昇格試験
あれから七日が経った。
俺はロンドさん達のパーティーに入ってから、彼らが採集や討伐といった冒険者の仕事で宿を開けている間、家事をしたり魔法の特訓をしていた。
「おい、あと一ヶ月もこの暇な時間を持て余すのか?」
トガミがぷかぷかと宙を漂いながら聞いてくる。
ロンドさん達のパーティはあと一ヶ月はこの街に滞在するらしい。
その間、俺は自分の魔法の強化に専念するつもりでいる。
「うるさいな、魔法の特訓もできるし俺に取っては有意義な期間だ。」
俺は座って目を瞑り、周りの魔素を魔力でコントロールするイメージをしながら答える。
実際、俺が出せる火力は今までよりも一段階グレードアップしたような気がする。
気がする、というのは魔法を使っていないからだ。練度不足で魔法の火力がうまく調節できず使うたびに以前の火力でも手が火傷してしまっていたので、さらに火力が上がっているそれをポンポン打っていられない。
「そっちは俺の魂とやらについて少しはわかったのか?」
「全くわからん」
トガミはキッパリと言い放つ。
「なぜか以上に魂が強大で、その影響か知らんが体の治りが異常に早いことくらいしかわからん。」
「それはわかってないのと一緒だろ。」
俺の体の再生力は確かに異常で軽いやけど程度なら一日、重くても三日くらい経てば癒えてしまう。まあ熱いことは熱いし痛いからやっぱり魔法は使いたくないが。
俺は目を開けて立ち上がり、家事のリストを確認する。
冒険者ギルドに魔物の討伐報告書類を提出しに行かないとか。
俺は諸々の荷物を持って家を出る。
出て早々に近所で商売している商人に挨拶された。
「おっ、ノイルじゃねーか。どこいくんだい?」
「ちょっと冒険者ギルドまで。」
「その歳でえらいなあ。これ持っていきな。」
そう言って干し肉を少し分けてもらえた。
ここの人たちはみんないい人だ。ロンドさん達は結構ながくこの街に長く滞在しているらしく、多くの人とは顔馴染みだそうだ。
ちなみに俺以外の人からはトガミは見えていない。よくわからんけど神の力らしい。
干し肉を齧っているうちに冒険者ギルドについた。
そういえば冒険者ギルドに入るのは初めてだ。
入ると、広い上に人の出入りが多く活気にあふれていた。
ギルド内を見ていたトガミが聞いてくる
「ボードにいろんな依頼が貼ってあるが受けないのか?一応ギルドカード持ってんだろ?」
「よく見ろ、依頼の紙にアルファベットが書かれてるだろ?そのランク以上じゃないと受けられないんだ。」
ギルドカードを持っている冒険者はA~Fまでの4段階に強さにランク分けされていて、Aランクは基本的にどんな依頼でも受けられるが、Cランクだとダンジョンに潜ることができなかったり、高難易度の依頼を受けられなかったりする。F最低ランクで、俺みたいに身分証としてギルドーカードを作っている戦闘能力なしで依頼を受けられない一般人だ。
「とはいえ、冒険者は儲かるからな。いつかはランクを上げて依頼を受けれるようになりたいな。」
でも今日はロンドさん達の魔物の討伐報告書類を渡しにきただけだ。
「おはようございます。」
受付嬢のところへ行って挨拶する。
「あら、ノイルさん。おはようございます。なんの用事ですか?」
ここにきたのは初めてなのに、名前を知られている...
