神との邂逅
「変装?」
「そうだ。この前俺たちを襲ってきた奴らの持ち物に、ギルドカードがあっただろう。それの持ち主に変装して関所を通り抜ける。」
レグが呆れたと言う顔でこちらを見る。
「あのねえ。私たち、そんな道具持ってないじゃない。」
「大丈夫、そんな時に役立つのが魔法だろ?<幻炎>でレグの頭を変化させるんだ。残りは大きめの布で覆って隠す。」
<幻炎>、対象者を炎で包み姿を変える魔法だ。炎で包むわけなのでこの魔法をかけられた側は熱いが、レグは魔法の属性攻撃が効かない。つまり、<幻炎>をレグにならデメリットなしでかけまくることができるのだ。
「俺は布の中に隠れて関所を通る。声でバレるのは嫌だから話しかけられたら俺が答える。これでどうだ?」
レグが感心したような顔で頷く。
「なるほど。それで行こう。」
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「おい、そこの男。身分を証明するものを見せろ。」
レグが関所で兵士に呼び止められる。
「俺か?ああわかった。ほら。」
手筈通りに布の中から俺が答え、レグが兵士にギルドカードを見せる。
「よし。通っていいぞ。」
兵士が門を開けてくれる。
いいぞ、関所を潜り抜けられる!
その時、レグが焦ったように俺に声をかける。
「おい、右にそれろ。このままじゃぶつかるぞ。」
背後から大荷物を背負った男がこちらにきていたのだ。
焦って動いた俺とレグの歩調が合わなくなる。
「おっと、ごめんよー。」
ドンッ
俺たちを後ろから大荷物を背負った男に衝突した。
やばっ。魔法が乱れて...
体制を崩したせいで魔法がうまく形を保てなくなり、<幻炎>が崩壊した。
「なっ!侵入者だ!獣人が変装して街に入ったぞ!」
カンカンカンカンと鐘の音が響き、続々と兵士が集まってくる。
「門が閉まる前に早く街の中へ入るぞ!」
レグが街へ飛び込み、走るスピードを上げる。俺は必死にレグの後を追う。
「もう一人いたぞ!共犯者だ!」
息が切れて足がもたつく。急にレグがスピードを落とし、 俺の方に近づいてきて、俺に話しかけてきた。
「悪いけど、あんたのことを連れて逃げ切れない。悪いけどここでお別れね。」
「どういう...がっっ!?」
俺はレグに足を引っ掛けて転ばされる。
「せいぜい時間稼ぎにでもなってねっ。」
そういうとレグは急速に速度を上げ、あっという間に俺の視界から消えた。
「一人がこけたぞ!捕えろ!」
俺は抵抗できずにあっという間に拘束される。なんとか脱出しようともがいていると、急に眠気に襲われる。<睡眠>の魔法だろうか。
待て...レ...グ...
俺はその場で意識を失った。
「うーん...」
俺は暗い空間で目を覚ました。
身体中が痛い...。相当乱雑に扱われたようだ。俺は周囲を見回し、状況を確認する。ここは...牢屋か?
俺は硬い床に寝転がって虚空を見つめる。
部屋に閉じ込められるのはもう慣れたものだ。前に入れられた檻よりも広いからか、なんなら快適に思えてしまう。
なんか慣れてはいけないものに慣れてしまっている気がするな...。異世界ならもう何が起きても驚かずに受け入れられる気がしてき...
「よお、お目覚めかい?」
「ひぃっ!?」
背後から話しかけられ、驚きで心臓が止まったかと思った。恐る恐る後ろを振り向く。
「女の子...?」
そこにいたのは今の俺と変わらないくらいの背丈の黒いパーカーで身を包んだ少女だった。
俺は彼女の姿をよく確認して、仰天する。
「う...浮いてる...?」
彼女はニヤリと笑みをうかべる。
「神を見たのは初めてかい?迷える魂よ。」
「神?」
神だって?この少女が?
「おうそうだとも。 まぁ、神は神でもお前らがいうところの"死神"だがな。」
そういうと少女は空中で足を組む。
「お前の魂がこの世界に転生してきた時から接触の機会をうかがってたんだが、俺の力の調整に時間がかかって遅れちまった。」
「な...なんで転生について知っているんだ?」
この世界に来てからなるべく考えないようにしていた「転生」についていきなり話がてたので動揺してしてしまう。
「言ったろ?神だって。」
どうやら本物だと信じざるを得なくなったようだ。
「じゃあ、どうして俺のところにきたんだ?」
「世界に別世界のものが混ざり込むと大抵碌なことにならないからな。それに、お前の魂はこの世界のものとは比べ物にならないほど強い。だからお前を監視にきた。」
俺は監視という言葉に違和感を覚える。
「監視?死神なのに、殺さないのか?」
俺がそう聞くと、彼女は言い淀む。
「いやぁ...それは...。諸事情というやつだ。」
もしかして...
「できない、のか?」
「ギクッ!!!」
あっ(察し)。
「違う!この世界への影響を鑑みて俺の力をこの世界に合わせて弱く設定してるんだ!勘違いするな!」
「ご、ごめん。」
なんか可哀想になったので謝る。
「謝んな!こ、こほん。とにかくしばらくの間お前を監視することにする。万が一何かあったらよべ。じゃっ。」
帰ろうとした彼女を慌てて止める。
「待て、お前のことはなんて呼べばいいんだ?」
「そうだな...」
彼女は少し考えて
「『扉神』とでも呼んでくれ。」
そう言って、トガミは身を翻すとパッと俺の前から姿を消した。
「消えた...」
俺はあまりの出来事にしばらく呆然としていた。
何分、いや何時間経っただろう。いつの間にかきていた一人の兵士が檻の前まで来て扉を開けた。
「外に出ろ。ここから解放する。」幻炎