞こえる。
前回は頭に言葉が浮かんできたのに対して。
今回は女性の声だった。
その差を理解するには、情報が少なかった。
「魔法使いの10番である運命の輪が命ずる、運命に囚われた0番を我が全ての力をもって、事象を変更せよ、運命転生 【フェイトカーネーション】」
そんな言葉が聞こえた瞬間、眠りに落ちた様に意識が遠のいた。
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「まぶしいな」
目を開けると、そう思った。
どこからか赤子の泣く声が聞こえる、耳障りな声だ。
何時までたっても目がぼやけて目の前の人の輪郭しか見えない。
だが、どこか既視感を感じる。
赤子は売り物にすらならない、殺してしまうのが手っ取り早い。
親が言うことを聞くようになるからだ。
目を開けて周囲を見渡す。
何時までたっても目がぼやけて目の前の人の輪郭しか見えない。
体も動かない。
死神の抱擁によって命を落としたはずだった。
最後に聞えた詠唱は何だったのか、疑問が絶えない。
「生まれたのか!」
歓喜に包まれた声が周囲に響き渡る。
耳自体は霞が罹ったように聞こえずらいが、聞こえないこともない。
「あなた・・男の子よ」
包み込むような声で聞こえる
頬に水が伝った、生暖い水が頬に数的ぽたぽたと落ちてきている
その声を聴いて、失ったものが・・・拾えなかったものが・・取り戻せた間隔に襲われた。
涙が溢れる。
「だ・・あぁぁあぁぁああああああぁぁぁぁあああ」
周囲に赤子の泣き声が響きわたる。
「あらあら、ケンが怖かったのね」
「そりゃないよ・・俺もへこむんだよ?」
「あら。そうだったの」
そんな会話が聞こえた。
死んだはずの父さん
死んだはずの母さん
二人の懐かしい会話、愚かだった自分が捨てて、拾う事の出来なかった・・
失うまで大切だと気が付けなかったもの。
嬉々として、話しかけようとした時だった。
気が付いてしまった。
さっきまで煩わしいと思っていた赤子の声が自分の口から出ているものだと・・・
「だーあー」
喋れない・・今すぐ伝えたい事が沢山ある
謝りたい。
だが、かなわない。
0歳児が喋れるはずもなかった、
目も両親を見たいのに、輪郭をとらえる程度でぼやけて見えない。
だが声だけは聞える。
「フォール貴方は強く生きるのよ」
母がそう言いかけてきた。
生きる・・・
それはフォールにとっては、呪いの言葉だった。
魔法使いになってもそれは変わらないと確信できた。
3度目の転生、今まで失ってきた物を取り戻す最後のチャンスだと思い、
2度目で失ったものを守ろうと誓った。
転生したからと言って、今までの全てが0になるわけでは無い。
過去のトラウマや精神的な物は乗り越えられても、常に自身に付きまとって来るもの。
勿論フォールも例外ではなかった。
赤子の動かせない体に幼い脳
赤子の小さい脳には、30年以上の過酷な経験や呪いの声は酷なものだった、
毎晩夜泣きが続き、両親は大層心配した。
3歳になり言葉が発せられるようになった。
以前この世界に初めて転生した時は言葉の習得に、5年かかった。
今現在は、言葉自体は習得しきっての転生なので、もうすでに流調に喋ることが可能になっている。
ちなみに、喋った時の母と父の親バカはとてつもなく、祝いでパーティが開かれたほどだった。
脳の発達もある程度追いつき、体も大きくなってきて、それなりに動かせるようになってきていた。
3歳になり動かせるようになってきたので、魔術が行使できるのか試す。
「 慈悲なる水の盾よ我が前の脅威から、守りたまえ 水壁 【アクアウォール】 」
魔術は発動されなかった。
絶望しかけたが、別の詠唱を始める。
「魔法使いの0番である愚者が命ずる、無知の創造により愚者を解放せよ。 愚者の解放 【フールリリース】」
木造でできたどこにでもある家の中の風景が一変する
家具も何も無くなった、真っ白な空間。
そこにあの時に召喚された人物はいなかった。
部屋の大きさいっぱいに広がる、白い空間の中で魔術の詠唱を行う
「 慈悲なる水の盾よ我が前の脅威から、守りたまえ 水壁 【アクアウォール】 」
魔術が発動する。
手元から水色の魔法陣が出現し、目の前に水の壁が出現した。
瞬間。周りの空間が現実の世界になっていき、水の壁がただの水となり部屋を水浸しにする。
意識が遠くなり、濡れた地面にうつ伏せで頭から倒れこんだ。
その音を聞き付け、母が走ってくると。
家の中が大パニック状態となる。
3歳の子供が水浸しの部屋の真ん中でうつ伏せで倒れているのを目の当たりにすると、心配するのは当然だった。
「頭が痛い・・・」
そう、呟いた。
ベッドの上に横になりながら今日の事を振り返る。
魔法の発動は出来た、魔術の発動も出来た。
俺は魔術は使えるが、魔法を発動した状態でないと魔術を扱えないらしい。
だが、魔法の行使は負担が大きいらしい。
使用するにしても、毎回白い空間が広がっていては、魔法だとばれてしまう。
極力魔法使いである事は隠しておきたかった。
魔法使いは、この世界には22人しか存在しない特別な存在だ。
