序章(中編)
長らくお待たせしてしました。
続き書けました。
龍我と星絆が喧嘩してから数十日が経った。
最初は口も利かなかった二人も、今では挨拶を交わす程度には戻っている。
星絆は相変わらず規則正しく、祈りと学校と部活に励み、
龍我は不規則な生活の中で絵に没頭していた。
その変わらない日常に、美優は胸をなで下ろしていた。
いつものように支度を整え、学校に行こうとする美優と星絆
「「行ってきます」」
二人の声の、ワンテンポ遅れて
「行ってきま〜す」
振り返ると、そこに制服姿の龍我が立っていた。
「りゅうちゃん!? 今日は学校行くの!?」
美優はすごく目をキラキラと輝かせて龍我に近づく
あまりに美優が急接近してきたので龍我はびっくりして少し後ずさりをする
「う、うん・・・部屋に篭ってばかりじゃつまんないし外に出て息抜きした方がインスピレーションが湧いてくるしね〜」
「じゃあ一緒に行こ♪ ねぇ♪ 」
どんな理由であろうと三人で一緒に行けることが嬉しく思う美優は光を差したみたいに笑った。
その勢いに、龍我は思わずたじろいだ
こうして、星絆と美優そして龍我の三人で学校に行くことになった。
学校へ向かう道中、三人の雰囲気はそれぞれ違っていた。
美優は機嫌よく鼻歌まじり。
星絆はいつも通り、制服も髪も乱れなく歩いている。
龍我は両手をポケットに突っ込み、大きなあくびをした。
「美優、今夜だが」
「うん、集まりでしょ」
夜になると、施設では若い信者たちのミーティングが行われる。
美優と星絆は、いつもそこにいた。
「りゅうちゃんも今夜……」
「行かないよ〜」
迷いのない即答だった。
「だから言ったろ。龍我が自分から来るわけがない」
「誘ってくれるのは嬉しいけどさ」
龍我は珍しく真剣な顔で言った。
「こっちもやる事があるんだ」
「……なに?」
「うん、それはね」
龍我は一拍置いて、にやっと笑った。
「寝る!」
美優は目を丸くし、星絆はため息をついた。
「ようやく絵が描き終わったんだ。久しぶりの長時間睡眠なんだよ」
「行くぞ美優。こんな馬鹿、放っとけ」
星絆はそう言って、歩き出した。
「ちょっと星絆」
「なんだよ人が真剣に話しているのに」
龍我は先に行った二人を追った。
そう言いながら、結局三人は並んで校門をくぐった。
三人は学校に着いた後、各教室に向かう
やがて放課後
星絆は部活に向かい
龍我は休んでいた間の課題を提出をするために職員室に向かっていた。
「うん、ちゃんと課題はやってきてますね確認しました」
「ありがとうございます」
担任は、龍我が提出した課題を本人の目の前で確認をしていた。
「少しずつでもいいから、また学校に来てね。
絵が好きなんでしょ? 美術部に入るのも、悪くないと思うよ」
担任は、言い終わってからもすぐには視線を外さなかった。
「はぁ…そうですねぇ、僕は一人で好きに絵を描いてたいんです、要件は済みましたのでこれで失礼します。」
龍我は職員室を後にする
龍我が出た事を確認すると
担任教師の隣にいた生徒指導の先生が話し出す
「全く、なんだあの龍我のやる気のなさは同じ施設の星絆くんと美優くんとは大違いだ」
生徒指導は呆れて言う
「龍我くん成績は悪くないんですけどね・・・」
担任はどこか惜しむように言った
「…人付き合いがもう少し上手かったらなぁ〜」
龍我は教室に戻り帰り支度をしていた。
「りゅうちゃん♪、一緒に帰ろ♪」
廊下を出ると美優はそこにいた
「先帰ってもよかったのに」
「いいの、折角だしみんなで帰ろ♪星絆も連れてね」
そう言って美優は歩き出す。
龍我もそれに続き、部活をしている星絆の元へ向かった。
星絆は他の部員が帰ってる中、一人残って自習練習をしていた。
星絆はサッカー部に入ってる
そんな中、美優が星絆の呼ぶ
「星絆〜そろそろ帰ろ〜」
