旅立ち
俺は暗く、狭い場所で目を覚ました。ここはどこだ?耳を澄ますと、周囲から人の声や足音が聞こえる。どうやらここはどこかの街の路地裏のようだ。
あの女どうかしてるんじゃないか⁉︎ふつー10代の子供をいきなり独り立ちさせないだろ!こうなったら先生の元に戻るのは難しいだろう。もう戻りたくもないけどな!
といっても、一人でなんの荷物も持たないまま放り出されて生きていける気がしない。いや、俺は今度こそ自分の好きなように生きるんだ!自分に気合いをいれて恐る恐る外を覗く。人人、人。広い道を歩く大男に、小柄な少女までいる。でっかい斧を担いだ奴から鎧騎士まで。今までずっと森で暮らしてきたから実感が湧かなかったけど俺は今、本当に剣と魔法のファンタジー世界にいるのか!今晩寝泊まりする当てもないけど、興奮のおかげでなんとかなるという根拠のない自信が俺に満ち溢れてきた。目に映る全てが新鮮に見える。酒場に武器屋、あれはなんだ?死んだ目をした人が檻に入れられて売られてるな...あれ?もしかして奴隷商?俺、ああなる可能性があるの⁉︎さっきまでの興奮がたちまち不安や焦りに変わる。心なしかさっきから奴隷商がちらちらとこちらを見ている気がする。少なくとも野宿はやばそうだ。だが、どこかに泊まるにしても金がない。何か金になりそうなものは持ってないのか?ポケットを弄ると、一通の手紙が出てきた。そういえばギルド宛に手紙を先生から預かってるんだった。手紙じゃどうにもならんだろうが!少しでいいから金を渡して欲しかった。先生そもそもお金持ってなさそうだったけど。だがこの手紙も唯一の行く当てだ。なるべく急いで探そう。
ギルドを探していると、不意に背後から「もしもしそこの君。」と話しかけられた。
「僕ですか?」慌ててそちら側に向き直る。「何か用ですか?」
「まあそう警戒しなさんな。あなたがあんまりキョロキョロと何かを探しているようだったから。」
フードで顔を隠した小柄な老人はそう言ってこちらに近づいてきた。
「いえ、少しギルドに用事があって。探してるんです。」
「わしもちょうどそこに用があるんだ。よければ一緒に来ないか?」
正直めちゃくちゃ怪しいが、折角案内してくれると言っているんだ。ついていって様子がおかしかったら撤退しよう。
「お願いします。」
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「ここをまっすぐ進めばギルドに着く。」
「何から何までありがとうございます。途中でご飯まで頂いちゃって。」この爺さん純粋な親切心から俺を助けてくれたようで、ご飯まで奢ってくれた。この世界に来て二人目に喋った人が親切で良かった。この爺さんともそろそろお別れなのか。
急に街の雰囲気が一変した。薄暗くなり、さっきまでいた通行人達も消えた。
「あの...お爺さん?本当にこの道であって...」
俺はセリフを言い切る前に後頭部にガツンという衝撃を感じた。
「え...?お爺...さん...?」
俺は顔に砂利と生暖かい感触を感じながら意識を失った。