魔法を扱えるだけで国が血眼になって確保し守りたがるのだ。
国家に1人の魔法使いがいるとその存在をはぐらかすだけである程度の戦争が回避できる。
魔法使いとは、その強さと政治での重要度がとてつもなく高い。
国が絡むと守りたいものが守れなくなってしまう。
能力に気づいたのが前回であれば、愚かにも能力をひけらかし、国に所属する事をしていただろう。
だがこの世界の残虐性を31年間で学んだ俺は国に関わりたくない。
だから、魔法使いとはばれたくないが、方法が分らないため。
日々少しだけ魔法を使い、練習していくことに決めた。
夜が更ける。
魔法を練習したい事もあり
先日両親に一人部屋を希望したら両親は嬉々とした顔で即了承した。
少し傷ついたが、その理由は今理解できたので良しとする。
んーまぁなんだ。
妹に生を授ける儀式みたいなものさ。
3年間空いていたみたいなので溜まるものは溜まるのだろう。
2度目の世界で、妹のテレサは俺が6歳の時に生まれたが。
今回はどうなるのだろう、前回の俺は5歳で一人部屋になったから、
時間で予測するなら来年あたりに生まれるのだろうか・・・。
転生によるタイムパラドックスがどの程度強くなるのかは分からないので判断基準の一つとする。
そんなことを考えているといつもの声が聞こえる。
俺の中の止まった世界。
決して変わることのない世界。
だったはずだった。
「私を探して・・・」
イブがそう答えた。
変わらないものが変化した。
恐怖だった、今にも呪い殺されるのではないかと。
震える口で答えた。
「俺は・・・必ず助ける」
声が止まった。
翌日、イブと出会うために両親に友達を作りたいと申し出た。
勿論快く承諾してくれた。
昼頃になり、イブが紹介された。
イブを見つけ出すのに少し時間がかかると思っていたが運命とは切り離しにくいものなのだろう。
この世界で初めて会ったイブは前世と同じ灰色の髪をしていてその髪は首筋で切りそろえられている。
そんなイブを見ていると。
イブは、青い色の無垢の瞳を涙でにじませ、こちらを不安そうに伺っている。
最初はかなり人見知りをしていたが、こちらも前世の事が原因で何を話せばいいか分からず。
見かねた父が救い船を出してくれた。
「二人とも、町を散策してきてみなさい」
促されるままに町を散策する。
町を散策すると、襲撃した時の事が頭に鮮明に浮かんでくる。
才能に気づけず、イブを失って自暴自棄になり。
目の前の拾えた物が大切だと気が付かずに失った物。
周囲の石レンガと木造の建物の半壊した姿と数々の屍、阿鼻叫喚の叫び声
その姿と声が現実と重なって見える。
フォールは自分の犯した罪と向き合う必要があった。
俺が俯いて考えていると、隣にいたイブが
頭をなでてくれた。
「かなちちょう、かーしゃまがこうちてくれりゅとイブもうれちいからちてあげる」
おぼつかない言語で、俺の頭をなでて慰めてくれている。
その健気な姿に、感謝の気持ちがわいてくるが、同時に最後のイブの姿が浮かび、
申しわけない気持ちに瞬時に変わってしまった。
撫でてくれているイブにお礼を伝えて自分の過去に向き合った。
町中に居る人たちが、石造りの道路を歩いている3歳の二人組を見て優しくしてくれる。
イブの表情は人見知りを発動して強張っているが、泣くほどではない。
優しくされる中罪の意識に苛まれる。
顔は覚えていないが、この中のほとんどの人を俺は傷つけた。
勿論俺が全てを傷つけたなんて大層なことは思えない、自分が傷つけれても
精々5人くらいだ。
だが自暴自棄になり、他人の傷で自分の懐を潤していた事。
周りを傷つけることで、意味のない復讐をしていた事。
これらは、今周りの記憶になくても、自分の記憶には鮮明に残っている。
悲痛な声と優しくしてくれる人々の声が重なって聞こえる。
今更な罪の意識で、足取りが重い自分の手を引っ張ってイブが前に進む。
人見知りではあるものの、探索にワクワクしてその感情がアドレナリンによって誤魔化されているのだろう。
歩いていると、横の路地から人影が飛び出す。
「たしゅけて、ふぉーる」
遅かった。
また遅かった。
イブが攫われた。
攫われたのはすぐ分かった、俺も盗賊時代によく使った手法だからだ。
確かに盗賊からしたら、3歳の二人組が歩いているなんて宝石をセキュリティも無く、誰も見ていない無人販売機で
見えるように販売しているようなものだろう。
俺自身、よく使った人攫いの手法だから分かるが。
イブは大丈夫だろう。
基本的に、人攫いはちょっとした金を稼ぐためにしていた、
だからこそ殺したり傷がつくと商品価値が下がる。
なのでイブは生きているし、極力暴力も受けていないだろう。
イブがとてつもなく暴れてしまって、口減らしのために殴るとかは・・・多分されるだろう。
ただ警戒できたのにしなかったのと警戒が出来ないのとでは同じような文面でも重さが違う
今回は、前者であり、愚かな行為だった。
「いつまでたっても俺は愚か者なのか・・・」
悲観した呟きは誰にも聞こえない心の中で響き渡った。
次の話は、人によっては面白くないかもしれませんが、必要な話なので温かい目でお願いします