美優が声をかけると
「あとワンプレーだけさせて」
星絆は額の汗を拭いながら、もう一度ボールを足元に置いた。
「すぐ終わる」
美優は少し困ったように笑って、フェンスのそばで立ち止まる。
「うん、じゃあ終わるまで待ってる」
星絆は無言で頷き、ゴールを見据えた。
自分で決めた最後の一本。
それをきっちり終えてから帰る――それが星絆のやり方だった。
その瞬間だった。
コロコロと転がっていたボールが、横からふわりと浮いた。
「え?」
「いや、待てないから」
星絆が振り向くより早く、龍我が軽く足を振る。
大きくもなく、力も入っていない。
けれど、放たれたボールは綺麗な弧を描き、そのままゴールネットを揺らした。
――ゴン。
一瞬、グラウンドが静まり返る。
「はい、終わり」
龍我はあくび混じりに言った。
「もう十分でしょ。帰ろ」
星絆のこめかみが、ぴくりと動いた。
「……何してんだよ」
低く、押し殺した声だった。
「最後の一本って言ってたからさ」
龍我は悪びれた様子もなく肩をすくめる。
「決まったし、問題ないでしょ?」
星絆は拳を握りしめ、ゴールを見つめたまま動かなかった。
自分で終わらせるはずだった一歩。
日頃から積み重ねてきたルーティンを、他人の気まぐれで断ち切られた。
「……お前は、いつもそうだ」
ぽつりと漏れた言葉は、龍我の背中に向けられていた。
「え? なに?」
「なんでもない」
星絆はボールから視線を逸らし、美優の方を見る。
「帰るぞ」
美優は少し戸惑いながらも、二人の間の空気を感じ取って、小さく頷いた。
それと同時に美優の中に違和感があった。
「りゅうちゃんってあんなに運動神経よかったけ?」
三人が並んで施設へと帰っていく。
その様子を、高い場所から見つめる影があった。
黒褐色の髪を後ろで束ね、
刀を腰に下げ、
桜の模様が描かれた羽織を纏った女。
女は、ただ黙ってその中の一人から視線を外さなかった。
その日の夜
星絆視点
夜中の11時、寮母さんと子供たちは寝室でぐっすりと眠っている
そんな中、若者たちが施設に続々と集まってきている
「おう、星絆!お疲れ~」
「お疲れ様、白井さん」
やって来たのは俺や美優より年が4つ上の男
名前は白井さん
黒髪で短めのソフトモヒカンでふくよかな体型で眼鏡をかけている
俺たちの所属している宗教団体は大きく分けて七つのエリアに分けられていている
教祖は若い世代での活動できるように宗教団体の中にグループ集団を作り上げた。
リーダーは教祖から直々に選ばれ大変名誉なことだ
白井さんは俺たちが所属しているエリアの若者世代グループのリーダーである
白井さんはその迷いのない信仰心が教祖のお目にかかりリーダーに選ばれた
俺や美優のこともすごく気に入ってくれているし俺も親しんでいる
「みんなはもう中で待ってますので」
「分かった行こう」
俺は白井さんを皆の待つ広間に連れて行った
広間では美優を含め八人の若者がすでに座っていた、しかしその中に龍我はいなかった
「みんな、お待たせ、まず最初に神様たちに感謝のお祈りを」
俺と白井さんを含め十人で円になり手を合わせて祝詞を唱える
唱えること30分
祝詞が終わると、広間にはしばらく沈黙が落ちた。
「さて」
白井さんが穏やかな声で切り出した。
「今回は今後の宗教活動とまた新たにお導きした人を話そう」
若者たちの背筋が、自然と伸びる
一人の少女は期待を隠さず前のめりに、また一人は静かにうなずいていた。
「今の時代も超越者のおかげで世界はとても荒れていて不幸の連鎖が続いている。だからこそ神様にお祈りをして教祖様のお導きが必要がある」
その言葉に皆静かに拍手をして小さく「はい」とうなずく
「僕たちが率先して動かなくちゃいけない神と教祖の教えるために」
白井さんの言葉でここにいるメンツは皆やる気に満ち溢れる
