プロローグ3
先生は俺に名前をつけておきながら頑なに俺のことをその名前で呼ぼうとせず、自身の名前も教えてくれなかった。彼女が話しかける相手は俺か火の精霊ぐらいだったからそれで困ることもなかったが。彼女は常に何かに追われながら過ごしているように見えた。
次の日、起きてすぐに先生の部屋に呼び出された。
「すいません先生、なんの用ですか?」
初めて入った先生の部屋はとても静かで朝なのに薄暗く、棚に埋め尽くされた謎の手や目からの視線を強く感じた。「せっ、先生?」部屋の奥で何かをいじっている先生に声をかける。「...来ましたね。」彼女はこちらに向き直り、落ち着いた声のトーンで話し始めた。
「あなたの属性は光。これは極めて特殊な属性。あなたはこの属性を持っていることを誰にも知られてはなりません。」
「この世界で魔法を使わずに生きていくなんて無理ですよ!」
「そう。だからあなたには二つの選択肢がある。一つ目はこの森の中で私と一生暮らすこと。」
俺はまだこの世界でまだ何も成し遂げていない。その選択肢は却下だ。
「もう一つは...?」
「あなたの属性をわたしの属性で上書きして火属性を名乗って生きていく。」
「属性の切り替え、そんなことが可能なんですか?」
「通常は不可能。だけど光属性は特殊な属性。可能よ。」
「その光属性の何が特殊なんですか?」
「あなたには関係ないわ。」
いや、俺当事者なんですが。
「どちらかよ。選んで。」
そんなの後者しか選ぶ選択肢がないじゃないか!
「属性を上書きしてください。」
「わかった。だけど属性が変わったらすぐにこの森から出ていって、外の街でくらして。いいわね?」
「よくないです!そんな突然なんですか!」
「時間がないの。言う通りにして。」
そう言うと、先生は俺が喋るよりも先に魔法陣を棚から引っ張り出した大きな布に書き始めた。俺は半ば無理やりその上に乗せられる。先生が魔術の発動に魔法陣を使っているのは初めて見た。それだけ大きな魔法を使おうとしているということだ。
「先生ちょっとま...」
足元の魔法陣から光が放たれ始め、体中を押さえつけられるような感覚がする。
「このままあなたを街へ転移させるわ。転移先の街に冒険者ギルドがあるからそこの受付嬢にこの手紙を渡して。」
そう言って先生は俺に手紙をたくす。
その瞬間、光が一層強くなっる。
「ごめんなさい、ノイル。」
はじめて名前を呼ばれた。
先生が泣いていたような気がした。