それほどまでに冒険者ギルドという場所は人の出入りが多いのだろう。それにしても美人だな...俺の前世の世界なら女優とかになれてそうだ。
「依頼完了の手続きをしにきたんですけど。」
書類を渡してその場で確認してもらう。
「あら?これはノイルさんの冒険者ランク昇格推薦?」
見せてもらうと、確かにロンドさんの字で推薦状が書かれていた。
いつかランクを上げたいとは言ったけど今なのか。まあありがたいけど。
「確かに受け取りました。ランク昇格の件は試験を受けていただく必要があるのですが、あいにく今試験官がいないのでまた後日に来てください。」
まあ、それもそうか。当日にいきなり試験を受けれるわけないもんな。
「わかりまし...」
突然、後ろから大きな声が聞こえた。
「おいおい、そのガキがCランクに昇格?ロンドのやろう、気でも狂ったか?」
話しかけてきた男は酒の入った容器を乱暴にテーブルに置くと、品定めでもするように俺をジロジロ見て、笑い出した。
「ガンツさん!」
受付嬢さんが嗜めるが男は止まらない。
「あははは、無理だよお前が昇格なんて!なんなら俺が試験官になってテストしてやろうか?どうせ無駄なことのために別日にここにくるより、ここで諦めた方がいいだろ?」
カチン
「こう言ってますがこいつに試験官をしてもらうことってできますか?」
受付嬢さんは苦笑いしながら答えてくれる。
「ま、まあ。ガンツさんの冒険者としての実力は十分にありますし、ノイルさんがそれでいいなら可能ですけど...」
「ならお願いします!!あんた、俺の試験官になってください!」
...なんか頭に血が上ってなんも考えらんない。隣でずっと俺を観察してニヤニヤしてるトガミにもイライラしてきたぞ。なんか喋れコノヤロー。
というわけで、案内されたのはギルドの裏のそこそこ広い空間。
ここで実技で試験をするそうだ。
勢いで試験受けちゃった手前いうのはアレだが、だんだん不安になってきた。最近魔法はめっきり使っていないし、今すぐ取り消したい。が、なんか依頼料ってことでガンツとかいうやつに金取られたし引くわけにはいかない。
「試験、取り消さなくて大丈夫かぁ?恥かくことになるぜ?」
...殺す気で魔法撃とう。
「お前、火の魔法が使えるんだってな!嘘つくなら別の魔法にした方がいいぜ?空間型は魔法がわかりやすいからなぁ。」
魔法には大きく分けて二種類あり、体内型は直接自身にかける魔法のことで<身体強化>などの魔法があてはまり、身一つあればいつでもできる。一方空間型は俺の火魔法のように自分の周りの空間に物を生み出す魔法だ。体内型とは違い、使用者の魔力領域内でしか使えない。魔力領域とは魔法使いが魔力を操れる範囲であり、この範囲の拡張には結構な練習が必要だ。
ちなみに俺の魔力領域は半径1.5メートルくらいだ。普通の魔法使いの平均的なサイズもこのくらいなのでこの歳では異常だがまあ普通ぐらいだ。
「まあいいぜ、俺も試験官役を引き受けたからな。魔法を俺に撃ってこい。ある程度の威力だったら合格にしてやる。まあどうせ打てないだろうけどな。」
「はぁ...」
隅っこで試験を見てる受付嬢さんが頭押さえてため息ついてる。巻き込んでしまってちょっと申し訳ない気分だ。俺なんも悪くないけど。
「撃ちますよ?いいですか?」
俺はガンツに尋ねる。
「打てるもんならな。」
ふうーーーー。
息を吐いて目を瞑る。新品の魔法の杖を握り、ありったけの魔力を空中に集めるイメージをして放つ!
「<火球>!」
...え?
目の前がチカチカ点滅し、そのまま俺は意識を失った。
「なっ...!!!」
ガンツの反応は素早かった。
少年から放たれた<火球>とは思えないほどの威力の魔法から真っ先に受付嬢を庇い、結界の呪符で結界をはる。
魔法の威力に耐えきれず、キシキシと音を立てる結界が割れる前に風と雷の呪符で<火球>を相殺し、生じた爆風から防護の呪符で自らと受付嬢を守った。
「......!」
ガンツは驚きで声を失った。
彼の目の前には、面積の半分以上がごっそりと焼け抉れた試験会場と、もはや生きているかも分からない怪我を負って倒れているその原因がいた。