「ところで…」
白井さんは視線をぐるっと見渡しあることを問いかける
「龍我はここにいないようだが…」
空気が、わずかに張りつめた。
「また、か」
ある少女が鼻で軽く笑った
「全く大事な集まりなのにも来ないで、何をしているのでしょう」
言葉を発した少女の名は、りな
俺よりは少し年下の少女で、両親ともに熱心な信者の家庭で育った二世信者だ
家では祈りが日常で、
食卓でも、寝る前でも、教祖の教えが当たり前のように語られていた。
だからりなにとって、信仰は「選択」ではない。
生まれた時から正しいと決められていた“常識”だった。
「やる気がないなら、信者でいる意味がないでしょ」
きつい言葉に、ためらいはない。
「全く誰のお陰で生きていられるのか信じられない!!」
信じる者が正しく、
迷う者は未熟で、
信仰を軽んじる者は論外。
――それが、彼女の世界の見え方だった。
「りなちゃん、そんな言い方しなくても…」
隣に座っていたゆきが、小さく首を振った。
声は穏やかで、責める色はない。
「龍我くんにだって考え方や信じ方があると思うの。
来られない日がある=それだけで否定するのは違うかなって」
りなは少し不満そうに眉をひそめた。
「何言ってるの!ゆきちゃん、今までの傾向見れば分かるでしょ龍我にやる気も信仰心もない、形だけ信者が居座ってるだけ!これが真実!自分は恵まれた環境にいるのに」
「うん……そう見えるかもしれないけど」
ゆきは一拍置いて、静かに続ける。
「私たちができるのは、信じることと、祈ることまで。
無理に引っ張ると、かえって遠ざかっちゃう気がするんだ」
その言葉に、広間の空気がわずかに緩んだ。
けれどりなは引かなかった。
「そんなの関係ない!ここにいる以上あいつはここにいる義務がある」
白井さんはとりあえずこの場を収める為に口を開いた
それは迷いのない言葉だった。
「りなの意見は正しい、正しさに向き合わない自由なんて、ない」
白井さんの一言で周りの雰囲気が引き締まった。
「星絆、美優、龍我のいるところに案内してくれ、皆で導くぞ」
そう言って白井さんは立ち上がり、それに続いてりなとゆきと立ち上がり他の信者も立ち上がり出した
美優は龍我にとってこれでいいのかと迷っていたがそんなことは関係ない
俺も白井さんやりなと考えは同じだ
俺も立ち上がり、迷いを振り払うように歩き出し、龍我がいるであろう場所に案内した
「はい、こちらです」
龍我side
学校に帰ってから僕は食事を済ませて
いつもの月の光がめいいっぱい入ってる屋根裏部屋に入り、真っ白なキャンバスを自分の前に立てて、目を瞑り
次は何を描こうかと想像する
この時間がとても好きだ
自分を思い直し向き合い
何を考えているかが分かる
それを形にする
目を閉じると、闇の奥に淡い色が滲んでいく。
言葉になる前の感情。
名前を与えた瞬間に、形を変えてしまいそうなもの。
それらを、ゆっくり掬い上げる。
ここでは、誰にも評価されない。
正しいかどうかも、意味があるかどうかも、考えなくていい。
息を吸って、吐く。
胸の奥に溜まっていたものが、少しずつ静まっていく。
――ああ、落ち着く。
星絆の真っ直ぐすぎる背中。
美優の、光みたいな笑顔。
そして、自分自身の、どこにも向かえない感情。
全部まとめて、キャンバスに置いてしまえばいい。
筆を取ろうとした、その時。
屋根裏へ続く階段の方から、かすかな物音がした。
一瞬、耳を疑う。
この時間に、誰かが来ることなんて、ほとんどない。
……嫌な予感がした。
それでも、今は描きたい。
今、この気持ちを逃したくない。
そう思って、もう一度キャンバスへ視線を戻した――。
ここに描く世界だけが僕を理解してくれる
コン、コン。
屋根裏へ続く扉が、叩かれた。
反射的に、肩が跳ねる。
