私の過去
別れよう、家を出ようって何度も思った。
実際荷物をボストンバックに全部つめたこともある。
だけど結局私はこのうちを出てはいけない。
タカから離れることができない。
だって私には帰れる場所がない。
いつでも戻れる実家なんてないのだ。
私が4歳の時に、父が病気で亡くなった。
母は誰かに寄りかからないと生きていけない人で、私が6歳の時に再婚した。
再婚相手は母より10歳も若い25歳の男だった。
男は優しかったが、私が10歳を過ぎてから、やたらと私と一緒にお風呂に入りたがったり、母のいない瞬間を狙っては体に触ってくるようになった。
そんな男の行動に母は気づいていたんだろうと思う。
私にその頃からすごくきつくあたるようになった。
母は女の顔になっていた。
私に嫉妬していたんだろうと思う。
しかし私が12歳の頃に思いがけず母は妊娠した。
私に弟ができた。
弟ができてからは義父は私の体に触ってくることは一切なくなったが、同時に私には一切関心を示さなくなった。
それと同時に母も弟に夢中だった。
義父の関心なんていらなかったが、母からも関心を持たれなくなったのはつらかった。
母の私を見る目は私を「邪魔者」と言っていた。
そんな家には私の居場所はどこにもなくて、私は中学を卒業するとすぐ家出同然に家を出た。
それから年をごまかして、住み込みのバイト、時には男に体を売りながら、何とか今までやってきたのだ。
私はずっと一人だった。
こんな過去のせいで、人間不信になっていた。
恋人はおろか友達の一人もできなかった。
反対に私は人と関わらないようにしていた。
でも私はサイボーグじゃない。人間なんだ。
やっぱり一人は寂しい、悲しい・・・
そんな時にタカに出会った。
タカの目に惹きつけられた。
タカの目は私の目にそっくりだったんだ。
すごく孤独な暗い光を持っている目。
タカも私にそっくりな目をしているのは当たり前だった。
タカは2歳の時に両親から捨てられ、それからずっと児童養護施設で育ったらしい。
そこでは先生による差別、同じ子どもによるいじめなど、心安らげる時はなかったとよく言っていた。
でも何よりつらかったのが、年に1回は必ず他の子どもの両親は養護施設に会いにくるのに、タカの両親はタカに1回も会いに来なかったことだそうだ。
私はタカの気持ちがよくわかる。
タカも私も親に裏切られた。
今も2人はそのトラウマから抜け出せずにいるんだ。
似たもの同士。
だから私はタカにどんなに殴られても、蹴られても、ボコボコにされても、お金を全部むしり取られても、タカと別れる事ができない。
タカを見捨てることはできない。
だってタカが私の唯一の家族だから。
私の分身だから・・・