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10 美少年執事の誤算

ロデリックが待ち合わせ場所に着くと、マルティナはいなかった。


自分も諸々の準備等で遅くなったつもりなのだが、彼女はそれ以上に時間がかかっているようだ。


と思ったが、地面に何か書き置きがしてある。


「これは...『私は先に行く。そのうち戻る』?」


どうやら彼女は先に来ていたらしい。


文字だけ見るなら、そのうち待ち合わせ場所へ戻って来ると読めるのだが...

本当にそう捉えて良いのだろうか?


「お嬢様! お嬢様! いらっしゃいますか!」


大声を出してみるが、返事はない。

そのうち戻る、という距離にいるなら声は聞こえるはずだ。


まさか、熊や狼に襲われた?


あのお嬢様から剣を取り上げたのは自分だ。

もし、万が一のことがあれば....!


マルティナが暗殺対象だということを忘れ、ロデリックは森の中へ駆け出した。

森の入口に残っていた足跡の方向から、彼女が向かった方角はある程度予想がつく。



「ロデリック」


男の太い声が、森の中を走るロデリックを呼び止めた。


「ッ! ヴァンダー様。何用でしょうか」


ロデリックは足を止めて、周囲を見回す。

木陰から剣を持った目つきの鋭い男が姿を現した。


「貴様、何をしていた」

「た、ターゲットを見失ったため、後を追っています」

「ほう」


ロデリックを疑うような目で見るヴァンダーと呼ばれた男。


その圧に、ロデリックは思わず唾を飲みこんだ。


「彼女は危険です。もし作戦地点へ誘導できず偶発戦闘になった場合、大きな被害が出る可能性があります」


「危険、危険か」


ヴァンダーは剣の柄に手を置き、人差し指で柄頭を叩いた。


「間抜けなお前に教えてやろう。マルティナはとっくに確保した」


「え!?」


地雷の爆発音や戦闘の音はしなかった。

クロスボウの毒矢だけで仕留められたのか?


「何が『熟練の魔法剣士』だ、何が『素手で大木を叩き切る女』だ。

あの女は下級工作員3人に囲まれるだけで、腰を抜かして命乞いしたぞ」


「ええ!?」


「わざわざ上にかけあって『魔封じの鎖』まで用意してやったというのに....

 ただの縄で拘束できるとはな」


そんな、そんなことはあり得ない!

あの女は素手で木を斬れるんだぞ!


「まさしく自分から捕まりにきたような振る舞いだったと報告を受けている。

 誘拐されるための練習でもしてたんじゃないかってぐらい従順で、滞りなく確保できたらしい」


?????????


意味が、わからない。


「貴様は『組織』でも評価されていたようだが...今回のことはすべて上に報告しておく」


「は、はい」


「そういえば『三重複合陣(トリプルコンパウンドフォーメーション)』だったか、あれは何だ?

 いかにも子どもの考えそうな呼び名だが。子どもの遊びでも真に受けたのか?」


「い、いえそんなことは。確かに魔法剣士の一人がそう口にしていました」


「魔法剣士か。確かメスマール家の道場には魔法剣士が何十人もいて、日々研鑽を続けている、だったか? そんな軍隊があれば今ごろここに国が出来てる。

 見たもの、聞いたものは正確に報告しろ。基本すら出来ないのか、貴様は」


「....申し訳、ありません」


あり得ない、あり得ない。

ぐるぐると余計な考えが頭の中を巡っている。


「うぐっ」


混乱しているロデリックに、突然ヴァンダーが蹴りを入れた。

腹を抑えてうずくまるロデリック。


その頭をヴァンダーが踏みつけ、顔の横に封にはいった手紙を落とした。


「お嬢様を守るために抵抗したって言えるように傷をつけておいてやる。感謝しろ」


「あ、ありがとうございます」


「貴様はこの手紙を領主に届けてこい。お使いぐらいはできるだろ」


「うう...で、できます」


ヴァンダーはその返事を聞くと、2、3発蹴りを入れてから立ち去った。


「じゃあな、しくじるんじゃねぇぞ」


「は...はい」


ロデリックはふらふらと立ち上がると、地面に落ちていた手紙を拾った。


『組織』に悪印象を与えてしまった。


何の罪もないお嬢様を罠にはめることまでやったのに、本当に守りたいものすら危ういかもしれない。


重い敗北感を胸に抱えながら、ロデリックは館の方へと足を動かした。


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