……やっぱり。
「龍我いるか?」
扉越しに聞こえたのは、星絆の声だった。
どうせ宗教の集まりで僕がいないから
呼んでこいって言われた辺だろう
知らない、僕には僕のやりたいことがある
邪魔しないでほしい
僕は返答をせずにヘッドホンを耳に付け音楽をかけて
絵を描き始めた。
描き始めてすぐだった。
背後から、突然、肩を強く掴まれる。
「っ……!」
ヘッドホンが乱暴に外され、視界が一気に反転した。
「何やってんだ」
目の前にいたのは、星絆ではなく白井さんだった。
「離してください…」
反射的に出た言葉は、思ったより低かった。
白井さんの手を振りほどこうとしたが、掴む力は緩まない。
「無視をするな。下でみんなが待ってる」
「分かってるでしょ僕は行かない」
僕はキャンバスの方に視線を戻す。
まだ、色を置いてもいない。
今ここで離れたら、この感情は二度と戻らない気がした。
邪魔をしないでくれ
「これは大事な集まりなんだ」
ーーー知るかほっとけよ
「俺たちだけの問題じゃない」
ーーー勝手に数に入れるなよ
「……僕には関係ない」
その瞬間だった。
扉の向こうから、足音が重なって聞こえてきた。
星絆と白井さんだけじゃない。
複数人分の、迷いのない足取り。
目を向けて分かった。
白井さんと星絆の後ろに、りなとゆきと美優、そして他の若者たちが並んでいた。
狭い屋根裏が、一気に息苦しくなる。
「龍我」
白井さんは穏やかに笑っていた。
けれど、その目は笑っていない。
「君が来ないと、話が進まないんだ」
「……僕は信者でも何でもないですよ」
そう言うと、りなが一歩前に出た。
「ここに住んでる時点で無関係じゃないでしょ」
冷たい声。
「みんなが真剣に祈ってるのに、一人だけ好き勝手して」
「お前は正しくない」
その言葉が、引っかかった
「正しさってなんだよ」
僕は言い返した。
正直、りなが苦手だ。
価値観は真逆で、何を言っても通じない。
その視線には、いつも見下す色が混じっている。
「信仰は“個人の自由”じゃない」
「みんなで向き合うものなの」
周囲から、小さく同調する気配が広がる。
視線が、圧になる。
そんな中、白井さんの口を開くと全員空気が固まった。
「龍我」
白井さんの声が、低く響いた。
「君の両親は、超越者に殺された」
「赤ん坊だった君を、この施設が保護したんだ」
僕や星絆、美優は、家族を超越者の襲撃で失った。
生き残った僕らは、この施設に保護された。
逃げ場のない事実を、淡々と突きつける。
「君は教祖様に、神様に、返しきれない恩がある」
一歩、近づく。
「それでも君は」
「教祖様と神に逆らう“反逆者”になるつもりか?」
その言葉に僕は無意識に返した。
「白井、お前は僕の両親を殺した所を見たのか?」
反論出来ない言葉で返した。
普段使わないような言葉遣いで
「……は?」
最初に声を上げたのは、りなだった。
「なにそれ……」
笑いかけた口元が、ひくりと歪む。
「見たかどうかなんて、関係ないでしょ」
一歩、前に出る。
龍我と白井の間に、割り込むように。
「事実は事実でしょ」
「超越者に殺された。それで終わりじゃない」
「それを否定するつもり?」
声が、次第に荒くなる。
「自分が助けられたことも」
「今ここにいる理由も」
「全部なかったことにする気?」
りなの視線は、責めるというより――裁くそれだった。
「そうやって疑って」
「向き合わないで」
「お絵描きしてサボって」
吐き捨てるように言う。
「それが許される訳ないでしょ」
周囲の若者たちが、息を呑む。
誰も止めない。
止められない。
「……」
龍我の返事を待たず、りなはさらに言葉を重ねた。
「信じない自由なんて、ないの」
「ここにいる以上、あなたは選ばれてるんだから」
「意味とかなくてもやるの!」
その言葉が合図だったかのように、
誰かが小さく、祈りの言葉を口にした。
一人。
また一人。
低い声が、じわじわと広がっていく。
逃げ道を塞ぐように、
龍我を囲む輪が、静かに閉じていった。
そして白井さんと星絆が僕の腕を掴み
広間に連れてかれた。
「……じゃあ」
白井さんが、そう呟いた。
それだけだった。
「祈ろうか」
誰かに命じたわけでもない。
声を荒げたわけでもない。
けれど、その一言で空気が動いた。
若者たちが、自然と円を描くように位置を変える。
一歩、また一歩。
知らないうちに、僕は中央に立たされていた。
逃げ道は、もうない。
「龍我も、ここで」
りなの声が、背中から突き刺さる。
拒否の言葉を探す前に、誰かの手が僕の肩に触れた。
「大丈夫だよ」
「怖くないから」
優しさの仮面を被った声。
「ほら、目を閉じて」
閉じていないと、浮いてしまう。
閉じなければ、否定していると思われる。
そう理解した瞬間、
僕の身体は言うことをきかなくなった。
喉が、張りつく。
息が浅くなる。
誰かが祝詞を唱え始める。
低く、揃った声。
何度も聞いたはずの言葉。
意味を考えなくても、身体が覚えている音。
耳を塞ぎたい。
叫びたい。
キャンバスの前に、戻りたい。
でも、腕が動かない。
視線を上げると、
全員が、同じ方向を見ていた。
神。
教祖。
正しさ。
その視線の輪の中で、
僕だけが、異物だった。
「……」
声が、出ない。
誰かの手が、背中に添えられる。
押されるわけじゃない。
ただ、逃げられない位置に固定される。
「さあ」
白井さんの声が、真上から降ってくる。
「君も、祈りなさい」
命令じゃない。
選択肢も、まだあるような言い方。
でも、ここで祈らなければ、
“選ばなかった”ことになる。
正しくない側。
反逆者。
そう分類される。
身体が、震えた。
拳を握ろうとしても、力が入らない。
視界の端で、りなが満足そうに頷くのが見えた。
美優は、目を伏せていた。
何も言わない。
何もできない。
星絆は、唇を噛みしめている。
――誰も、止めない。
祝詞の声が大きくなる。
重なり、包み込み、思考を削っていく。
僕は、動けなかった。
祈りたくなかった。
けれど、拒むこともできなかった。
この場所で、
沈黙することさえ、
“参加”として数えられる。
そう気づいたとき、
僕の中で、何かが静かに折れた。
月の光は、もう届かない。
――――――――――――――――――――
翌朝、集会が終わり、皆が帰っていった。
龍我は言葉を発することもなく屋根裏部屋に行き
部屋に入ると、そのままドアにもたれかかった。
龍我は深く絶望していた。
「りゅうちゃん」
その後、美優がドア越しに声をかけてきた。
返事をしない龍我、それでも美優は龍我に向かって話す
「ごめんなさい、守って上げれなくて」
「自分の保身を優先しちゃった、ごめんなさい…ごめんなさい…」
美優は龍我に謝り続けた。
それを星絆はただ黙って見ていたが見るに耐えなくなって
「美優、もう戻りな」
星絆は美優を強制的に部屋に戻させた。
星絆に仕方ないと思っていた。
これは龍我が招いたことだ自業自得だと
正しさを信じる星絆。
守れなかったことを悔いる美優。
そして、何も言えなくなった龍我。
それぞれの思想が、静かに、決定的にすれ違っていた。
数時間後
正午を過ぎ
お昼の時間になり
施設の子供達はお昼ご飯を食べ終え、それぞれが遊びにいった。
美優はご飯の後片付けをして
星絆は昼の祈りに入っていた。
昼も食べずにずっとこもっている龍我が少し心配になる美優だが龍我が身支度をしていてどこかへ出かけようとしていた。
「りゅうちゃん、どこか行くの?」
「うん、近くのショッピングモールで好きな絵師の小さな展覧会があるからそれを観に行くの」
そう言って龍我が出かけようとすると
「ちょっと待って、りゅうちゃん私も行っていい?」
龍我は一瞬、足を止めた。
驚いたように振り返り、少しだけ目を瞬かせる。
「……いいの?」
「うん。星絆は祈りだし、私も今日は特にやることないから」
美優はそう言って、エプロンを外しながら笑った。
どこか、遠慮がちで、それでも逃したくないという顔。
「絵のこと、よく分からないけど」
「りゅうちゃんが好きなものなら、見てみたいなって思って」
龍我は少し視線を逸らし、頬を掻いた。
「……別に、派手な展示じゃないよ」
「小さなスペースで、数点飾ってあるだけだし」
「それでもいいよ」
美優は即答した。
「……じゃあ、一緒に行こうか」
「ほんと!?」
美優の声が、ぱっと弾んだ。
二人は並んで施設の玄関を出る。
昼の陽射しは穏やかで、風も柔らかい。
宗教も、祈りも、正しさも、今はここにない。
ただ、同じ方向へ歩く二人だけ。
ショッピングモールに着き、二人は自動ドアをくぐった。
昼時ということもあり、中はそれなりに人で賑わっている。
家族連れ、カップル、買い物袋を抱えた人たち。
生活の音が、当たり前のように流れていた。
「人、多いね」
美優が少し周囲を見回す。
「休日だしね」
龍我はそう答えながら、案内板に視線を走らせた。
「……あっちだ」
人通りの多い通路から外れ、少し奥まったスペースへ向かう。
飲食店の並ぶエリアを抜けると、急に空気が静かになった。
そこにあったのは、簡易的に設けられた小さな展示スペース。
壁に沿って白いパネルが並び、数点の絵が静かに掛けられている。
「……ここ?」
美優は思わず小声になった。
「うん」
龍我は頷いた。
「多分、今日で終わりのやつ」
派手な告知も、行列もない。
ただ、足を止めた人だけが、絵と向き合う場所。
美優は一歩、展示の中へ足を踏み入れた。
「……不思議な絵だね」
使われている色は淡く、輪郭も曖昧。
それなのに、どこか胸の奥を掴まれる。
「うまく言えないけど……」
美優は絵を見つめたまま言った。
「この絵はね、家に閉じ込められてる人が描いた絵なの」
龍我は、絵から目を離さずに続けた。
「家の決め事で外に出たいのに出られなくて」
「だから心だけが自由になってるんだ」
「……それって」
「説明文にそう書いてあっただけだよ」
龍我は軽く肩をすくめた。
「でも、嘘じゃないと思う」
「どうして分かるの?」
「何となく」
「理屈じゃない」
「閉じ込められてるって」
美優は小さく言った。
「苦しい?」
「どうだろ」
龍我は少し考えてから答えた。
「慣れると、苦しいってことすら分からなくなるらしい」
その言葉に、美優は何も返せなかった。
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
――それでも。
美優は、絵から目を離さずに言った。
「……でも、ちゃんと希望を見てるよね」
「この絵の人」
龍我は、少し驚いたように美優を見る。
「光、描いてある」
美優は指で、キャンバスの隅をなぞるように示した。
「ここ。すごく小さいけど」
確かに、ほとんど気づかれないほどの淡い光が描かれていた。
「外に出られなくても」
美優は続けた。
「誰かと一緒じゃなくても」
「希望は、ちゃんとあると思う」
その光は、今にも消えそうなくらい小さかった。
しばらく、二人は無言で絵を眺めていた。
その時だった。
――ざわり。
展示スペースの外から、微妙に空気が揺れた。
人の話し声。
足音。
それらが、さっきまでとは少し違う。
「……?」
美優が、首を傾げる。
人の流れが、一定の方向に偏り始めていた。
通路の向こうから、こちらへ――
ではない。
こちらから、離れるように。
早歩きの人。
小さく走る子ども。
スマホを耳に当てたまま、顔を強張らせている大人。
誰も大声は出していない。
でも、全員が同じ“空気”を共有している。
「なんか?、様子が変だね」
美優の声が、少しだけ低くなる。
「行ってみよう…」
龍我と美優は、展示スペースの外に出て周りに目をやった。
違和感に気づいたのは、人の流れだった。
昼時のはずなのに、誰も急いでいない。
騒がしくもない。
ただ、皆が同じ方向を避けるように歩いている。
「……りゅうちゃん」
美優が、そっと龍我の袖を掴んだ。
その視線の先で、龍我は足を止める。
通路の中央。
服屋の前。
フードコートへ続く分かれ道。
そこに、黒い軍服の兵士たちが
複数の人を取り囲むように立っていた。
兵士たちは、複数の人間を取り囲むように配置されている。
性別はばらばらで、
その中には、子供の姿もあった。
取り囲んでるのは人類帝国軍だった。
それを隠れるように見守るギャラリーの中に、龍我と美優もいた。
「……りゅうちゃん」
美優の声は震えていた
龍我は美優の手を握り
「大丈夫だよ…」
龍我は僕らに刃が向かれることはない思っていた
ニュースや新聞を見てれば分かる
人類帝国軍がこんな民間施設に現れる目的は1つ
ーー超越者の発見。
捕縛もしくは処分だ
施設内にて、超越者反応を複数確認」
無機質な声が、モール内に響いた。
その言葉を合図にしたかのように、
取り囲んでいた兵士たちが一斉に動く。
足並みは揃い、銃口がわずかに持ち上がる。
――その時だった。
「待ってください!」
一人の男性が、群衆の中から前に出た。
年齢は三十代後半。
手にしていた買い物袋を足元に落とし、
両手を大きく上げて、兵士たちの前に立つ。
「話を……話をさせてください」
声が震えている。
それでも、逃げなかった。
「ここは民間の施設です」
「子供も、一般人もいる」
「武器を向ける必要はないはずだ」
兵士たちは答えない。
視線すら動かさず、ただ命令を待つだけ。
男性は、唇を噛みしめて続けた。
「もし……もし反応が出たのが」
「うちの子だったとしても」
一瞬、言葉に詰まる。
「――危険な存在だなんて、決めつけないでください」
「まだ、何も起きていないんです」
その言葉に、
周囲の空気が、わずかに希望へ傾いた。
男性の言葉に、帝国軍の指揮官が一歩前に出た。
顔は無表情。
感情の温度が、最初から存在しない。
淡々と、しかしはっきりとした声だった。
「超越者は、発生した時点で危険因子です」
「自覚の有無、年齢、意思は関係ありません」
男性は食い下がる。
「まだ何も起きていない!」
「ただの反応なんでしょう!?」
指揮官は首を横に振った。
「反応が出たという事実が、すでに“起きている”のです」
「暴走率は統計上、八割を超えます」
「これ以上、歯向かうのなら帝国への反逆とみなします」
男性に銃口を向ける兵士
「パパ!!」
「動くな」
娘であろう少女が父の名を叫んだが
他の兵士はその少女に冷たく銃を向ける
静かな正論。
逃げ場を塞ぐ理屈。
「我々は超越者の捕縛もしくは処分を行います」
その言葉が落ちた瞬間だった。
取り囲まれていた一人の男性が
ぎゅっと胸を押さえてしゃがみ込んだ。
息も荒くなり、呼吸も早くなってきた。
周囲の空気が歪みだした。
床に、ひびが入る。
照明が、ばちりと弾けた。
「――反応、急上昇!」
兵士の声が上ずる。
男性のこの抑圧されたストレスの限界を超えた。
恐怖。
混乱。
逃げ場のない圧迫。
それらが一気に噴き出す。
次の瞬間――
爆発音。
衝撃がモールを揺らした。
悲鳴。
ガラスが砕け散り、人々が一斉に逃げ惑う。
連鎖反応するように取り囲まれた他の人達も次々と暴走を始めた。
「対象、複数暴走確認!制霊武装の使用を許可」
「殺処分に移行!」
「了解」
暴走を始めた超越者疑惑の人達に向かって帝国兵士が合図1つで動いた。
そこから、帝国兵士が暴走した、超越者達を一般市民に被害が出ないように蹂躙し始めた。
暴走をしてない疑惑をかけられてる人はどさくさに紛れ、逃げようとする
一般市民もパニックになってショッピングモール中大混乱になった。
龍我と美優も巻き込まれないようにとにかく逃げる
逃げる途中、美優と同じくらいの眼鏡をかけた少女が帝国兵士に襲われていた、恐らく彼女も超越者になった対象なのだろう
一瞬目があって助けを求めるようにこちらを見ていた。
「りゅうちゃん…」
美優は分かっているはずだ、助けたら僕らはどうなるのかをけれどそんなこと関係ないと言ってるように龍我を見つめた。
龍我はテンパって逃げてるように装って帝国兵士にぶつかり
その隙に少女を助けて一緒に逃げる
「ほら、行くよ!」
「う、うん!」
逃げてく龍我らを目で捉える兵士
「おい、逃げたぞ追え!!」
当然追いかけてくる
龍我と美優そして、少女の3人は振り向かずただひたすらに走った。
そんなパニックになってる所に更なる展開が起こった。
ショッピングモールの窓ガラスを割って
数は6人、格好もバラバラの集団が現れた。
それを見た帝国兵士がすぐに気がついた、6人のそれぞれの衣類に描かれていたエンブレムに
あれは超越国家のエンブレムだった。
つまり、6人は超越国家の超越者だった。
その中の1人、着流しを着た髪の長い男が5人に指示をする
「全員任務を遂行しろ」
「「「「「はい」」」」」
6人が散って、に行動を開始した。
その内の1人はガントレットを腕に纏い、超越兵士を次々と殴りかかる
「おらおらどうした!どんどん来いやー!」
殴った衝撃で拳の先が爆破して、兵士が倒されていく
1人は巨大な盾を持ち、1箇所に集まっていた超越者疑惑の人達の前に立ち、盾を地面に突き刺し巨大な防護壁を形成した。
「もう大丈夫ですよ、安心してください」
そして、1人は槍を持ち背中に妖精のような羽が生えていた。
風を操り動けなくなった、超越者疑惑の周りの瓦礫をどかし
防護壁の中へと導いた
「こちらに、早く」
他にも指示を出した着流しの男と桜の羽織を着た女性明らかに時代錯誤の2人並んで、腰に下ろした刀に指をかけていた。
「桜月抜かるなよ」
「はい、お師匠」
そう会話を交えたら、2人とも刀を持ち目にも止まらぬ速さで超越兵士を斬り捨てた。
桜月と呼ばれてた女性が上の階にいる、超越兵士に追われてる龍我達を見つけ柱などを伝って2階に行き
龍我達を追ってる帝国兵士の前に立った。
帝国兵士は桜月に攻撃しようとする
桜月は刀を鞘に収め抜刀の構えに入った。
呼吸を整え、集中力が上がり気が高まる
その瞬間桜月の周りに桜の花吹雪が舞う
気が頂点に達した時
「ーーー抜刀術・桜花」
刀を抜いたそして、鞘に収めたら超越兵士が全員倒れた。
龍我達は斬る瞬間一瞬桜の花びらが宙を美しく舞うのが見えた。
斬った衝撃が強かったのか
余波に負けて、龍我達は龍我と少女は一緒の場所に美優は別の場所に離れて軽く飛ばされた。
「りゅうちゃん…」
美優は龍我に手を差し伸べ
「美優!」
龍我は美優に刺し伸ばした
超越者側の最後の1人が立たずんで
「そろそろ、終いだ」
地面に手を当て力を込めたら
地面から結晶が出した。
出てきたびっくりで美優は一瞬目を瞑る、もう一度見開いて
見た光景は想像を絶した。
目の前にいた龍我が結晶の中に閉じ込められていた。
「りゅう…ちゃん…」
美優は信じられなくて結晶に触れようとしたら
地面から出てきた結晶が全て砕け散った。
「そ…そんな…嘘……」
美優はその場で立ち尽くし涙を流した。
「りゅうちゃん!」
――砕け散った結晶の向こうに、
そこには、もう龍我の姿はなかった。
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